第19話 嫌な予感
「黒騎士……貴方はユリウスと自分が似て居ると言った、その言葉今すぐ撤回して」
短刀を黒騎士に向けてそう言うマキア、だが黒騎士は溜息を吐くだけで何も言わなかった。
「そう……なら死んでもらう!!」
そう言って短刀を構えて姿勢を低く突撃するマキア、その瞬間大きな爆発音と共に天井が崩れ明かりが差し込んで来た。
「何?!」
落石を避けて上を向くマキア、黒騎士の仕業かと思い黒騎士の方を見るが彼もマキア同様に上を見上げて居た。
開いた穴を見上げて居るが誰も居ない……そう思った時、マキアの後ろから気配がした。
「黒騎士の記憶を蘇る事を阻止してくれて有難う、我が忠実なる部下よ」
そう言って肩を叩かれる、ふと黒騎士の方を見ると鎌を構えて臨戦状態に入って居た。
「まぁそう警戒せずに……今日は自己紹介だけだよクロディウス君」
「なぜ名を知っている」
「何ででしょうね……まぁそんな事より私は君にある事を伝えに来たんですよ」
マキアを挟んで話す二人、一方のマキアは全く話しを理解出来なかった。
何故クロディウスと言われた黒騎士の声色は焦っているのか、それに後ろの男性は誰なのか……部下と言うことは身内、そう考えるも紳士的な声の彼を見た事も聞いたこともなかった。
「クロディウス、貴方の働きは凄く大きいです……女神様もお喜びですよ」
「女神……あいつにも使者が居るとはな」
「ええ、私はそれだけを伝えに来ました……復活の時も近いです」
「復活……何を言って」
二人の話しに黙って耳を傾けて居た時、黒騎士の話す言葉が止まりその瞬間、胸に激しい痛みが走り確認をする、すると後ろの男の手がマキアの身体を貫通していた。
「え、なに……が」
「部下は嘘です、秘密を知ったものには死を……それだけです」
その言葉を言い放つと男は腕を抜き羽ばたく音を立てて去って行く、仲間と思っていただけに全くの無警戒……迂闊だった。
薄れゆく意識、どんどんと痛みも無くなってきた。
このままでは死ぬ、そうは分かって居るがどうしようも無かった……ここには敵しか居ない、助かる見込みはゼロ……それなら最後にもう一度ユリウスに会いたかった。
「ユ……リウス」
「俺なら側にいるぞ……」
そう声が聞こえ隣を見るとユリウスが笑って隣に居た、それを見るとマキアは安心した顔をして目を閉じた。
マキアが目を閉じたのを確認するとユリウスの身体が光り黒騎士の姿になる……彼女には悪いが最後の最後に騙させてもらった。
「それにしてもあいつは誰だったんだ……」
自分の事を知って居る風に話していた謎の黒い影に包まれた男を思い出すとクロディウスはそっと上を見上げた。
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「マキア?!」
嫌な予感に目を覚ますユリウス、マキアの身に何か起こった気がした。
ふと辺りを見回すと何故視点が高い、そして下を見るとユリウスは浮いていた。
「やっと起きた、もうすぐで着くから」
そう言って紐を握っているエリスの飛ぶスピードが上がる、ユリウスはよく身体を見てみると縄でぐるぐる巻きにされていた。
自分の身になにが起きたのか……それを整理していると突然エリスは急降下した。
「な、何してんだ!落ちるぞ!」
「違う!前から何か来たから隠れるのよ!」
そう言ってダイナミックに森の中に着地する、そしてエリスは黙って上を見上げた。
すると暫くして禍々しい闇に包まれた男が上を通過して行く、その時に血がユリウスの顔に落ちて来た。
「あいつ怪我してんのか?」
「分からない……でも危険な感じがするわ」
そう言って完全に見えなくなるまで姿を隠すエリス、何故だかユリウスは何処かで彼を見た事があるような気がしていた。
だが何処でかは分からない……考えているうちに男は消えエリスは再び羽ばたき出した。
「あと数分我慢して、そしたら縄解くから」
そう言うエリスの言葉にユリウスは黙って頷いた。