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転生者狩りの騎士と奴隷の少女  作者: 餅の米
第4章 黒騎士の過去編
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第8話 過去篇その8

「凄い光景ですね」



目の前に広がる兵士の海、その光景に素直な感想を述べるユーリ、崖の上から細い峠道を通るオージギア軍を見下ろすが数がかなり多かった。



恐らく3000ではない、500人くらい余計に多かった。



だが此処を突破されればクーロディリの国は滅ぶ……せめて援軍が来るまでの時間稼ぎだけでもならなくてはならなかった。



「それじゃあ一番は俺がもらうぜ」



そう言ってシリズが兵士の海に飛び込んで行く、彼が着地すると辺りの兵士が衝撃で吹き飛んで言った。



「それじゃあ私も行こうか」



そう言ってレイブラも降りて行く、だがユーリは鎌を肩に担いでいた。



「行かないのか?」



「あんた馬鹿?こんな所から飛び降りたら足折れるわよ、あんな筋肉バカと私を一緒にしないでくれる」



そう言って迂回ルートを歩いて行くユーリ、確かにその通りだと思い白斗も彼女について行った。



迂回ルートを降りるとそこは丁度兵士達の進行方向、そして白斗達を見つけるや否や兵士は次々に雄叫びをあげて突っ込んできた。



「やるよ」



「あぁ」



各々の武器を構え兵士を迎え撃つ、剣を交わし、攻撃してきた兵士の体を切り裂く……不快な感覚、だが殺さなければ殺される……白斗は必死だった。



エスフィルネの事を片時も忘れずに兵士達をただ殺して行く……ふとユーリの方を見ると恐怖を感じた。



「恐れなさい、逃げなさい!あんた達に勝ち目は無いのよ!」



鎌を振り回し兵士達を真っ二つにして行く、その表情は恍惚で、とても興奮していた。



人を殺す事で感じている性的興奮、その様に白斗は恐怖の感情しか抱かなかった。



狂っている……だが今は戦闘に集中しなければならなかった。



剣を否し、カウンターを入れる、だが数が多過ぎた。



幾ら強くても数で来られればいずれ傷つく、ユーリも白斗も徐々に傷が増えて言った。



「ちっ、私に怪我を……まぁ別にいいけどね」



そう言って鎌を振るうと3人の兵士があっという間に生き絶える、何だろうかこの感覚……人の死に慣れてきてしまっていた。



「くっそ、数が多すぎる!」



「耐えろ、耐えるんだ!」



シリズとレイブラの苦しげな声も聞こえる……だが兵士達の数は減らず、4人は中央に追い詰められ、兵士に囲まれた。



「どうするレイブラ」



「私に策が思い付くとでも?」



「レイブラ昔から馬鹿だもんね」



「ハッハッ!言えてるぞユーリ」



「うるさい!私を馬鹿にするな!」



最悪の危機的状況でも笑って居られる彼ら、気が狂ったのかと周りの兵士達はそんな視線を送る、だがそれは違う……国の生き方を彼らは忘れて居なかった。



どんな時でも明るさを忘れず生きる……全く、こんな時まで明るいとは何処までも強い人達だった。



「じゃあな……お前ら」



そう言ってシリズは3人を掴み規格外のパワーで国の方面へと投げた、そして1人残ると斧を構えた。



「俺の名はシリズ、この大陸では無い異大陸出身の……斧使いだ!!」



そう言って大地を裂き、地を揺るがす……その光景を投げられて舞っている空中で見て居たレイブラは叫んだ。



「何をしているシリズ!!婚約者が居るのではないのか!!」



遠ざかるシリズにそう叫ぶ、その言葉が届いたのかシリズは呟いた。



「婚約者……メイリーン、すまねぇな」



そう言って斧を振り回す、周りの兵士を次々となぎ倒して行くが次第にシリズは兵士達に距離を詰められた。



槍を刺され、剣で斬られ、弓矢に射抜かれる……だがシリズは倒れなかった。



「俺の命、ただでは尽きん!!」



最後の力を振り絞り地面を斧で叩きつける、すると辺り一帯に亀裂が入った、そして細い一本道を囲って居た壁が次第に崩れて行った。



白斗達は森の手前に着地すると急いでシリズの元へ行く、だがそこにはもう誰も居なかった。



あるのは死体のみ、最後の一撃で地形を変え……兵士を岩の下敷きに、その強さ……凄まじかった。



「シリズ……」



「シリズさん……」



唇を噛み締めるレイブラと何処か遠くを見るユーリ、少ししか関わりは無かった、だが彼の男らしさや正義感溢れる言動……しかと胸に響いた。



ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー



この件でオージギア軍は2900の兵を失い、手痛いダメージを受けた。



それに加えてこの峠はもう使用出来ず、侵攻ルートを絞る事も出来た……この戦いでシリズがもたらしたものは大きかった。



「我が国の英雄にして、友のシリズに……冥福を祈ろう」



城内に増えてしまった墓石、シリズの家族や関係者、七位階の一位を除く全ての人がそこには居た。



「あなた……なんで私より先に……」



墓を抱きしめるように無く女性、彼女がシリズの婚約者……気の毒だった。



「あーぁ、言い争いする相手が居なくなったなぁ」



葬儀が終わり、城の屋上で街を見下ろす、レイブラのその声は震えて居た。



「畜生……いずれ死ぬのは分かって居たのに、涙は見せないって言ったのに……くそ……」



「レイブラ……」



彼女の足元がポツポツと降り始めの雨のように濡れて行く、ギュと拳を握り締め泣くのを我慢して居た。



「レイブラ、仲間の死を悲しむのは悪い事じゃない、泣きたければ泣けば良い」



「シャフリン様……」



屋上に上がってきたシャフリンの言葉を聞いて目に涙がより一層溢れて来るレイブラ、そして堰を切ったように泣き出した。



「よしよし、お主らは儂の子供のようなもんじゃ……悲しければ泣け、その悲しみは儂が受け止めてやる」



泣き叫ぶレイブラ、その様子を白斗はただ黙って見て居た。



戦争のもたらすものは悲しみ……それを良く分からされた戦いだった。

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