第7話 戦闘の始まり
「いやー、ユリウスお前は本当に強いな!」
国王を失い国民が戸惑うフィレンツェから少し離れた場所に位置するシストリア国内のアビストルネと言う街の賑わうギルドの酒場で豪快な笑いを上げ大きなコップに注がれた酒を飲み干すガレアス、少し酔っ払って居るその姿はほぼほぼ山賊と変わりなかった。
ガレアスが何かを話すたびに少しギルドの冒険者がこちらを振り向く、たまにチラシの様な物を確認する人も居る所を見ると賞金首か何かと勘違いされて居るのだろう。
完全に悪者の見た目をして居るガレアスだが本性はかなり良い奴、頑なに実力を認めたがらなかったのは中途半端な力で命を落とすところを見たくないから……本当にいい奴だった。
「そろそろ出発してもいい時間帯だけどユリウスどうする?」
ギルドの受付近くに取り付けられた時計で時間を確認する、現在の時刻は6時30分……ガレアスの酔い具合も考えて30分程休憩しておきたかった。
やけにテンションの高いガレアスを連れてマキアに外へ出る様伝えるとお代を払ってトイレに行く、トイレの扉を開け閉めると鏡の前の洗面器に手をつき前屈みになった。
胸の鼓動が早くなって居る、何故かは分からないが何か心躍る事が起きる様な気がした。
少し小汚いトイレには不釣り合いな自分の鎧姿が鏡に映る、所々にある昔初代の頃に出来たであろう傷を触りながら耳を澄ました。
騒がしいギルドの人々達が話す声が聞こえる……そして時計の針の音も。
人間離れした自分の肉体、何が起こったかは分からないが今は使命を全うするのみだった。
「そろそろ時間か……」
扉を開け出るとガレアス達が待つ外へと出る、服装を着替え盗賊の様な服になって居るマキアと酔いが多少は冷めた様子のガレアスが準備万端が待って居た。
「じゃあここからは……隊長、行くか」
突然敬語になるガレアス、やっと認めてもらえた様だった。
「マキア、頼めるか?」
無言で頷き地面に黒い穴を出現させるマキア、そしてその穴を通ると目の前は街中から森に一変した。
不思議な能力……だがそれよりももっと衝撃な物が森には広がって居た。
大量にある人の死体、血の森と言った所だった。
「ひでぇなこれは」
到着して直ぐに目にした悲惨な光景に酔いが完全に覚めるガレアス、流石に戦闘なれした自分でもこの光景は何か来るものがあった。
死体が道の様に続きその先にある家を見つける、中からはそこそこ強そうな気配を二つ感じた。
「マキア、ガレアス、この少し離れて観戦してろ、俺がやる」
「んじゃこれで何かあったら連絡してくれ、ここら辺一帯を調べてくる」
そう言って小型の黒い機械を渡すと去って行くガレアスとマキア、あの二人が居なくなるのを確認すると剣をそっと構えた。
「そこに一人隠れてんだろ……出て来いよ」
「バレちゃってましたか……貴方誰ですか?」
木の陰からスッと姿を現したセミロング程の金髪を風になびかせる見ただけでは性別の分からない人間、既に剣が握られて居るのを見ると戦い慣れしてるのは一目瞭然だった。
「お前……どっちだ?」
上から下まで身体つきなどを見るが判断出来なかった。
「何がですか?あ、性別なら男ですよ」
パッと見では分からないものだ、見た目だけで判断するなと言うのはこう言う事を言うのだろう……だがそんな事はどうでも良かった。
「カーニャって子は何処だ?」
「知ってても言いませんよ」
急に殺気が増す少年、久々に強者の予感で思わず兜の下でユリウスは笑った。
「少年、名を聞こうか」
「ロネ、ロネ・バーズリー」
「ロネか……それじゃあ始めよう」
そうユリウスが言った瞬間、懐近くに一瞬で移動するロネ、速さはまあまあと言った所だった。
地面の土を蹴り上げ視界を眩ませると少し距離を取る、予想外の攻撃に少し驚いた表情をロネはしたが直ぐに表情を元に戻した。
「攻撃しないんですか?」
「楽しみたい性格なんでね」
彼はまだ力を隠してる筈、まだまだ楽しむ余地はありそうだった。
「ムカつく人ですね……」
殺気立って居た雰囲気が急に穏やかになるロネ、だが髪の毛が逆立ち赤く染まって行く瞳を見ると嫌な予感がした。
異能の力でも無い不思議な力を彼から感じる……一体何をして居るのか分からなかった。
「貴方は強い……だから余裕がある、ならその余裕を消して上げますよ」
「そう来なくっちゃ」
黒いオーラを纏うロネと暫く睨み合いを続け両者とも出方を伺う、こうなった以上こちらも出し惜しみしては相手に失礼だった。
剣に炎を纏わせるとゆっくりと歩き出す、それを見てロネは笑って居た。
「行くぞ!!」
黒いオーラが伸びユリウスの視界を少しだけ縮めるとその死角から先程とは比にならない程の速度で接近して来る、だがユリウスはその行動を予測して居たかの様にロネが最終到達点として居るところにただ剣を構えて居た。
「なっ?!」
たまたまなのか、意図的なのか……それを確かめるべく何度も同じ手で攻撃を仕掛けようとするが全て先読みをされて居た。
「興が削がれた、動きが単調、闇で視界を隠せばその死角を突くのは容易に想像出来る、初歩の踏み出しを見れば大体どこに来るかも予測出来る……俺はお前を買いかぶって居たよ」
そう吐き捨てた瞬間ロネの身体に走る激痛、気が付けばユリウスは家に向かって歩き自分は天を仰いで居た。
「何故殺さない……」
「娘が居なかった時に居場所を聞き出す要員だよ、もしくは人質」
そう言って家の中に入って行くユリウス、その後ろ姿を見ている事しか出来ない事にロネは涙を流した。