第8話 次元の違い
「条件は整った」
ネロとの戦闘開始から3分程、決着をつけに行こうとユリウスが着地を狙った瞬間ロネからも感じた不思議な力が増大するのを感じ急いで離れようとするがネロは赤の炎を纏った剣を火傷など気にせずにぎゅっと血が出るまで握って居た。
「く、くそがぁ!!」
剣を何故離さなかったのかは分からない……離せば逃げれたかも知れないが目の前が光に覆われた今、そんな事を思っても意味が無かった。
光が目の前を覆ったかと思えばネロに集約し次の瞬間とてつもない爆発音を上げてユリウスを吹き飛ばす、凄まじい威力だった。
爆風で飛ばされ木に背中を強く打ち付け止まるとその場に倒れこむ、決死の攻撃……かなり効いた。
「だが死ぬには威力が足りないな」
爆発で巻き上げた砂埃を払い倒れ込んで居るネロを覗き込む、幸せそうな顔で死んで居るところを見ると俺を倒したと思って居るのだろう……だがそれにしてもあの爆発で原型を留めているとはどう言う理屈なのか理解し難かった。
二人が口にしたクロディウスと言う名……その名を思い出すたびに頭痛がする、何か懐かしい感じがするのだが何か分からなかった。
「一先ずあいつらを追うか……」
剣をしまい爆発で吹き飛んで居ない地面を調べ少し踏まれた雑草を辿り二人の後を追う、早くしないと黒騎士が帰ってくる可能性があった。
「おーい、隊長大丈夫か?」
「すっごい汚れてるね」
後ろからユリウスを追うように来たガレアスとマキア、あらかじめ通信機で呼んだとは言え来るのが遅すぎだった。
「死んだらどうすんだよ」
「まぁそう怒るなって隊長さんよ、あの家でこんなの見つけたぜ」
そう言いガレアスがポケットからでかい手で取り出した一つのペンダント、妙に豪華な装飾が施され高そうだった。
中身を開けて見ると凄まじい嫌悪感を感じた、誰だか分からないが金髪の若い青年と綺麗な銀髪の少女が二人笑って仲良く写っている小さい写真がロケットの中に入っている……誰だか分からない、だが凄く嫌な気分だった。
そっとペンダントを閉じてポケットにしまうと何も言わずに再びカーニャを追った。
「この辺か?」
大きな大木の開けた場所に出るが二人の姿は見えない、すると月明かりが大木を照らした。
「あの子ならもう此処には居ない……」
「それを信じるとでも?」
先程よりは回復して居る様子のロネ、だが此処に居る3人を倒せる筈が無かった。
そしてこの短時間で逃がせる場所と言えばあの大木の幹下、気を逸らさせようとして居るのは見え見えだった。
「隊長、こいつはおれがやる」
何処から取り出したのか巨大な斧を地面に叩きつけ地響きを鳴らすガレアス、決着は一瞬でつきそうだった。
「望むところ」
ガレアスを睨みつける様に剣を構えて走って来るロネ、ユリウスとの戦いの様な素早さはもう無かった。
そして決着は本当に一瞬だった。
斧を地面に突き刺し両腕で地面を叩くと地面が盛り上がりロネを挟み込む、その一撃でロネは絶命した。
「これが俺の武器能力だ」
ドヤ顔でそう言い斧を消すガレアス、それと同時にユリウスは剣を投げた。
「な!危ねぇじゃねぇか!」
ユリウスの剣を間一髪かわすガレアス、すると金属音が辺りに響きそしてロネが持っていた剣が地面に落ちた。
「早くカーニャを連れてこい」
「お、おう……」
ロネの死体を掴み如何にも生きてるかの様に歩かせる、そして幹の前に着くと少し出てきたカーニャを掴み引っ張り出した。
「何するんですか、離してください」
少し離れた所でカーニャを見る、彼女からもロネ達から感じた不思議な力を多量に感じた。
不気味……こんな少女が何故あれ程の力を持つのか、だが戦わない所を見ると力に自覚はない様だった。
「離せと言われて話す奴が居るか?」
そう言って腕を握る力を強めるガレアス、無駄に刺激を与えて力が覚醒すれば溜まったものじゃ無かった。
「ガレアス、その位にしておけ」
「ちっ、あーあ、戦い足りねぇな」
そう言いカーニャの腕を軽く握った瞬間ガレアスの股間をカーニャが蹴り上げる、それを見た瞬間自分まで少し痛い気がした。
「あっはは!ガレアスだっさ!」
その様子を見て腹を抱えて笑うマキア、痛みで悶絶して居るガレアス、カーニャは自分が捕まえた方が良さそうだった。
逃げる進行方向に先回りしカーニャがぶつかってくる、その場に転けるとカーニャは悲しげな瞳でユリウスを見た。
「無理……でした」
悲しげな声でそう呟いたカーニャ、その瞬間ユリウスの頭に何か衝撃が走った。
この表情……この言葉、何処かで聞いた事がある、何か頭の靄を取るヒントになりそうだった。
だがそれは怒り狂ったガレアスによって掻き消された。
「もう我慢ならねぇ!責任は俺が持つから殺させろ!!」
そう言って斧を取り出すガレアス、その瞬間凄まじい威圧感を何処からか感じユリウスはカーニャの元から離れマキアの隣に移動した。
そしてその直後ガレアスの巨体が吹き飛び二人の少女と圧倒的威圧感を放つ黒騎士が現れた。
「遅いですクロディウスさん……」
「すまない……お前ら何者だ」
その一言で場が凍りつきマキアが少し怯む、だがユリウスは違った。
兜の下で今までにない程の笑顔を浮かべて居た……強い、こんなにも強い奴が目の前に居る、今すぐにでも戦いたかった。
「エリス、結城……命に代えてもカーニャを守れ」
そう言って一歩ずつ近付いてくる黒騎士、ガレアスが何かを叫び突撃して行くが黒騎士が手を閉じるだけで息絶えた。
その光景を見た瞬間嬉しさは一瞬で危機感に変わった、このままでは……今のままでは殺されると。
マキアが叫びそしてその直後黒騎士が骸骨兵を出現させる、マキアの受けた傷口から腐敗が進む右腕を切り落とすとユリウスはマキアを抱え後退した。
「俺は転生者軍精鋭隊隊長のユリアス、黒騎士……次は仕留めるからな」
剣を黒騎士に向けそう言い放ちマキアの穴の中へとゆっくり入って行く、その言葉を受けて黒騎士は『無理だ』と呆れた声で言い放った。
穴から何処だか分からない丘の上に転移し一先ずマキアの傷を止血すると少しパニックになりかけて居たマキアが落ち着く、だが直ぐに頭を抱えると叫び出した。
「何なのあれ!強さの次元が違う!あんなのにどう勝てって言うのよ!!」
涙を流しながら震えて叫ぶマキア、その姿を見てユリウスは目を覚まして初めて自分の弱さに気がついた。
自分の身は守れるが仲間は守れない……そんなのは強いとは言えない、ガレアスは死んだ、そしてマキアも死に掛けた……楽しむなんて考えをユリウスは捨てた。
「すまない……」
震えるマキアを抱きしめてそう呟くとユリウスはそっと兜を取り空の満月を見上げた。