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転生者狩りの騎士と奴隷の少女  作者: 餅の米
第3章 覚醒の魔法使い編
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第3話 平穏な日常 3

「……帰ろ」



初めての学校、初めての授業、だがどれも酷く退屈……皆んなは何故こんな苦行を毎日行ってられるのだろうか。



狭い部屋の中に何十人もの子供が入れられ、そしてなんの役に立つのかも分からない話しを聞かされる……この狭い部屋と大勢の人、嫌な記憶を思い出しかねなかった。



なんとか外を眺め意識を別の事に向けて事なきを得たが……明日からもこれが続くと考えると吐き気がした。



手提げ鞄を持ち教室から出ると楽しげに帰る生徒達を横目に階段を下って行く、この平和ボケをした生徒達……幸せそうだった。



自分とは正反対の生活をして生きているであろうこの学校の生徒達……家族に恵まれ、友人に恵まれ……だが何故だろうか、不思議と羨ましいとは思わなかった。



幸せそうと思うだけでその生活を送りたいとは思わない、現に今の生活に満足して居ない……やはり自分の居場所はクロディウスの隣、ただ一つだった。



靴を履き替え校舎を出ると足早に学校の校門をくぐる、そして華やかなこの学校に通える、いわゆる貴族達が住む富裕層の居住区とは逆の貧民層にカーニャは足を向けた。



モーリスの書斎から発見した最重要捕獲人物のエスデアと言う男、その書類によると彼はこの世界の全ての人物の居場所を把握できる力を持っているらしく……彼にクロディウスの居場所を聞こうとカーニャは考えていた。



学校から反対の貧民層に向かって平民の暮らす居住区を下る事数分、大きな壁が見えてきた。



あれが富裕層を守るように建てられた壁、あの壁を越えれば貧民層……だが数十mはありそうな壁を越えるのはカーニャには無理だった。



暫く建物の陰から唯一の出入り口の門を眺めるが警備が固い、門の下に兵士が4人立っており、壁の上では2人が絶え間無く両側の状況を見ている……あり1匹通る隙もない見張り、どうすれば良いのか分からなかった。



戦闘能力はゼロ、まともな教養を受けて来なかったが故に頭も良い訳が無く……ただ黙って門を見ている事しか出来なかった。



「どうしたら……」



どうしようも無く悲しげな表情で俯く、するとカーニャの影とは別の影が後ろから近づいてくるのが見えた。



ふと顔を上げ後ろを見る、すると困惑した表情のミリエルとカーニャの事を魔女と疑った少年が息を切らして立って居た。



「何してるの?」



「何してるのじゃ無いわよ!貴女ここがどこか知ってるの?!平民層でも下の者達が暮らす場所よ?!」



少し驚いた表情で尋ねたカーニャに間髪入れずそう怒鳴るミリエル、その発言にカーニャの表情は変わった。



「何でそんな事が言えるの?」



「え?」



眉をしかめかなり怒った声色で言うカーニャに困惑するミリエル、彼女に悪気が無かったとしてもさっきの発言は許せなかった。



自分はどちらかと言うと貧民層で育った様なもの、皆んな好きで貧乏になっているのでは無い、何かそれぞれ事情がある……それを親に養ってもらい生きてきた何も知らないミリエルが軽々しく見下す様に言うのがどうしても許せなかった。



「やめろ、こいつも悪気があった訳じゃ無い、たまに言葉がキツイのが傷だが根はいい奴だ」



泣きそうなミリエルの前に割って入る少年、カーニャはふと我に帰ると少し申し訳ない気持ちになった。



「ごめん……でも次言ったら許さないから」



「こ、こっちこそごめんなさい……」



完全に俯き蚊の鳴くような声でそう言うミリエル、しかし何故彼女達が此処に居るのか気になった。



「それで、私に何の用?」



「何の用って放課後またって私言ったわよね?」



少し元気を取り戻したミリエルの言葉に少し前の事を思い出す、そう言えば朝言っていた様な気がした。



「あー」



「あー、じゃ無いわよ!全く……それより貴女こそ何で此処に?」



「何故……」



上手い言い訳を考えるが当然出てこない、クロディウスを探す事以外に向こうに行く理由もなく……暫く黙って居ると少年が口を開いた。



「そう詮索はするな、カーニャにも何か理由があるんだろう、じゃ無いとわざわざ危険な貧民層には行かない」



「詮索するなって言われても……」



残念そうな顔をするミリエル、別に隠す必要も無いのだが話す必要も無い、わざわざ自分の過去を話す程彼らを信用もしていなかった。



「それより俺はアレスだ、学校では突然悪かったな」



そう謝るアレス、第一印象は最悪だったがこうして見るとあまり悪い人には見えなかった。



「よろしく、それでアレス達はこれからどうするつもりなの?」



「どうするつもりってそりゃこっちのセリフだ、お前向こう側行く術ないだろ」



そう図星の事を言われ視線をアレス達から外すカーニャ、確かに無いがこのまま帰るのも少し嫌だった。



「はぁ……仕方ないわね、私が入り口で気を引いてあげるからそのうちに行きなさい」



「何でミリエルがそんな事を?」



「さっきの事悪く思ってるのよ!だから上手くやりなさいよ!」



そう言ってツインテールをなびかせ門の方を向き歩いて行くミリエル、そんな彼女の背中が何故だろうか……眩しく見えた。



「悪いな、あいつ昔からあんな奴でな」



「昔からって?」



「あいつのナスティ家と俺のマルコス家は昔から仲が良くてな、いわば幼馴染って奴だ」



「幼馴染……?」



初めて聞く単語、その言葉だけではどんな関係なのか想像もつかなかった。



「おま、幼馴染を知らないのか?!」



「うん」



幼馴染と言う単語を知らないカーニャに驚きの表情を見せつつも説明しようとするアレス、すると門の方が何やら騒がしくなっていた。



「私に勝てば100万!誰か挑戦者は居ないの?!」



門前の広場でそう叫び剣を掲げるミリエル、まさかあんな方法で気を引くとは思わなかった。



「あのバカ……まぁあいつらし言っちゃあいつらしいな」



呆れるアレス、ふと門の方向に目をやるとお金に釣られたのか門兵達がミリエルの方に気を取られていた。



それは壁の上の兵士も同様だった。



「よし、野次馬も適度に集まってきた……行くぞカーニャ」



そう言って中腰になり野次馬の外側を見えない様進んで行くアレスの後ろについて行く、何故彼達は初対面の自分にこうも協力してくれるのか分からなかった。



「ありがとう……」



そう聞こえないほどの声量で呟くとカーニャは門の向こう側へと向かい足を運んだ。

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