第13話 女神の昔話 2
「レイルさんはなんのお仕事をして居るのですか?」
ユリナス行きつけの店に行く途中、会話を途切らせない為にと何気なく言った一言……それにレイルはなんて返そうか迷って居た。
勿論仕事はして居る、だがその職業は周りからあまり良いイメージには無かった。
レイルの職業は王国第二騎士と言うもの。
王国騎士には二種類あり、国王に仕え、王の為なら命をも捨てる覚悟を持ち、それと同時になんらかの天賦の才能を持つのが第一部隊、それとは真逆のやる気が無い、もしくは無能な騎士が仕方無く置かれるのがレイル所属の第二部隊だった。
レイルのやる気は第一部隊級、だが実力が恐ろしい程に無かった……その事実をユリナスに正直に言える筈も無くレイルは嘘をついた。
「騎士……かな」
「王国騎士ですか!やっぱりひと目見た時から少し違う感じはしましたけどそう言う事ですかー」
目を輝かせてそう言うユリナス、そんな彼女にレイルは申し訳ない気持ちになり続きを話そうとした口を閉じて話題を変えた。
「それよりユリナスさんは?」
「私ですかー」
ふんわりとした雰囲気のユリナスだが服装は周りの人とはふた周りほど金のかかり様が違う、年齢的には仕事はして居なさそうだった。
となれば恐らくはお嬢様なのだろう、えらい人物を助けた様だった。
「そんな事よりもうすぐですよ!」
何かを誤魔化す様にレイルの手を引っ張りユリナスが前方を指差す、その仕草に少し違和感を感じた。
だが誰にでも言いたく無い事はある……あまり詮索をするのはやめた。
「あそこが行きつけ何ですか……?」
「そうです!凄く美味しいんですよ!」
少し興奮気味にそう言うユリナス、だが正直言ってレイルは現実なのかわからない程の衝撃を受けていた。
もう一度言うが彼女、ユリナスは凄く綺麗な服を着て如何にもお嬢様と言った見た目をして居る、だが連れてこられたのはレストランでも何でもない、レイル自身もたまに行く様なオンボロの寂れた外観をした酒場だった。
「さ、さっ、入りましょ!」
「は、はぁ……」
ユリナスに連れられるがまま両開きの扉を開けて店内に入る、まだ内装は豪華な隠しレストランという事を想像して居たが案の定違った。
人はちらほら居るが決して賑わっては居ない店内、所々ボロボロで何故修繕しないのか不思議になる程だった。
「マスター、今日も来たよ!」
「ユリちゃん今日も来たか!いつもの用意してるよ!」
テーブル席では無くカウンターに向かいマスターの前に座ると隣に座る様椅子をポンポン叩くユリナス、だがこう言うのも悪く無い気がした。
「マスターの料理は最高だから遠慮せず食べてね!」
そう言って机に出された料理を食べるユリナス、よく見ると飲み物がビールだった。
「あれ、ユリナスさんって成人済みなんですか?」
「よく言われます、実際は23なんですけどねー」
そう笑いながら言うユリナス、見た目は完全に15.6と言った所なのに自分よりも歳上という事にレイルはまたも衝撃を受けていた。
「気は使わなくていいよ!全然タメ口で良いし、ユリナスって呼んで!」
お酒が入ってなのか喋り方が変わり完全に明るい少女の様になるユリナス、気が付けば周りにはユリウスの顔見知りなのか人が集まって居た。
「おー、ユリナスにもとうとう彼氏か!」
「違うって、路地で襲われてたの助けてもらったんだよー」
和気藹々とした雰囲気でいつのまにか賑やかになる店内、レイルはマスターにトイレの場所を聞くとトイレに立った。
「何処行くの?」
「トイレ、すぐ戻ります」
「タメ語」
「戻るます……」
「あはは、行ってよし!」
そう言って笑うユリナスに笑顔で返すとトイレに向かう、扉をあけて個室に入るとレイルはため息をついた。
「凄く楽しそうだ……」
壁にもたれ掛かり腕を額に当てる、こんなに賑やかなのはいつ振りだろうか……少なくとも2年は味わって居なかった。
王国騎士になって2年、ひたすらある目的の為に己を磨き実力をつけようと努力したが結果はこの有様、目的に近づく気配すら無かった。
手を握り締めて唇を噛み締める、正義感があった所で実力が無ければ何も変わらなかった。
2週間後に迫っている部隊昇格試験、それに受かって第1部隊の下っ端にでもならない事には始まらなかった。
変わらない現状、実力に苛立ちばかりが募る、いつしか噛み締めて居た唇から血が出ていた。
「馬鹿だな……俺」
「私はそうは思わないなぁ」
個室扉の外から聞こえて来た声に驚く、良く考えればここは男子トイレ、何故ユリナスが居るのか謎だった。
「ユリナスさん?!ここ男子トイレですよ?!」
「タメ語って言ってるじゃん、それと君、悩んでるでしょ」
「な、何でそれを」
まるで心を見透かされて居るかの様で少し恐怖すらあった。
「どんな悩みかは分からないけど君は十分凄い物を持ってるよ、第1部隊って天賦の才能を持つ人の集まりなんでしょ?」
「それはそうだけど……でも俺は……」
「持ってるじゃん、正義感」
そう言って出て行くユリナス、その言葉にレイルは無言でトイレを出て店を後にした。
ーーーー食事から2週間後、レイルの表情はまだ暗かった。
3畳ほどの部屋が二つあるだけの自宅でベットに寝転がりながらあの日の言葉を思い出す。
正義感ーーーー果たしてそれを天賦の才能と言うのか……誰しもが持つもの、それが少し強いだけ……ただそれだけなのに。
時計を確認すると既に時間は10時を回り試験開始まで1時間を切っていた。
「最悪のコンディションだ……」
ふらふらと立ち上がりそう言うとレイルは服を脱ぎ青の軍服に着替えた。
鏡に映る自分を見て思わず笑う、何て酷い顔をしているのか……まるでこの世の終わりの様だった。
「取り敢えず行かないとな……」
ボソッと呟く様にそう言うとレイルは扉を開けて眩しい陽射しが差し出す外に一歩踏み出した。