第9話 壺
「……此処は、何処だ……」
目を覚ましたオーリス、辺りを見回すとそこは見覚えの無い森の中だった。
ついさっきまでマグハールと戦って居た筈なのに……何故こんなのところに居るのか、オーリスは混乱した。
傷も完全では無いが塞がって居て痛みはあまり感じない、此処は死後の世界なのかと考えるが微かにでも痛みがあるのを考えると現実の様だった。
一先ず起き上がろうと手を横に着く、すると起き上がる時に手が何か柔らかいものにあたった。
「なん……だ?」
恐る恐る横を見る、するとミリエルが倒れて居た。
「うおっ!!」
死体と思い驚きで立ち上がって距離を取る、だがオーリスの声で目覚めたのかミリエルはゆっくりと目をこすり辺りをキョロキョロとしながら起き上がって来た。
「此処は……?」
オーリスと全く同じ反応をするミリエル、その時ふとオーリスはアレスとカーニャの姿がない事に気が付いた。
「か、カーニャちゃんとアレス君は?」
「私はマグハールに刺されてからちょっと記憶が曖昧だから分からない……オーリスさんは?」
「俺も同様だ……」
そう言って俯くオーリス、その表情は助かったと言うのにも関わらず悲しげだった。
ーーーーシストリアーーーー
現在カーニャは非常に困った事態になって居た……それは魔法について、応急処置をしてオーリス達を飛ばしたのは良いが自分が転移する魔法はどうやら解放した力の一部には無かった様だった。
アレスと名が彫られた墓跡を横目にシストリアの街が一望出来る丘の上で考え込むカーニャ、これからどうすれば良いのか分からなかった。
自分が駆けつけた時にはもう既にミリエルの母親は殺されて居た、それも父に……その事を彼女に伝えるのはとても酷、だが伝えなければこの国に戻って来る可能性もある、とは言え伝えようにもあの場所まではそこそこに時間が掛かる……八方塞がりだった。
だが今はその事よりも……この力、魔女の魔力を解放する方法を知りたかった。
何故アレスが知っていたのかは今となっては闇の中……力の得かたを知るにはどうやら他に知って居る人間を探す他無さそうだった。
だが生き残りが今や自分だけしか居ないと言われて居る魔女の情報を誰が知って居るかなど検討もつかなかった。
「一体どうすれば良いの……」
騎士団長、幹部3人を失い混乱に陥って居るシストリアの街を眺めながらどうしようも無くそう呟く、呟いた所で何が変わる訳でも無く……ただ心地よい風が吹くばかりだった。
だが悲しいことばかりと言う訳でも無かった、この魔力を手に入れた事でクロディウスと旅が出来る……それはカーニャにとってはこの上ない喜びだった。
ふぅと息を吐き立ち上がると墓石の前で手を合わせアレスの冥福を祈る、命を賭して力を与えてくれた恩人に……そして祈り終わるとカーニャは腕を組んだ。
丘を降りて北東付近のオーリス達を拾いに行くか……もしくは南のオージギアにクロディウスと合流すべく向かうか、位置的には真逆、悩ましい所だった。
正直オージギアに居るとしか情報の無いクロディウスを探すよりかはオーリス達を迎えに行った方が良い気がする、だがあのマグハールの様な怪物がまだ自分を狙って居ると考えると特別な力のないあの2人を巻き込みたくは無かった。
そうと決まれば行き先はオージギア、それと自分が魔女と分かった以上今までの様に目立つ行動は出来ない……カーニャは魔法を使ってフード付きの服を出すとそれに腕を通し、髪の毛を隠す様にフードを被った。
相変わらず表情は無表情のままだが思考はかなり成長した気がする……今までは誰かに頼って居たが1人になって気づく、自分でも考えれば出来る事を。
恐らくそれは魔法があるから、それでも自分の微かな成長にカーニャは喜びを隠せなかったり。
「よし……オージギアに向かおう」
墓石の横に置いてあった街から拝借した食料などを入れた荷物を背負うとカーニャは丘を降りて南に向かった。
ーーーーーーーーーフィレンツェーーーーーーー
「くそッ!まだ魔女が居るなんて聞いてねぇ!」
フィレンツェの何処かにある廃城に入るや否やマグハールは変身を解除して壁を殴る、その手からは血が一瞬出るがすぐに癒えた。
「まぁまぁ、しかし私もまさかあそこに彼女が居て、尚且つあの戦闘で力が開花するのは予測出来ませんでしたよ、やはり人間って言うのは興味深いですね」
影に覆われた男が壁にもたれながら面白可笑しそうにそう言う、その言葉にマグハールは一瞬睨むが直ぐに冷静さを取り戻した。
「それで、シストリアはどうする?」
「そうですね……今現在、我が軍の戦力は貴方を入れて幹部クラスが5人……そして使い捨ての駒、つまり転生者達が150程ですからまだまだ戦力が足りません……あの国を配下に戦力を拡大、と言いたい所ですが恐らく貴方の正体は外の兵士にバレて居るでしょうし……ラベルドに消してもらいますよ、貴方は暫く休んで彼女から受けた光の傷……治してください」
「ちっ、バレてたか……」
そう言って服を捲るマグハール、するとその下は火傷の様な酷い傷が広がって居た。
「光の魔女ですか……厄介ですね」
そう言いとある部屋を開ける影の男、その部屋は蝋燭が円のように並べられ真ん中に不気味な壺が置かれている奇妙な部屋だった。
ツボは時折揺れ、それを影の男は嬉しそうに眺める……まだ、時間は掛かるがもう少しの辛抱だった。
「復活の時は着実に近づいてますよ……エリシア様」
そう言って背を向け扉を出るとツボに少しのヒビが入り、部屋に不気味な笑い声が広がった。