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転生者狩りの騎士と奴隷の少女  作者: 餅の米
第3章 覚醒の魔法使い編
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第12話 レムド達の目的

兵士達が火に気を取られて居る内に宮殿内に侵入する、だが侵入した瞬間、なんの気配感知能力を持たないカーニャでも異変に気がついた。



目の前に広がっている大広間の空気が淀んで居る、目で視認できる黒い靄がふわふわと辺りに漂って。



毒なのかと思いカーニャは口を塞ぐ、すると奥から靄でボヤッとしか見えないが1人の大きな2メートルはある男がやってきた。



「ようこそ、俺の宮殿へ」



歩くたびにズシッと音を響かせながら靄の中から姿を現わすスキンヘッドの男、彼がどうやらレムドの様だった。



両手を広げ見た目からは想像出来ないお辞儀をするレムド、そして顔を上げるとカーニャの顔を見て不敵な笑みを浮かべた。



「な、なに……」



「嬉しくて堪らないんだよ……マグハールが仕留め損ねた魔女をこの手で仕留められるのがな!!あのお方に、あのお方の復活への近道……だから大人しく死んでくれ!!」



そう言っていきなり変異をし始めるレムド、彼らが言っているあのお方……一体誰なのだろうか。



復活という事は死人……もしくは伝説の人物、色々と考えるがレムドの変身が終わったのを見て考えるのをやめた。



身体が赤に変色して二本の角が生える、身体も巨大化して2m50cm程まで大きくなって居た。



だが所詮それだけ、マグハールは腕が6本あり、尚且つ凄まじい速さだった……それを考えると勝ち目はあるかもしれなかった。



「余所見をすると死ぬぜ!」



そう言うとレムドが地面をものすごい音を立てて蹴り上げ、目の前まで接近して来る、そして大きな右腕を振り上げカーニャのいる所に振り下ろした。



間一髪でカーニャはその攻撃を躱すが、その衝撃波で吹き飛ばされ壁に打ち付けられた。



催眠を主とする敵と思っていただけに予想外の力に反応が少し遅れる、本来ならちゃんとかわしてカウンターを入れるはずだったのだが想定外だった。



「どうした?お得意の魔法……使えよ、俺も一目見て見たいんだよ」



そう言って手招く様に挑発するそれを見てカーニャは挑発に乗り右の掌をレムドに向けて広げた。



するとその手から物凄いスピードで氷の剣が放出される、だがそれはレムドの身体に当たるとパキッと言うか細い音を立てて壊れた。



「ん?何かしたか?」



当たった場所をポリポリと掻くレムド、その瞬間……いや、対峙した時から分かって居た、格が違い過ぎると。



最初の速さに反応出来なかった時点で本当なら勝敗は決して居た、何とか奇跡的に避けれたから良かったものの……勝ち目は無かった。



そもそも忘れて居た、自分は魔法を使える様になったからと言って変わらない、弱くて、他の人が居なければなにも出来ない無力な存在なんだと言う事を。



壁に打ち付けた背中の痛みに泣きそうになる……こんな事で泣きそうになるなんて、やはり自分は弱いと実感した。



「ちっ……面白くねぇ、死ぬお前に教えて置いてやるよ、転生者の軍は知っているな」



その言葉にカーニャは無反応でずっと俯いて居た、もう逃げようとも戦おうとも思わなかった。



「それは言わば生け贄、本当の軍は魔の軍、俺はそこの6人いる幹部のうちの1人、だがその中では一番弱い……この意味分かるな?」



「魔の……軍」



「そうだ、その軍の幹部は全員変異出来る、その中でも……ジルドと言う奴は桁外れの強さだ、まぁ死ぬお前には関係無いか」



そう言って何も無い所から赤く染まった剣を取り出すレムド、彼の言う通り、そんな事を聞いてももう関係無かった。



レムドが剣を振り上げるのを見て目を閉じる、あの時はクロディウスが助けてくれたが……今はもう誰も助けてくれる人は居ない、本当にこれで人生終わりだった。



「ありがとうございます……クロディウスさん」



そう言って頬に涙が伝う、その瞬間レムドは剣を振り下ろした。



すると肉が斬られる鈍い音がする、だがカーニャには痛みが無かった。



おかしい……そう思い目を開くとそこにはレイズが立って居た。



「心配で着いてきけど……良かった、着いて来て……」



「アミー!何で此処に!?」



「ずっと後をつけて居たの……でも兵舎が通れなくなったからちょっと遠回りしたけど……間に合って良かった」



そう言ってその場に倒れそうになるアミーをカーニャが受け止める、何故彼女が私を庇ったのか理解できなかった。



「何で私なんかを!レムドに勝ち目の無い私の為に何で命を!!」



「無責任かも知れないけど……信じてるの、だから……負けないで、旅人さんが最後の希望だから……」



抑えて居た感情が爆発したかの様に涙を流して言うカーニャにそう言ったアミー、信じてる……初めて言われた言葉だった。



今まで誰かに頼りにされた事など無い……クロディウスにも、それなのに彼女は自分を信じ、必要としてくれた……そしてカーニャは腕の中で最後に笑顔を見せて生き絶えたアミーを下ろし立ち上がった。



もう震えは無い、何も怖くは無かった。



「血の味はイマイチだった様だな……まぁ所詮一般人、だが魔女の血はうまそうだ!」



そう言って不気味に赤く輝いている剣を振り上げる、攻撃は至って単調、 カーニャは分厚い氷で剣の攻撃を弾くとレムドの頭上に雷雲を出現させた。



「氷魔法がパワーアップして……まずい!」



そう言って後ろに飛ぶレムド、だが若干間に合わず雷はレムドの左腕を弾き飛ばした。



「この威力……どう言う事だ、魔女の力は人の心臓を生け贄に強化される筈……」



そう言って失った左腕を止血するレムド、不思議と力が溢れ出るが何故かはカーニャにも理解できて居なかった。



分かるのは勝ち目が出て来たと言う事だけ、今のうちに決着をつけたかった。



先程出した氷の剣を掌から放出する、だがスピード、強度共に最初のとは桁違いだった。



「くそっ!」



3本ほど剣で破壊するが壊し切れないと踏み後ろに後退しようとする、だがそうなんども同じ手を使わせる訳が無かった。



「後ろはもう無い」



「何?!」



カーニャの言葉に後ろを向くレムド、するとそこには大きな壁がいつの間にか出現して居た。



「いつの間に追い込まれ……違う、魔法か?!」



「戦闘の基本かは私は知らない、でも貴方の足の力の入れ加減を見て後ろに飛ぶと分かった、だから後ろに壁を出したの」



「くそッ!俺がこんな小娘に……フザケルナ!!!」



声が重く、低くなるレムド、無数に放たれた氷の剣が次々とレムドの身体を貫いて行った。



勝った……そう思った時、レムドの身体が赤黒く変化しているのが見えた。



「理性が飛ぶから使いたくは無いが、もうここまで来れば使わざる負えない、第二形態だ……覚悟しろ魔女の小娘!」



フシューと言う音を立てて息を吐き出すレムド、そして苦しげな叫び声を上げると彼の身体が見る見る変化していった。



顔は前の形態のまま、肘に二本、鋭利な剣のようなものが生え、そしてデカかった身体はかなり縮む、一見退化した様に見えるが筋肉が凝縮されて居た。



変異し終えると獣の様な咆哮を上げてその場から消える、するとカーニャの直ぐ隣に瞬間移動したかの様な速度で現れた。



「まずい……」



咄嗟に氷の壁で阻む、何とか一撃目は耐えることが出来た。



すると反撃を警戒したのかレムドは直ぐ様後ろに下がる、そしてカーニャの様子を見た。



(理性は無い様だけど戦い方は本能で分かってる見たい……)



カーニャの出方を伺う様にその場で止まっているのがその証拠、足はいつでも飛べる様に力を込めて居た。



「ならこれは!」



そう言って両手を広げると大きな竜巻がレムドを覆う様に出現する、そしてその竜巻には氷の刃が無数に舞って居た。



風の壁、当たれば傷つき、尚且つ氷の魔法を組み合わせる事でその威力は倍になる……だがこれは単なる時間稼ぎに過ぎなかった。



風に囲まれたレムドが無理矢理出ようと氷の刃が舞う風に手を突っ込む、強化され硬質化されたレムドの腕でも次第に氷と風で皮膚が削られていった。



だがレムドがもう片腕も突っ込むと無理矢理風をこじ開ける、すると風魔法は一瞬にして消えてしまった。



風が消えるとそこにカーニャは居なかった。



レムドは辺りを見回すが誰も居ない、その時地面がひび割れる、そして割れるとレムドは下に向けて落ちて行った。



何とか体勢を立て直そうとするが宙を舞っている身体が言うことを聞かない、そして下を見ると先端が尖った鋭利な氷の刃が無数に生えて居た。



「クソガァァァァァ!!」



鼓膜が破れる様な怒号を上げて氷に突き刺さるレムド、今度こそはやっと勝った様だった。



虫の息のレムドが人間の姿に戻る、その傷は余りにも痛々しかった。



「こ、殺せ……」



近づいて来たカーニャにそう言い捨てるレムド、だがカーニャにはもう氷の刃を握る力すら残って居なかった。



「まぁお前が殺さずとも俺はいずれ死ぬ、そうすればこの国の洗脳も解ける……安心しろ、お前はこの国を救った、噂通りの強さだったな」



彼の言葉を聞いてカーニャはクロディウスに恐怖の感情を抱いた。



敵とは言え感情がある、もしかしたら家族だって……人の命が奪われるのをクロディウスの隣でただ黙って見て居たが、自分で戦って初めて気付いた……人を殺めようとするのにはこんなにも覚悟がいる事を。



「貴方は……何者なんですか」



「それを喋ると仲間を裏切る事になる……」



「そうですか」



分かって居たがやはり話してはくれなさそう、そう思った時レムドが続けて口を開いた。



「ここらは独り言だ……」



そう言うレムド、カーニャはその独り言を聴き逃すまいと集中した。



「俺は悪魔セレティア様が生みし六魔神の1人……そして魔の軍幹部でもある、だが今やその生みの親セレティア様は封印されこの世界には居ない、魔の軍の目的はその生みの親セレティア様の復活にある」



「悪魔……」



天使と同等の力を持ち、この世界に闇をもたらそうとしたと言われる悪魔……過去に奴隷として生きて居た頃牢にいた老人に聞いたことがある、まさか本当の話とは思っても居なかった。



「そしてその復活方法が強力な力を持つ者の魂を与える事……そしてその役割を担っているのがお前もよく知るクロディウスだ」



「クロディウスさんが……嘘、ですよね?」



レムドの衝撃的な言葉に衝撃を受け声が震える、何かの間違い……そう信じたかった。



「安心しろ、あいつは本当の事を知らない、あいつが持っている鎌、あれで殺すとその魂がセレティア様に送られるシステムになっているんだ……だからクロディウスは転生者を殺す様、女神と名乗ったセレティア様に命じられた」



「で、でもセレティアって人は封印されているんじゃ」



「セレティア様の力は強大すぎた、それ故に封印も不完全、この世界に直接干渉することは出来ないが鏡などを使うとこの世界と交信できるって訳だ」



悪魔セレティア……だが何故力を与えるのがクロディウスなのか分からなかった。



「何故クロディウスさんに力を?」



「それは分からん……ただ、セレティア様が復活したあかつきにはこの世界は闇となる、それだけは覚えておけ」



その言葉に俯くカーニャ、何がなんだか分からなかった。



話が大き過ぎる、世界やらなんやらと……今は自分の力だけでも精一杯、その上アニー、アレスの死の悲しみがまだ癒えていない……もう頭が追いつかなかった。



「最後に……六魔神の残り、1人はフィレンツェに、グラントリアに1人、オージギアに1人、ナリス、フィレンツェに1人ずつ居る……いずれも国のトップに近い場所にな、俺はこんな小国しか任せられなかったが……大国を任せられている意味は分かるな、いずれ戦争が起きる、精々生き延びろ……魔神を倒した小さな魔女よ」



血を吐くと光となって消えていくレムド、だがカーニャはその光景に驚きはしなかった……いや、正確には驚く事も出来なかった。



様々な国のトップに魔神が居る……そして転生者軍は悪魔を生き返らせる為のダミー……これは一刻も早くクロディウスに伝えなくてはならなかった。



カーニャは横たわるアミーを抱えるとゆっくり洗脳の解けた街へ歩いて行った。

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