第14話 女神の昔話 3
「よっ、元気にしてましたかレイル君」
家の外に出ると見覚えのある顔……ユリナスが何故かそこに居た。
あまり元気が無い今の状況でも少し驚く、何せレイルの家は街の少し外れにある丘の上に立っているのだから家を教えて居ない彼女がここに居るのはおかしかった。
「なんでユリナスさんがここに?」
「あいっかわらずタメ語にならないね……まぁいいや、それよりレイル君今日試験でしょ?」
「そうですけど……って何でその事まで?」
彼女が今日の昇格試験を知っていると言うことは落ちこぼれであることがバレたと言うこと、だがこの際もうどうでも良かった、知りたいのは彼女が何処でその情報を仕入れたかだった。
「内緒、それよりも急がないと時間ないんじゃ無い?」
彼女のその言葉に時計を見ると家から少し出て10分は時間が経って居た、ここから試験会場の王宮内闘技場までは約40分、時間ギリギリもいい所だった。
「じゃあ俺は行きます」
「頑張ってー」
そう言って手を振るユリナスを横目に走る、何故彼女が家の前に居て落ちこぼれと言うことを知って居たのかは結局謎だったが忘れる事にした。
出会った当初の印象はお淑やか……だが今日の彼女は少しふわふわとした雰囲気と言うか……何か少し違った。
妙に彼女を意識してしまう、彼女が自分の中で何か引っかかる、だがその答えは見つからないまま試験会場となる王宮闘技場の入り口に着いた。
「遅い、あと5分で遅刻だったよ?」
そう言って時計を指差すユリナスを見てレイルは右手を額に当てため息をついた……何故彼女が此処に。
「一応関係者以外立ち入り禁止なんだけどここ……」
それにあの家からここまではかなり時間がかかる、かなり早く着いたつもりだったが何故来るにしても後からの彼女に負けたのか理解不能だった。
不思議な人……いつしか調子は狂わされて居た。
「ささ、試験始まるよ!」
そう言って背中を押すユリナス、すると体が嘘みたいに軽くなった気がした。
「これ……は?」
「ん?何が?」
不自然なまでに軽くなった体に違和感を感じてユリナスに尋ねるが彼女は全く知らない顔をして居た。
気の所為なのか……一先ず彼女に別れを告げるとレイルは試験会場に向かって行った。
「えー、それでは第1部隊、昇格試験を行う、内容は至ってシンプル……この私シャグマールと闘い勝てば良いだけだ!」
試験に着くや否やかなり大きめの正方形の形をしたステージの上で話をして居る試験官が試験内容を伝える、やはり予想はして居たが今年は例年にない程の無茶苦茶な試験内容だった。
あの試験官をして居るイカツイ身体をして少し髭を生やした斧を持つシャグマールという男は第1部隊でもトップクラスの4人にのみ与えられる四剣聖の称号を持つエリート中のエリート、そんな彼に勝てと言うのだから無茶苦茶だった。
レイルの試験順番は一番最後、周りの試験生の様にその場に座ると一番目の試験生とシャグマールの戦いをじっくり観戦する事にした。
「さぁかかって来い、若き戦士よ!」
そう言って斧を地面に叩きつけるとかなり距離のあるレイルが少しふわっと浮く、なんて言うパワーをして居るのかな……桁外れのまさに天賦の才能だった。
「エンチャント、ファイア!」
そう言って剣に炎を纏わせる試験者、それを見てシャグマールは鼻で笑い大きく息を吸い込んだ。
「それが炎?ふんっ、まだ若いな」
そう言って息を吐き出す、すると突風の様な風が吹き意図も簡単に火は消えてしまった。
「なっ?!」
「それで終わりか、次の試験者!出て来い!」
そう言うと1人目の試験を終わらせる、圧倒的実力差を見せつけられはしたがかなり中途半端に終わらされたにも関わらず1人目はあっさりと帰って行った。
「所詮こんなもんか」
そうボソッと呟くシャグマールの声が聞こえた、まるで耳元で囁かれたかの様……少し気持ちが悪かった。
「やっぱ俺の体……おかしいのか?」
体のあちこちを見回して見るが見える異変は無い、ユリナスが押した背中にも何も付いて居ない……暫く耳を澄ませて音を聞いて見るがそれ以降これと言った異変は無かった。
強いて言うなればいつもより音が透き通って居る事ぐらい、だがこんなものあまり関係無かった。
「次!早く来い!」
シャグマールの怒鳴る声に自分の番かと思い立ち上がる、だがステージの上に1人の青年がだるそうに向かって行くのを見て違うと分かると恥ずかしげに座った。
「貴様、やる気が無いなら帰れ」
ステージに上がった瞬間斧を顔の前に突き出すシャグマール、それに黒髪の片目が隠れた青年はにヘラと笑うと近くの試験者から剣を奪い取った。
「戦う気はある様だ……その前に一つ聞こう、何故お前は第1部隊になりたい」
そう問いを投げかけるシャグマール、その質問に少し指で顎を触ると青年は馬鹿にした様な表情で告げた。
「第1部隊って給料いいんでしょ?」
「貴様!!」
青年の言葉に激怒したシャグマールが斧を地面に叩きつける、すると地面が割れ辺りは地震の様に揺れた。
「おぉー、流石四剣聖」
危機感のない表情でそう言う青年、辺りの試験者や隊関係の人々は逃げて居るのにも関わらずレイルはその場で目を離せずに居た。
「安心しろ、殺しはしない……だが二度と剣は握れん事を覚悟しろ!」
そう言って斧を頭上高く構えるシャグマール、本格的に逃げなければやばいと思い急いでその場から離れようとした時1人の女性の声が聞こえた。
「シャグマール、辞めておきなさい」
「フィリア……だがこいつは我らを侮辱した!」
「勝手に侮辱させておけば良いわ、正義の為に国民を守って居るだけの私達にそう言う事を言う人は大抵妬み、羨ましいのよ」
そう言って両者を黙らせるフィリアと言う長い赤髪の綺麗な女性、彼女も見た事は無いが聞いた事はあった四剣聖の1人だった。
彼女、フィリアは髪色とは真逆の氷魔法を操る天才で氷結の魔女と言う異名を持つほど、普段は氷の様に冷たいと聞いたが見た感じそうは見えなかった。
「貴方、結果は追って知らせるから帰りなさい」
「分かりましたよっと」
フィリアの言葉に素直に応じて帰って行く青年、レイルの横を通り過ぎる時、ある言葉を言って行った。
「闇は存在する……」
その言葉に振り向き青年の方を向くレイル、彼からは危険なオーラを感じた。
遠ざかって行く彼の背中をじっと見つめて居ると肩を誰かに叩かれそちらを見る、するとフィリアが目の前に立って居た。
「貴方、良く逃げなかったわね」
「え、あぁ、はい……」
あまりにも突然の出来事に返す言葉が出て来ず変な対応になる、まさか四剣聖自ら話し掛けてくれるとは思っても居なかった。
朝の気分はまるで嘘の様に興奮して居るレイル、もしかすると試験無しで合格もあり得た。
「少し貴方に興味が湧いたわ、シャグマール、この子の相手は私がする」
そう言ってステージに上がって行くフィリア、その言葉にレイルの抱いて居た淡い期待は消えた。
だが勝率で言えばシャグマールよりかはあるはずと考えそこまで落胆はしなかった。
「分かりました……宜しくお願いします」
腰に携えて居る龍が巻きついた柄の剣を握り締めるとレイルはステージに向かって一歩歩き出した。