第11話 王の策略
「どうしたのユリウス?」
小鳥の羽ばたきの音で過敏に反応を見せたユリウスに振り向き尋ねるエリス、周囲に敵の影を確認してみるが敵襲の様では無さそうだった。
「何でも無い……それより急ごう、嫌な予感がする」
そう言って歩くスピードを速めるユリウス、マキアの身に何かあった気がした。
心臓の鼓動が早くなっている……自分は焦っているのだろうか、マキアの命に危険が及んでいるかも知れないことに。
出会いはあの川の下流で助けられたのがきっかけ、彼女の事はただの恩人としてしか思って居なかった……年齢的にも強いて言うなら妹、決して恋愛対象としては見た事が無かった。
だが黒騎士が彼女の腕を奪ったあの時、初めて1人の女性として守ってやらなければならないと思った、1人ではあまりにも非力過ぎる彼女を……だが今の状況はあまりにも酷かった。
彼女は俺に好意を伝え復讐しに行くと言って黒騎士の元へ行った……だが彼女の性格を考えるととても復讐とは思えなかった。
お調子者だが決して礼節は忘れないマキア、そして彼女が常日頃言っていた事を思い出した。
「痛みは何も生まない……何故だマキア」
自身の言葉に背く様去ったマキアに疑問を抱き空を見上げるユリウス、それを見てエリスはずっと不思議な顔をしていた。
「ずっと思ってたんだけどさ」
「なんだ?」
「ユリウスって言うか白騎士ってそんな性格だったっけ?」
突然口を開きそれだけを告げるエリス、その言葉にユリウスは返す言葉が何も見つからなかった。
そんな性格……そう言えば白騎士ユリウスと言う人物はどんな性格をしていたのか、自分でも忘れていた。
それを忘れたのはいつか……記憶を辿っていくとそれは王から力を授かった時に辿り着いた。
その記憶に辿り着いた瞬間王が力を授ける為に光を出し体を包み込んだ瞬間不思議な夢を見た事を思い出した……広く広大な白い空間にポツンと佇む大きな門、そしてその前に立つ自分。
扉を押しても引いても何も起こらない……そのまま長い時が過ぎた様に感じた、そして扉を開けるのを諦めた頃、マキアの声が聞こえて目を覚ましたのだった。
目を覚ましてからずっと頭の靄に悩まされている、もしかするとこれは何かの封印では無いのか……そうユリウスは考え始めた。
「エリス、お前が知っているユリウスはどんな性格だ」
突然肩を掴み揺するユリウスにエリスは少し戸惑っていた。
何気なく言った一言でユリウスがここまで必死になるとは思って居なかった、これは転生者軍……闇が深そうだった。
「私の知るユリウスは正義感が強く、弱い人を絶対に助ける人だった……けど今のあんたはどっちかって言うとあれね、軍とかの犬みたいな性格してる」
「軍の……犬?」
「そう、あんたはカーニャを殺す事に何の疑問も抱かなかったでしょ……それは上の命令に忠実な性格になってしまったから、昔のユリウスなら間違い無く少女には手を出さなかったわ」
「俺が正義?俺が軍の犬?」
その場に跪き頭を抱えるユリウス、酷く頭痛がした……割れそうなほどの頭痛、自分が一体何者なのか……それすら分からなくなって来ていた。
あまりの頭痛に兜を投げ捨てるユリウス、するとそこにはこの世界では珍しい綺麗な黒髪が白く染まって行っていた。
「これは!」
エリスは見た瞬間に分かった、恐らくこれはクロディウスが使っていた魔法と同じ類の力、何らかの発動条件を満たせば発動する様に細工されていた様子だった。
発動条件は恐らく消した記憶を思い出す事……このままではユリウスは本当に軍の為だけに尽くす機械の様な男になってしまう、だが幸いにもクロディウスはここからそう遠く無いところに居る筈だった。
ユリウスの鎧を脱がせて、担ぐとその場に飛び上がり山の方へと羽ばたく、恐らくクロディウスならユリウスを治してくれるが問題は私自身だった。
クロディウスを裏切ってノコノコと顔を現した私を彼が許すはずが無い……転生者軍も私の事は信用していない、今更になって裏切った事を少し後悔していた。
だがユリウスを助けることに変わりは無い……それだけは確かだった。