第11話 過去篇その11
「ラインハルト……リーシャを宜しく頼んだぞ」
「大丈夫ですよアーノルドさん、今回は軽い任務、すぐ戻りますよ」
そう言って手を振りリーシャの手を引いて歩いて行くラインハルト、その背中をアーノルドは暗い表情で見つめて居た。
何か起こる気配がする……エスフィルネの様子が今日は少しおかしかった。
頭を押さえて実験室を出るエスフィルネの姿が焼き付いて居る……ふとアーノルドは空を見上げると、街の中心部に大きな雲の渦が出来ている事に気が付いた。
「なんじゃ……あれは」
見たことの無い現象、最上級雷魔法でもあれ程の雲は生成出来ない……雲は街を覆って居た。
渦の中心から紫色の柱が地面に向かって伸びる、そしてその瞬間空から白い物体がいくつも落ちてきた。
白い物体は宙を舞いやがて地面に叩きつけられる、するとその白い物体はバラバラに砕け散った。
「な、なんだこれ……」
アーノルドの近くに居た市民が白い物体に近づいて行く、だが嫌な予感がしてならなかった。
市民が白い物体を触ろうとした途端、白い物体は集合し、一体の骸骨になった。
「うわぁぁ!!」
男は叫び声を上げ逃げようとする、だが骸骨に捕まると骸骨の腕が男の身体の中に入り、白い靄のようなものを取り出した。
するとうるさかった男は魂を抜かれた人形のようにその場に転がった。
「これは、死の魔法……」
取られた魂が中央の紫色の柱に吸い込まれて行くのをアーノルドは無言で見つめて居た。
「あれ……私は」
首を刺して自害した筈……だが首元を触ってみるが傷は無く、生きて居た。
それに加えて辺り一面が吹き飛んでいる……どう言う事なのだろうか。
上を見上げると黒い雲がこの街を覆って居る、そして自分はその中心に……まさかとは思うが、これは黒魔法なのだろうか。
ゆっくりと起き上がると紫色の壁に触れる、するとバチっと言う音と共に火花を散らしエスフィルネの手を弾き飛ばした。
「出られない……一体どうすれば」
恐らく発動条件は自身に及んだ死の危険、だがこれを消す方法が分からなかった……それにさっきからこの自身が居る柱の中に吸収される白い物体、これは何なのだろうか。
ここからどう出るか……それを考えて居ると一人の兵士がこちらに駆け寄って来た。
「エスフィルネ様?何故そこに?」
名も知らぬ兵士がそう告げるがそれが分かれば苦労はしない、『分からない』そう告げようとした時、兵士から突然生気が感じられなくなった。
「どうしたの?」
壁越しに尋ねるが何も答えない、すると兵士はその場に倒れ、後ろから骸骨が現れた。
「な、何これ?!」
驚きで尻餅をつく、すると骸骨は手に握って居た白い靄を離す、そしてそれは柱に吸い込まれ雲の中に流れて行った。
空を見上げて冷静になる、さっきは驚いたが良く考えればこれは黒魔法……となればあの書物に答えが載っている筈だった。
だが自分は此処から出られない……その時、良いタイミングでアーノルドが現れた。
「エスフィルネ、大丈夫か!?」
息を切らしているアーノルド、その姿はボロボロだった。
「アーノルドさん、大丈夫なんですか?」
「儂の心配は要らん、それとリーシャはこの国の外じゃ……お主は何の心配もせんで良い」
そう告げるアーノルド、何の心配もしなくていい……そう言われるが今私のせいで国民が死んで行っている、心配しない方が無理だった。
「アーノルドさん、この魔法を止める方法が多分書庫に!」
「良し、分かった!すぐ戻る!」
そう言ってエスフィルネの前から去る、街は地獄絵図だった。
屋根伝いに城へと向かうが街は死体か骸骨ばかり……これはエスフィルネが悪いのでは無く、その封印を弱めた王カラサスティンのせいだった。
だが暴走するタイミング的には今が良かったのかもしれなかった、今この国には第七位階のメンバー全員が居る、何とか国民の被害は最小限に押されられそうだった。
アーノルドは一刻も早くこの魔法を抑えるべく書庫に向かう、すると机の上に置きっぱなしになって居る蒼の瞳を持つ魔女と言うタイトルの書物を見つけた。
「これか……」
書物を手に取り中身を確認する、蒼の瞳と呼ばれる由来やその歴史はどうでも良かった、今は止める方法……その時あるページに衝撃的な言葉が書かれて居た。
『黒魔法、インディスへの貢物』
そう題名が書かれ、その効力がその下に載っていた。
国一つを覆う程の雲を、術者を中心に出現させる、この術は術者を覆う紫色のバリアが消えれば消える。
この魔法は骸骨を雲の中にある魔の穴から出現させ、術者以外の人をターゲットに魂を奪う、そして奪った魂は一個につき一年、術者の寿命となる……そう記されて居た。
何ともふざけた魔法、だが消す方法は分かった……それだけでも収穫だった。
急いでエスフィルネの所へと戻ろうとする、だがその時骨がぶつかり合いカタカタと言う音が聞こえた。
「む、こんなところにもうか……」
そっと本棚に身を潜める、恐らく紫のバリアは一筋縄では行かない……体力は温存しておきたかった。
だが骸骨は空気を読まず……いや、読んでと言うべきか書庫に入ってくる、そして何かを探すように辺りの隙間を隈なく探して居た。
不自然……あの骸骨に目など当然なく、五感すべての機能が失われている筈、なのに何をどう探しているのか不思議だった。
試しに近くにあった本を自分がいる場所とは逆に投げる、するとバンっと言う音がなると共に骸骨は走って行った。
「成る程……視覚は分からんが聴覚はあると」
そう言って隙間から出ると外に出ようとする、その時もう1匹の骸骨が出るタイミングと同タイミングで入ってきた。
「まずい!」
骸骨の手が伸び、体の中に入る前に倒そうと拳を握りしめる、その時骸骨は魔法により粉砕された。
「アーノルド、年老いたか?」
「お主に助けてもらう程老いぼれちゃ居ないわい」
杖を持ち余裕の表情でやってきたシャフリン、彼にそう言い放つと死の魔法を消す方法を伝えた。
「成る程……一定量の衝撃が必要か、となれば伝説の魔神、武神タッグ復活かの」
「じゃな、」
互いに笑って言うと近くで復活した骸骨兵を一瞬にして両者の拳と魔法で消し去り、こんな状況にも関わらず楽しげな表情で外に出て行った。