第7話 過去篇その7
気がついた頃には俺は天を仰いで居た。
「ま、そこそこって所ね……まぁ弱いには変わりない、私と対等に渡り合えたら認めてあげる」
そう言って剣を投げ捨て去って行くユーリ、彼女の強さ……いや、技術には驚いた。
パワーを重視して攻撃したそのパワーをそっくりそのまま弾き返し、その上自身の力も上乗せする攻撃……今回は完敗だった。
「ユーリが副団長なのは単純に馬鹿で団を指揮させない為、第七位も年齢的な未熟さを考慮した上でだから実質彼女の強さは私達以上だ」
倒れて居る白斗に手を差し伸べながらそう説明するレイブラ、あの強さなら納得だった。
「俺もまだ未熟だな……ちょっと街を歩いてきます」
そうレイブラに告げると街に行く、街の人々は相変わらず元気で活力に満ちて居た。
アーノルドに教わって確かに強くなった、だが精神的にはまだまだな事をユーリに教わった、自分より一つしか違わないのに彼女はちゃんと自分の信念を持っているのをあの一撃に感じた……悔しいが彼女の方が全てにおいて今は俺よりも上だった。
だがこのまま終わる訳には行かない……いずれチャレンジしてやるつもりだった。
そう心に決めると、何処に行こうか悩む、するとその時一人の兵士がこちらに向かってきた。
「白斗さん、緊急招集です!」
その声色はかなり急ぎの様子、白斗は分かったと伝えると走り出した。
何があったのかは凡そ予測がつく……恐らく戦争だろう。
第七位階が集まる部屋に行くと既に一位と三位を除く皆んなが深刻そうな顔で集まって居た。
「白斗も来たか……端的に言う、オージギアがこちらに向かっている」
「お爺様、ならば向かい打てば?」
「こちらには第七位階が居ますし大丈夫ですよシャフリン様」
ユーリとシリズがそう言う、だがシャフリンは首を横に振った。
「大部隊をオージギアとの中間地点にある東のアルデ草原に向かわせてしまった……奴らはそれを分かって迂回ルートを通ってこちらに向かっている、今から引き返させても伝令がいくまでに時間が掛かる……」
「なす術無しですか……」
明るかった1回目とは真逆の第七位階……この国に敵軍が攻め入る、それは何としても避けたかった。
「シャフリンさん……敵軍は凡そどれ程ですか?」
「3000と言ったところじゃな」
「場所は?」
「アンデ峠、此処からやや東北に50キロの地点じゃ」
3000の兵士……かなりの数、だがそれでもエスフィルネを守る為、白斗は覚悟を決めた。
「3000の兵士を壊滅させたら……俺ヒーローっすね」
笑って第七位階のメンバーにそう言う白斗、その姿に第七位階メンバーは呆気を取られた。
この国の人間でも無い奴が命を懸けて守ろうとしている、その姿に心動かされたレイブラは立ち上がった。
「私も行けば1500ですむ」
「ったく……俺も行きゃえっと……」
「1000でしょ、私も行く、私も行けば1人1殺でも良いんだよ?」
そう言ってシリズ、ユーリが立ち上がる、それを見て思わず白斗は感動で涙が出そうだった。
「白斗1人を英雄にする訳には行かない、この戦いで4人が英雄になるんだ」
その話を聞いていたシャフリンが立ち上がる、そして白斗だけについて来るよう伝えた。
何事なのか……その表情は険しい、螺旋階段を降りて1階に行くと奥にあった地下へと続く部屋を開け、白斗に待つよう言って下に消えていった。
一体何をするのか、暫く真っ暗な地下を見つめていると後ろから不意に声がした。
「白斗、大丈夫?」
聞き覚えのある透き通った綺麗な声……エスフィルネだった。
彼女には知られず行きたかった……だが何はバレる、仕方なかった。
「ハッキリ言って恐怖はある……でもお前が大好きな国の為だ、俺は大丈夫」
強がってそう言う、恐怖はあると言ったが正直恐怖しかなかった。
戦争なんて物は初めて、人を殺したことも無いのにいきなり戦争……怖くて仕方が無かった。
自分が殺されるのでは無いのか、死んだ人に恨まれたらどうするか……始まっても無いのに様々な不安が頭を過る、その時エスフィルネが後ろから抱きついて来た。
「私は待ってる……白斗の為にご飯作って待ってるからね」
そう言ったエスフィルネの言葉に震えていた身体は止まった……確かに人は殺したく無い、だが彼女を、彼女の愛する国や仲間を殺そうとする奴らは俺が許さなかった。
「ありがとう、覚悟が決まった……エスフィルネ」
「いい顔つきになったの……」
地下から黒い剣を持って出てくるシャフリン、彼の存在に気が付きエスフィルネは離れると手を振り自室へと戻って行った。
「その剣は?」
「黒鋼の剣、決して折れることの無い魔力が篭った剣じゃ……それをお主に渡す、決して折れることの無い信念を持ったお主にな」
そう言ったシャフリン、だが折れ無い信念……そんな物を持っていたか白斗は考えた。
信念……その時揺るがない一つの想いを思い出した、エスフィルネを守る事、それを思い出しこの剣を渡された事が納得いった。
「必ず……この国を守ってみせます、シャフリンさん」
「任せたぞ、若き戦士よ」
その言葉だけを交わすと城を出て街を駆ける、そして街を出ると城門で3人が待っていた。
「遅いぞ白斗」
「すまないレイブラ、皆んな」
頭を下げて謝ると3人の装備を見る、レイブラは3本の剣を、シリズは大きな斧を、ユーリは鎌を……3人だけだと言うのに凄い安心感、心強かった。
「それじゃあ行くか!」
シリズが合図を出すと草原を駆ける、戦争が起きる日って言うのは決まって晴天……そして今日も、全くため息が出る。
先行するシリズ達から少し距離を取って走る、気配感知に至っては何故か俺が一番長けていた、周りを警戒し尖兵が居ないかを探す、だが今のところ大丈夫だった。
暫く走るとアーノルドのいた森とは真逆の方向にある森に到着する、そしてそこでシリズ達は止まった。
止まった理由はもう言わなくても分かった、敵の気配……しかも最初の敵だと言うのにかなり強敵の気配だった。
「どうする、敵は此処を絶対に通る、待ち伏せるか?」
「いや、敵もこちらに気が付いてる」
時折感じる殺気、恐らく向こうも気づいているぞと言うサイン……これは待っていても無駄の様だった。
とは言え全員で行けば何人か此処を抜ける危険性もあった。
「2人、此処に残そう」
そう言うと白斗は誰を中に連れて行くかを見定める、気配感知に長けた自分は行くとして……此処はレイブラが良さそうだった。
この森は見た感じ木々の感覚が狭い、つまり身軽な人がいいと言う事、デカイシリズは論外……ユーリは大きな戦力、最後の砦として残って欲しかった。
「レイブラさん、良いですよね?」
「無論だ、そうと決まれば行くぞ!」
そう言って足早に森の中へと入って行く、森に入ると直ぐにシリズ達は見えなくなった。
それにしても木々が邪魔だった、満足に走れない……だがもうその必要も無かった、敵は近い。
「レイブラ、来るぞ……」
「あぁ」
両者とも剣を構えて辺りを警戒する、すると前方の木々が次々と倒れ大きな男が現れた。
「てめぇらがクーロディリスの兵士か、弱っちそうだな」
シリズよりも大きい、手で8メートルほどの木をいとも簡単にへし折って道を作るとこちらに近づいてきた。
「ゼルス、あまり森を破壊するな……我が剣が泣いている」
黒髪ロングの少女が後ろからヒョイと出てくる、敵の尖兵はどうやら2人……これが意味するのはかなりのやり手という事だった。
「白斗、女は頼んだ……私はデカブツをやる」
「分かった、そこの女、掛かって来い」
そう言って剣を抜く、そして攻撃をしようと足を動かした瞬間地面から根が生え足を縛った。
「なんだこれは……」
「それは根、我が剣の力……この剣は森の力を借りる、つまりこの森は我が武器」
面倒くさそうな敵、まさか能力を持つ剣があるとは思わなかった、足を縛られている間にもレイブラは熾烈な戦いを繰り広げている……こちらも負けてられなかった。
「根か……だが剣で切れれば問題ない」
そう言って根を切ると感覚が狭い木々の幹を蹴って移動する、少女はその身体能力に驚きはしたが直ぐに剣を抜くと地面に突き刺した。
「根よ、我が同胞を蹴るあの男を突き刺せ!」
地面から大量の根が出現し、白斗目掛け攻撃をして来る、だがそれを全て剣で切ると一瞬にして少女との間合いを詰めた。
「は、速い……」
「当たり前だ、つらい修行の成果、これぐらいじゃ困る」
少女が動かない様、剣を向けながら彼女の剣を蹴り飛ばし手の届かない位置に飛ばす……こうしたは良いが、彼女をどうするか白斗は迷っていた。
「お願い……殺さないで」
泣きそうになってそう懇願する少女、その姿に白斗は覚悟を決めたはずなのに殺すのを躊躇った。
外見からしても同い年かそれに近しい年……そんな彼女の未来を俺が断つ、それが怖かった。
剣をゆっくりと下ろす、すると少女は走って剣を取りに行った。
「馬鹿が!敵の命乞いに耳を貸す奴がまさか戦場にいるとはな!死ね!!」
突然の事に思考が止まる、だが避けなければ危なかった。
そう判断した頃にはもう剣は目の前、その時レイブラが少女を蹴り飛ばした。
「くっ……」
そう言って木にぶつかり倒れこむ少女、そしてレイブラは彼女に近づくと無慈悲にも剣を突き刺した。
そして剣を抜くと手を合わせる、そして白斗の方を向くと足早に近づき、そしてビンタをした。
「甘えるな!戦場で偽善者ぶる気か?人の命を絶つのが怖い?それならばお前が死ね!お前はエスフィルネを守るんだろ?なら覚悟を決めろ!じゃないとこの先死ぬ!」
レイブラの鬼気迫る表情にけおされる……確かに彼女の言う通りだった。
戦争とは命をやり取りする場でもある……自分の命を守るため皆必死に戦う、そんな中敵の命を心配すれば確実に死ぬ……俺が死ねばエスフィルネは悲しむ、そんな顔は見たく無かった。
「ありがとうレイブラ……2人を呼ぼうか」
「あぁ、良い面になった」
笑って親指を立てそうレイブラは言うと2人で元来た道を戻って行った。