第6話 過去篇その6
「うん、良い料理だなうん、美味しいなうん」
うんが連発される。
見栄えに騙された、手際よく作る後ろ姿に味を期待したがそれは間違い、絶望的に不味かった、だが目を輝かせておいしいと言ってくれるのを待つエスフィルネにそんな事言える訳がなかった。
「良かった!そうだ白斗は住む所無いんだよね?」
「まぁ、無いっちゃ無いな」
「じゃあ私の部屋に住めば良いよ!」
いつになく積極的なエスフィルネ、嬉しい申し出だがこの前の緊張して眠れない事も考えると少し躊躇した。
それに恐らく部屋に住めばこの料理が毎日出てくる……それは勘弁だった。
だが住む場所が無いのは本当の事、それに探すにしろ時間が掛かる……少しの間なら良いかも知れなかった。
「じゃ、じゃあ部屋を見つけるまで住ませてくれないか?」
「えー、なんでなのー?」
頬を膨らませてむくれるエスフィルネ、可愛すぎて死にそうになったが何とか理性を保った。
「俺はいずれ戦争に出る、すると他国から暗殺を狙われるかも知れない……だからお前に危険を及ぼしたく無いんだ」
「んー、それならしょうがないかぁ……白斗も私の事考えてくれたんだね!」
そう笑顔で言うエスフィルネ、その瞬間ノックする音が聞こえた。
「お二人さん、ラブラブだね」
開いているドアをノックしてドアにもたれ掛かっている赤髪の女性、レイブラだった。
「あ、レイブラさん、どうしたんですか?」
「いや、少し手合わせを頼もうと思ってね」
そう言って剣に手を置くレイブラ、第七位階の実力は仲間として知っておきたい、これは良い申し出だった。
「分かりました、何処でやりますか?」
「そうだな、中庭にある修練所でやろうか、あと敬語はやめてくれ、なんだか気持ちが悪い」
そう笑って言うレイブラ、心配そうな顔をするエスフィルネに大丈夫と言うと白斗はレイブラについて行った。
螺旋階段をレイブラの散歩ほど後ろを歩き下る、それにしても一つ、どうしても疑問に思う事があった。
それは何故異国の民とされる俺をこの第七位階の人々は受け入れるのか……敵国のスパイとも限らないのに、それが知りたかった。
「レイブラさん、一つ聞いても?」
「さんも要らない、で……なんだ?」
「何で異国の俺を受け入れるのか気になって、スパイとも限らないだろ?」
「ふむ、それは君がスパイと受け取っても?」
そう言い怖い顔をして剣に手を掛ける、不味い発言をしたと思い白斗は慌てて首を横に振った。
「冗談だよ、そうだな……少なからず私はお前を悪いやつとは思わない、エスフィルネが心を許したんだ、それだけの器を持つと言う事……ただそれだけさ」
白斗の反応に笑い、そう言うレイブラ、エスフィルネが心を許した……どう言う事なのだろうか。
「エスフィルネに何が?」
「白斗も知っているだろ?エスフィルネはこの国に嫌われている、勿論第七位階の皆んなは好きだぞ?明るいし可愛いやつだ、妹みたいで面倒を見たくなる……だがこの国の兵士はそうは思わない、過去に彼女の力が暴走した時に大勢の死者を出したからな」
「エスフィルネが……」
黒魔法を使う事は分かっていた……だが彼女が人を殺めて居たとは知らなかった。
だがそれでも気持ちは変わらない、エスフィルネはエスフィルネ、嫌われ者の魔女でも化け物でも無い、俺が愛したただ一人の女性だった。
「まぁ暗い話はこれくらいにして……ほれ、木の剣だ」
修練所に着くや否や、大量に並べられた木の剣の中から一つを白斗に投げる、それを受け取ると白斗はレイブラから少し距離を取った。
空を見上げると相変わらずの晴天、太陽が眩しかった。
「ルールはどうする?私的には全力で手合わせ願いたいからギブアップ制が良いな」
「じゃあそれで行きましょうか」
「了解、じゃあ……全力で行かせてもらうよ!!」
そう言って二本の木刀で殴り掛かってくる、素早さは流石神速の剣技、とてつもないものだった。
だが一撃が軽い、白斗が剣で受け止めると力で押し返した。
すると剣を投げてくる、それを弾き返すと死角に入り込んで居たレイブラが素手で殴り掛かって来た。
それを右腕で何とかガードする、その際に剣を落とすがレイブラの腕を掴むと放り投げた。
「凄い力だな白斗、これなら筋肉バカのシリズよりも強いんじゃないのか?」
そう言って落ちた剣を拾い上げるレイブラ、彼女の腕を握った時に分かった……彼女も凄い筋肉をして居た。
この一年で鍛え上げられた白斗の肉体も凄まじいものだが彼女の肉体のそれに引けを取らなかっ。
「だーれが筋肉バカだ、そう言うお前もかなりの筋肉馬鹿だろうが」
突然背後が暗くなり、声がする方を振り向くとシリズが居た、相変わらずの巨体、何を食えば此処まででかくなるのだろうか。
まるで180ほどある自分が子供の様、彼の筋肉は見ただけで分かるタイプの筋肉だった。
一方レイブラは絞られた筋肉、機能に違いがあるかは知らないが見た感じだとシリズの方が強そうだった。
「白斗だっけ?中々強いじゃないか、隊長クラスは余裕であるぞ」
「そうですか?」
シリズの言葉に少し照れる、やはりアーノルドに教わって正解だった、短期間で此処までの強さ……もう少し居たい気もしたが仕方が無かった。
「あ、シリズさんにレイブラさん、お二人が居るなんて珍しいですねー」
第七位階が集結して居た部屋とは違う、穏やかな声色でそう言いトコトコと走ってくるユーリ、第七位階メンバーがこうも揃ってくると少し感動した。
「ユーリか、お前も修練所に来るなんて珍しいな、シリズは毎日の様に居て邪魔だが」
「そう言うレイブラ、お前も毎日兵士達を稽古と言う名目で虐めてるだろ、裏ではドS姫とか言われてんぞ」
「な?!あれは私の愛があってこそだな!」
二人で喧嘩をして居る中、ユーリは白斗の方を向き睨んだ。
「私はあんたの強さを認めてない、なんであんたがアーノルドさんに……」
声色がガラリと変わる、ユーリは恐らく二面性があるのだろう……女っていう生き物は怖いものだった。
「なら戦って見るか?」
そう言って軽く挑発をしてみる、すると驚いた様な表情をした後に笑うと木の剣を持って来た。
「面白いじゃない、その申し出……後悔させてあげる」
そう言って剣を握るユーリ、その瞬間雰囲気が変わり周りの空気も少し重くなった気がした。
「おい、レイブラ!ユーリの本気が見れるぞ!」
シリズが慌てた声でそういう、するとレイブラも驚いた表情をして居た。
彼女より序列が上の二人が此処まで驚く程の実力……白斗は唾を飲むと心して剣を構えた。