第6話 救世主
無策のまま門の前まで来たのは良い……だが予想通りと言うべきかあっという間に囲まれ、アリンコ1匹通る隙間すら無くなってしまった。
「流石に詰んだか……」
そう言って苦笑いを浮かべるアレス、この状況は苦笑いすら出来ない……クロディウスの情報を掴んだのに、下手すれば死刑もあり得た。
周りの兵士がどんどんと詰め寄ってくる、そしてカーニャ達を掴もうと手を伸ばしてくるがカーニャは必死に抵抗した。
「クソッ!抵抗するな!」
兵士がそう言ってカーニャの頬を殴ろうと拳を振りかざす、その様子がカーニャにはスローモーションに何故か見えた。
ゆっくりと近づいて来る拳、避けようと体を動かすが視覚と同様に体もスローモーションになって居た。
ゆっくりと近づいて来る拳、その拳に死の危険を感じた……そして目の前まで来るともう諦めた。
あの時の様にクロディウスは助けてくれない、そしてアレスも取り押さえられ……今度こそ死を覚悟し、そっと目を閉じた。
「さよならクロディウスさん……」
そう告げ死を待つ……すると目の前でガシッと拳を掴む音が聞こえた。
「ごめんカーニャちゃん、遅くなったね」
聞き覚えのある優しいが力強い頼もしい声……そして目を開けるとそこにはオーリスが息を切らして目の前まで来た拳を受け止めて居た。
「お、オーリス様?!」
兵士が突然の登場に驚き後ろに引く、するとオーリスを中心に少しだけひらけた場所が出来た。
「何でオーリスさんが?」
突然現れたオーリスに驚きを隠せないカーニャ、そしてそれは先程まで捕まって居たアレスも同様だった。
「ミリエルって子がカーニャちゃん達の事を知らせてくれたんだよ」
そう言った瞬間兵士達を掻き分けてミリエルが出て来る、そしてカーニャとアレスを見ると険しい表情が安心した表情になった。
だがその表情も一瞬、直ぐに怖い表情に戻るとアレスの頬を叩いた。
「なにす……」
「馬鹿!死んだらどうするのよ!」
アレスの言葉を遮り叫ぶミリエル、周りの兵士は色々と突然の事に戸惑いざわついて居た。
「凄い……心配したんだから……」
涙を流し弱々しい拳をアレスにぶつけるミリエル、それを見てカーニャは少し羨ましい気持ちになって居た。
心配してくれる人が居る、その幸せに。
「すまん……」
「お話は終わりましたか?」
アレスの言葉が終わった途端聞こえて来た聞き覚えのある声……そして兵士達が道を開けるとそこからマグハールがゆっくりと歩いて来た。
「マグハール……」
普段感情を然程見せないカーニャが怒りに満ちた表情でそう呟く、だがマグハールは何の事か分からないようなわざとらしい表情を浮かべた。
「貴方は誰ですか?」
そう言うマグハールに一人の兵士がアフロを殺した犯人と伝える、それに驚いた様な表情をした。
「まさか、こんな少女が……信じられない」
またもわざとらしく口を押さえ悲しげな表情で驚くマグハール、だがこの行為……不自然でしか無かった。
彼は自分でアフロが殺されたのを伝えに行ったはず……だが兵士達は外に出た瞬間追いかけて来た、と言うことはマグハールは知らせて居ないのだろうか。
マグハールが知らせたのならあまりにも行動が早すぎる……まるで死ぬのがわかって居たかの様。
「まさかマグハール以外にも協力者が……」
「君は勘が良すぎるね……」
カーニャがボソッと呟いた瞬間、まるで瞬間移動したかの様なスピードで剣を構えカーニャの喉元に突き出そうとするマグハール、だがオーリスは剣を素手で掴んだ。
「オーリス、君は人殺しの、副団長殺しの肩を持つ気ですか?実の子でも無いのに……今ならまだ間に合いますよ?」
そう言いつつも剣をカーニャに突き刺そうと力を込めるマグハール、だが剣はビクともしなかった。
「確かに俺はカーニャちゃんの本当の親では無い、信じる理由も無い……」
「そうですよね、なら戻って来て……」
「これは親どうこうじゃない……一人の騎士として!何の罪も無い少女が殺されるのを見殺しに出来るわけが無いだろうが!!」
周りの兵士達がオーリスの凄まじい気迫に押されて後退する、そしてマグハールの剣をへし折ると剣を抜きマグハールの喉元に当てた。
「今すぐ退け……」
「くっ、裏切り者め……皆さん……今は退きましょう」
そうマグハールが言うと兵士達はゆっくりと富裕層に消えて行く、そして消えたのを確認するとオーリスは剣をしまった。
「本当に良いんですね……」
「当たり前だ、お前がして来た不正……いずれ俺も殺す気だったんだろ」
その言葉にニヤリと不敵な笑みを浮かべるマグハール、そして霧の様に消えて行った。
危機的状況から一変、周りには誰も居らず、なんとか危機を脱した……だがまだ安全になったとは言えなかった。
マグハールは恐らくまた直ぐに自分を含めた四人を殺しに来る……それまでにクロディウスと合流したかった。
「オーリスさん、クロディウスさんに会いにオージギアへ行きましょう」
「それが良いね……彼なら少なからず君だけでも守ってくれる」
そう言うオーリスの言葉が少し引っかかった、その言い方だとミリエルやアレス、オーリスの事は守ってくれないかの様だった。
「オーリスさん達はどうするの?」
「大丈夫、信用できる仲間が1人、オージギアの道中の森に居るんだ……だから心配しなくても良いよ」
そう笑いかけるオーリス、それにアレスは少しホッとした様な表情をした。
だがミリエルの表情は険しかった。
「私達の親は……親はどうなるの?!」
「それは………」
なにも言葉が出ないオーリス、その様子にアレス達は察した。
「駄目!私は残る、親を見殺しには出来ない」
そう言って富裕層へと向かおうとするミリエル、それをオーリスは腕を引っ張り止めた。
「話して!母が、父が殺される!それだけは嫌なの!!」
「待てミリエル、話だけでも……」
「うるさいわよアレス!!親の居ないあんたに……」
アレスの掴む手を振り払い最悪な事を言おうとしたミリエル、その頬をカーニャは強く叩いた。
辺りにはパチンと痛々しい音が響き渡る、そして叩かれたミリエルは驚いた様な表情をしていた。
「冗談でも口にしちゃいけない……親の居ない悲しみをミリエルは分かってるの?!最初から居ない私はまだ良い……だけど目の前で殺されたアレスにそれを言うのは間違っている!!」
わざとじゃ無いのは分かっている……だがあの言葉だけはどうしても許せなかった。
アレスも自分も、好きで親が居ない訳じゃ無い……自分は親の記憶が無いからまだ良いが親の記憶があるアレスにはこの上ない暴言だった。
「ごめんなさい……」
泣きながら言うミリエル、その姿を見てふと我に返った。
確かに自分も言い過ぎた、彼女は居る親が殺されるかも知れないと言う不安でいっぱいなのだろう……それを考えると自分も少し悪かった。
「私もちょっと言い過ぎた……ごめん」
「2人とも和解した事だし……これからどうする?」
2人を見てそう尋ねるオーリス、そんなもの決まっていた。
「ミリエルの家族とアレスの恩人を助けに行く……それで良いよね?」
その言葉に頷くオーリスとアレス、その言葉にミリエルは再び泣いていた。
クロディウスに早く会いたいのは変わらない……だがミリエルを今更赤の他人とは思えない、少し遅れるが彼女を助けられるのならば大丈夫だった。
「それじゃ、俺から離れるなよ」
剣を構えてそう言うオーリス、その視線の先にはもう既にマグハールの部下達が武装して立っていた。




