第15話 女神の昔話4
「エンチャント……アイス、
さぁ、掛かって来なさい」
剣だけでなく彼女の周りまで冷気で覆われ辺りの温度がガクッと下がる、分かっては居たが彼女も只者では無かった。
剣を構え一先ず出方を伺う、すると時間が経つにつれて氷の剣が一本、また一本と出てきた。
一方に攻撃して来ないフィリア、彼女の戦闘スタイルの噂は聞いた事がなく氷の剣の危険性が分からず下手に動けない……そうしているうちに剣は5本目になった。
「出方を伺いすぎたわね、慎重なのはいいけど時には大胆な行動も必要よ」
そう言うと両手を合わせる、その瞬間4本の剣がフィリアの周りに刺さり5本目の剣を彼女が握った。
剣を中央に刺させてはいけない、そう思い動き出すが時既に遅し、フィリアはニコリと笑うと剣を4本の剣の中央に刺した。
その瞬間地響きが起き剣を刺した下に魔法陣が浮き出る、そして魔法陣は眩い光を放つと冷気を放った氷の巨人が姿を現した。
「氷の最上級召喚魔法よ、全てを凍りつかせる凍土の魔神……まだやる?」
初めて見る魔法……それに状況は絶望的なのにレイルは笑って居た。
剣を握る手が震える……だが恐怖でも寒さでも無い、最高に興奮して居た。
生まれてから18年、魔法の才が無く、周りから落ちこぼれと言われてきた自分だが魔法への憧れは人一倍強かった。
様々な魔法を調べ尽くしたと思って居た……だがまだ知らない魔法があった、その事実に興奮を隠せなかった。
「まだ……やります」
剣を握り締めてそう呟くレイル、彼女と戦えばまだ未知の魔法が見れる気がした。
「その心意気、買ったわ!行け、凍土の魔神!!」
そう言い凍土の魔神が地面を叩きつける様に殴る、するとそこから衝撃波の様に氷の柱が何本もレイルに向けて伸びてきた。
「くっ、やばい!」
一本を辛うじて交わすともう一本を剣で破壊する、その瞬間ある違和感を感じた。
破壊した時のあのパワー、以前なら出せる訳が無かった……それなのに今は壊せた、火事場の馬鹿力という奴なのだろう、疑問は残るが予想以上のパワー見せたレイルに少し驚いている今がフィリアに一撃を与えるチャンスだった。
態勢を立て直してフィリアに向かって突撃する、すると凍土の魔神がその行く手を阻んだ。
「自立してる訳ですか……」
バックステップで距離を取ると打開策を考える、凍土の魔神を呼び出した魔法陣が消えて居ないのを見ると弱点はあの魔法陣……だがそこまでどう行くかだった。
フィリアがその上に立ち魔力を供給、そして間に凍土の魔神が立ちはだかり邪魔をする、動きもそこそこ速いだけに厄介だった。
「ボケっとしてると死ぬわよ!」
そう言ってフィリアが魔法陣に多大な魔力を送る、すると凍土の魔神の手に3メートルほどの剣が握られそれを思い切り振りかざした。
考えるのに気を取られ避ける反応が一歩遅れる、このままでは大怪我では済まなさそうだった。
咄嗟に剣を構えると激しい音を立ててレイルの剣が弾かれる、そして間髪入れずに凍土の魔神は剣を振り下ろして来た。
「まじか……フィリアあいつ殺す気かよ……」
シャグマールの声が聞こえる、まさか死ぬ……そう思ったがまだこんな所で目的も達成せずに死ねる訳なかった。
「俺は……まだ死ねない!」
そう言って拳を強く握りしめる、そしてその拳を振りかざされた剣にぶつけると剣は粉々になり5メートルほどある凍土の魔神は吹き飛んだ行った。
「なっ?!凍土の魔神がやられた?!」
吹き飛んだ凍土の魔神の行方位を追ってそう言うフィリア、吹き飛ばした本人のレイルは自分の拳を見て固まって居た。
今の力……明らかに自分の物ではなかった。
もう一度拳を握り締めるがあの瞬間に感じた熱い感じがしない……あの力と言い不思議な違和感と言い、ユリナスに背中を押されてから少しおかしかった。
「まぁ良いわ、合格よ……貴方、素質あるわ」
そう言って肩を叩き歩いて行くフィリア、だがレイルの心境はかなり複雑だった。
あの力は飽くまでユリナスのおかげ、自分でやった事など何も無い……そんな自分が第一部隊に入って良いのか、気持ちは揺らいで居た。
「実力もそうだが良い勇気……見せてもらったぜ!」
「勇気……ですか?」
「あぁ、勇気も一つの天賦の才だ!」
そう言ってシャグマールから一枚の紙を渡される、シャグマールはその紙だけを渡すと去って行った。
「勇気も天賦の才か……」
ボロボロのステージでそう呟くとレイルは試験会場を後にした。