第13話 久し振りの再会
「この国を救ってくれてありがとう、俺はアニーの分までこの国を頑張って大きくするよ」
「うん、頑張って」
笑顔で言うレイズの言葉に不器用な笑顔で返すカーニャ、アニーの死から1日しか経って居ないと言うのに、彼は強かった。
アニーの死を告げた時も泣かずにキリッとした表情で言ったことをまだついさっきの事のように鮮明に覚えている。
『アニーの為に出来る事は泣く事じゃない、彼女の死を糧に……成長する事だ』
その言葉にカーニャは自分の弱さを再度知り、そして少し成長する事が出来た様な気がした。
「それじゃ、私は行くね、またこの近くに来たら寄る」
「おう、頑張れよ!この国の英雄!!」
そう言ってレムド国改め、レイズ国の国民とレイズに手を振られ見送られる、だがカーニャは彼らに背を向けた途端表情が険しくなった。
遠目からでも見える氷に覆われた森、そして感じる冷気……この力を得てから分かった、クロディウスはやはり凄い事を。
あれ程の魔力をどうやって手に入れたかは知らない、だが生半可な覚悟や犠牲では得られない力なのは確かの筈だった。
森に近づくにつれて寒さがキツくなる、カーニャはカバンから服を一枚取り出すと羽織った、そして遠く分厚い氷に囲まれた森の中へと続く穴、入り口部分を見つけその周囲を見ると3人の人が居るのが見えた。
1人は金髪、もう1人銀、そして黒髪……銀髪と金髪はあまり見覚えはないが黒髪は一目見ただけで分かった。
「結城さん!!」
「久し振りカーニャ!!」
互いに走り抱きつき合う2人、まさか彼女が此処にいるとは思わなかった。
思わず無表情から溢れる笑顔、だが直ぐにその表情は険しいものへと変わった。
「クロディウスさん……居るんですね」
「うん……」
うつむき気味にそう言う結城、よく見ると後ろの2人は傷だらけで結城も外傷こそ見当たらないものの服がボロボロだった。
恐らく彼女達は戦闘した後、時間はどれ程かは分からないが……よく生きて居たものだった。
「エルネの知り合い?」
「僕は知らないよ、エリスは知らないの?」
「一度だけ会ったことあるかもしれないけど多分向こうは知らないかもね」
カーニャの方を見て話をする銀髪の少女エルネと金髪の少女エリス、彼女達からも結城と同様、只者ではない雰囲気を感じた。
「それにしてもカーニャ、成長したんじゃないっすか?結構感情も豊かになったし」
「うん、魔法を使える様になってからちょっとだけね」
「そうっすか……クロさんも居れば喜んだんでしょうね」
森の奥を見て悲しげな表情で言う結城、その瞬間凄まじい轟音が聞こえて来た。
「なんの音?!」
「クロディウスの魔法だよ」
驚くカーニャに近寄りそう言うエルネ、やはり暴れて居るのは本当の様子だった、だが何故彼がそんな事に……理由が見当もつかなかった。
「クロディウスさん……」
背負って居た重いカバンを置き森の入り口に向かおうとするカーニャ、だがそれを3人は止めた。
「カーニャだっけ……今クロディウスに会うのは賢い判断じゃないわ、今行けば確実に殺される」
「なんで……なんでそんな事に!」
「カーニャ、落ち着くっす、今エリスが話すから」
そう言ってその場にカーニャを座らせる結城、そしてエリスに目で合図するとエリスも頷いた。
「クロディウスは過去を取り戻したのよ、失われたね……そして真実も知ってしまった、それ故に混乱してるの」
「クロディウスさんが過去を?」
失って居る事すら知らなかった、一番近くに居たと言っても過言では無かったのに……何にも彼の事を知らない、そんな自分に苛立ちが募った。
「今から一週間前の出来事よ」
一週間前、ナリス国街中
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「綺麗な街っすね」
「そうね」
結城の言葉に頷き辺りを見回す、至る所に綺麗な川が流れ、橋がいくつもかかり、水から少し浮かせて建てられた白い石造りの家が立ち並ぶ街並み……此処が水の国ナリス、観光名所としても名高く各国から唯一人が集まる国だった。
「此処に観光に来た訳じゃない事を忘れるなよ」
前を歩くクロディウスの声が聞こえ頷くエリス、何故彼が自分を許してくれたのか未だに分からなかった。
過去の友人に会えると騙されて裏切った私を何故……だがいくら考えても答えは出ない、分かる事はまだ私を必要としてくれて居る事だけだった。
この国に来た目的は記憶を取り戻してやったユリウスがこの国に転生者軍に関係する人物が居ると言ったからだった。
注意深く周りを観察し、それらしき人は居ないか探すが目立つ人間は自分たちくらいだった。
街の中は人々の衣装、建物の色、地面のタイルの色が全部白で統一され、その中で歩く異国の衣装を見に纏った自分達はとても目立った。
何せ正規のルートで入って来て居ないが故、観光者に渡される白の服をもらって居ない、だからこんなにも目立って居た。
特にクロディウス、散々黒の鎧はやめろと言ったのに……だがあの兜を脱ぎ捨てた時の事を思い出すと何も言えなかった。
あの時のクロディウスの顔は今でも忘れない、彼の顔はーーー
「おいエリス、聞いてるのか?」
「え?何?」
考え事の最中にクロディウスの声が聞こえふと前を向く、するとクロディウスが細い水路が流れる裏路地の方を指差して居た。
「仕事っすよエリスさん、エルネさんが準備し終える前に私達も仕事しなくちゃ行けないの忘れたっすか?」
「ごめん、ぼーっとしてたわ」
そう言い周りに人がいない事を確認して裏路地の水路に入っていく3人、ユリウスの情報では此処の国、王宮内部に転生者軍参謀の男が居るはずだった。
特徴は細い目に赤と黒が混じった髪色、随分と分かりやすい特徴で助かった。
「それじゃエリス、頼んだぞ」
「ええ、分かったわ」
そう言い水路に飛び込むと水の流れに逆らいながら穴へと入っていく、この国が大陸のど真ん中にあるにも関わらず水の国と呼ばれて居るのは王宮内にある無限の泉と呼ばれる不思議な泉があるからだった。
その水を国内に流し、そして今の国を作り上げた、かつては水不足や財源不足、食糧難を抱えた貧しい国だったらしいが今じゃ他の国と比べても引けを取らない程に成長した、努力の国だった。
そして今逆流して居る水路、と言うかこの国の水路は全て王宮内に繋がって居る、つまり何処からでも侵入は可能と言うわけだった。
水路にはトラップも何もなく、難なく王宮内部にある噴水のような無限の泉に到着する、何故ここまで警備がザルなのか、それは水路の事を誰も知らないからだった。
この無限の泉が出来たのもかなり昔、およそ1〜200年前、つまりその事を知る人物は今やこの国はおろか世界にすら少ないと言うわけだった、それ故に警備が手薄なのだった。
何故それを私は知って居るのか、それは3045年も生きていれば当然の事だった。
この世界とともに生きて来たと言っても過言では無い、そんな私に恐らく知らない事はほぼ無かった。
嫌な歴史も、喜ばしい歴史も全部記憶にある……そんな事を考えて居ると兵士達の声が聞こえて来た。
隠れようと辺りを見回すが複雑に伸びた水路とその中央に噴水の様な無限に湧き出る泉があるのみ、水は透き通り隠れる場所など無かった。
「仕方ない、私の役目はこの城で暴れ、泳げないクロディウス達の侵入を手助けする事だし……ちょうど良かった!」
そう言って剣を抜く、そして何も知らずに入って来た兵士達を斬ると剣に血を補充した。
覇剣ヴァークライ、自身の血を吸って身体能力を著しく強化する剣、だが効果は他にもあった。
エリス専用の自身の血を硬質化して放出する能力、そしてもう一つは人間の血を吸った時だけ使える超回復だった。
この剣は血を吸うことも出来れば自身に与える事も出来る、何故人間の啓介がこの剣を持っていたかは知らないが吸血鬼の自分からすれば最高の武器だった。
見る見ると血を抜かれた兵士はミイラと化する、そしてエリスは首の骨を鳴らすと開いた扉を蹴り破り廊下に出た。
「さてと……暴れるわよ!」
瞳の白い部分が黒に変化する、そしてエリスは尋常では無いスピードで兵士達を敵襲と気付かせる事なく殺して行った。
尋常では無い強さ、過去に一度私は吸血鬼の劣等種と言った、だがあれはよく良く考えると血を吸っていなかったからだった。
自分は味覚も特別、何故か味を感じる事が出来た、それ故に飲む必要が無く、吸血鬼本来の力が発揮出来なかったのだった。
「だけど今はどうでもいい事ね!!」
建物を破壊しながら男の姿を探す、そしてとてつもない広さの大広間に出ると右方向から凄まじい殺気を感じた。
殺気から分かる……この感じは手練れ、しかも過去に無いほどの強さを持って居る気配だった。
「楽しめそうね」
エリスは不敵な笑みを浮かべるとゆっくり、右側を向いた。