第8話 転生者の軍隊
「転生者の王ねぇ……」
トイレの鏡に映る金髪の美しい如何にも女神と言った感じの女性が腕を組み悩んでいる、やはり流石の女神様でも転生者の王の話は耳に入って居ない様子だった。
だがそれも無理はない、女神と言ってもこの世界を統べている訳でも無ければ創造した主でも無い、彼女はこの世界に死んだ人の中から選ばれた転生者を送るだけの存在、会社で言う採用担当者みたいな物だった。
「俺はどうすればいい?」
「そうねぇ……取り敢えず黒騎士擬きの言う通りに仲間でも集めたら?私はその黒騎士の情報を集めるから」
そう言い『じゃあねー』と手をひらひらと振って鏡から消える女神、そしてセラスの顔が映った。
仲間を作れ……簡単に言うが五年も人を遠ざけていた俺からすれば転生者を殺す事よりも難しい事だった。
転生者はターゲットと考えると必然的に仲間にできるのは第一転生者かこの世界の住人、だが両者とも仲間にするには少し実力に不安があった。
しかし偽人を出そうにもあの家番をしている姉弟以外に出すとその内魔力不足で倒れそうになる可能性が出てくる、かなり手詰まり状態だった。
「どうしたもんか……」
トイレを出てギルドの酒場の方を見る、1人料理を黙々と食べるカーニャを見ながら次の行動を考えた。
やはりここはターゲットの第二転生者の中から転生者の王を殺すまでの間の裏切り者を作る方が良さそうだった。
そうとなれば黒騎士姿は封印、しばらくの間セラスの姿で居た方が良さそうだった。
「カーニャ、行くぞ」
そう言い料理を丁度食べ終わり満足そうな顔で椅子に座っているカーニャを連れてギルドをクロディウスは後にした。
「糞糞くそっ!」
何故シルバ様が、何故私が生き残って居るのか……代わりに死ねば良かった、私がもっと強ければ助けれた、絶対にあの黒騎士は許せなかった。
溢れる涙が止まらない、悔しい……もっと、もっと力があれば、力があればあの黒騎士を倒せる、だがどれだけ努力してもどれだけ剣を振ろうとも限界は見えていた。
辺りは木々が切り倒され軽い自然破壊状態、心は完全に荒みきっていた。
「力が欲しいのか?」
「誰だ?!」
辺りを見回すが人影は無く隠れる場所も無い、だが声は確かに近くから聞こえてきていた。
「私は転生者に力を授ける者、少女よ、力が欲しいか?」
声質からは男としか判断出来無い、声の主は一体何が望みなのか……様々な可能性を予測するが分からなかった。
ただタイミングが良すぎる、少し探りを入れる必要があった。
「何が望みだ?」
「望みは一つ、仲間になる事さ」
「仲間?何が目的なんだ?」
「目的は2つ、この異世界を転生者の物にする事、そして黒騎士を始末する事だ」
黒騎士、その名を聞いた時には既にセイラの心は決まっていた。
「仲間になる、だから力を頂戴」
「良いだろう……我が転生軍へようこそ」
姿形は見えずとも彼が笑って居るのは容易に想像がついた、そして不思議な感覚が体に流れ込みセイラは気を失った。