第2話 平穏な日常 2
ホームルームの終わりを告げる鐘が鳴りクラスの人々がざわつき出す、その光景を一度は眺めるがカーニャはまたすぐに窓の外に視線を戻した。
自分が何者なのか……母や父の事も分からない、あるのは酷い過去の記憶と微かなクロディウスとの楽しい思い出だけ……こんな事をずっと考えてたら気が狂いそうな気がした。
「お前ちょっと来い」
ふと声がし前を向くと一人の少年が仁王立ちでカーニャの事を睨みつけている、何の用なのか、それを聞く暇もなく腕を掴まれるとカーニャは少年に屋上まで連れて行かれた。
「なにするの」
少年の腕を振り払うと腕をさすりながら無表情にそう言う、こんな事をするのだからただの自己紹介かいやお話しをするのでは無いのだろう、そう直感で分かった。
「お前のその水色の髪……魔女か」
少年の言葉にカーニャは驚いた、何故彼から魔女と言う言葉が出てくるのか……だがその問いに今はまだ答えることが出来なかった。
「分からない……」
「分からない?じゃあその髪色はなんだよ!」
カーニャの答えに納得がいかなかったのか怒鳴る少年、だが何を言われ様と分からないものは分からなかった。
奴隷の時やオークションの人は皆私の事を魔女の末裔と言っていた……だがクロディウスはそんな事を一言も言わなかった。
そもそも魔女とは何なのか、この髪色がどう関係しているのか……カーニャには分からない事だらけだった。
「この髪色は知らない……それより何で魔女だと思うの?」
「髪色だよ、この世界で地毛が水色の人は居ない……いや、正確には居なくなったんだよ」
「居なくなった?」
「そう、この世界に今魔法使いがどれだけいるか知ってるか?」
そう言われ考えて見る、クロディウスのあれは魔法なのだろうがどこか違う気がする……全く分からずカーニャは首を横に振った。
「0だ、この世にはもう純潔は愚か混血さえも居ないと言われていた……だがお前を見てその考えが変わった」
「私?」
「そうだ、魔法使いってのは昔は皆水色の髪色だったんだ、そこから人間との子供を産み混血になり髪色は変わった……つまり水色は純潔の魔法使いの証なんだよ」
真面目にそう言う少年、自分が純潔の魔法使い……とてもじゃないが信じられなかった。
だがそれよりももっと信じられないのは15歳程の自分と同い年の少年がその事を知っている事だった。
身なりを見る限り何処かの貴族出……博識なのは予想がつくがそれでも何故魔女の事を、私的な恨みでもあるのだろうか。
「答えを聞いて居ない、お前は魔女か?」
グッと詰め寄り顔を目の前まで近づける少年、だがカーニャは一切動じずに無表情のまま答えた。
「10歳からの記憶しかない私には分からない……それに魔女だとしても貴方には関係ない」
そう言って屋上の扉を開け教室に戻って行くカーニャ、少年はその後ろ姿を複雑な表情で見つめて居た。
「貴女、カーニャさんでしたっけ?」
教室の扉まで来た頃にまた声を掛けられる、声の感じから高飛車な少女と言うのは容易に想像出来た。
「そうだけど、なに?」
「私のライバルになりそうと思ってね……私はナスティ・ミリエル、よろしくねカーニャさん」
そう言い手を差し出してくる金髪のツインテールにしているミリエル、如何にもめんどくさそうな彼女にカーニャの無表情が少し崩れた。
「よ、よろしく……」
「放課後……また話しましょうね」
そうニッコリと笑いかけてくると教室に入って行くミリエル、同じクラスな事に少し驚き頭を抱えた。
面倒くさい……だがそう思えるのも一つの成長とカーニャは捉えて居た。
少し前まで、クロディウスと出会うまでは感情なんてものは一切無かった、いつ死ぬのか、自分はまだ死なないのかなどと考え生きて居た……そんな自分が今は他の人と大差無い表情を少しは浮かべられる様になっている、そんな成長に少しカーニャは嬉しい気持ちになって居た。
そして呼び鈴が鳴るのと同時にカーニャは教室に入ると自分の席に座りまた窓の外を眺めた。