第2話 始まる新たな旅路
「へー凄い街ね、向こうの文明とまでは行かないけどかなり発展してる」
ずっと山の中で暮らしていたからなのかグラントリアの街を見回して感心するマキア、異界の者が決まって口にする
『向こう』を彼女も口にする辺り異界の者なのだろう、だが彼女は俺の恩人……それにグラントリアの騎士となった今私怨は関係ない、彼女は立派な仲間なのだから。
それにしても一つ気になることがあった、それは周りの視線と穏やかな雰囲気では無い街、理由は分からないが妙にピリついていた。
辺りを見回し顔見知りの兵士を見つけると声を掛ける、だが声が届かなかったのかこちらも見ずに走って行ってしまった。
「この国なんかあったの?」
「何か……あったのか?」
不思議だが何も無いとは言えなかった、この国から山賊討伐に出て恐らく時間にして1時間程、その間に何か起こる方の方が凄いが不思議と嫌な予感がしてならなかった。
マキアを連れ城の城門前まで行き中に入ろうとする、するとその予感は的中した。
「お前ら何者だ!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!!」
二人の兵士が槍を使いばってんを作って通せんぼする、その言葉にユリウスは固まった。
「え?え?何?何なの?」
「騎士団長だぞ?お前ら分からないのか?騎士団長のユリウスだよ!!」
「騎士団長?先代のユリウス様は先刻山賊に殺された、つまらない冗談を言いに来たなら帰れ!!」
槍をユリウスに向け怒鳴る兵士、表情を見ると本気の様子……だが俺はここに居る、死んでは居なかった。
「これは悪い悪夢なのか?」
顔を押さえて下を向くユリウス、その様子を見てマキアは瞬時に察した、このままではやばいと。
彼と会って数十分、彼の事は何も知らないがマキアは父からの暴力を受けていたと理由で他人の気配や機嫌を察知するのが妙に長けて居た、そして今その力が役に立った。
「ユリウス、とにかく行くぞ!」
手を引いてその場から離れようとするマキア、だが幾ら察知する能力が長けて居ようともこの後起こる事は初めから回避する事は不可能だった、圧倒的力不足……マキアには80は近しいユリウスの身体を引きずる事は出来なかった。
170後半と男性にしては平均的な身長にも関わらずある80の体重、その理由は圧倒的な筋肉量、だが騎士団にまで登りつめた男、それくらいは訳なかった。
「国王!!!!」
自分は切り捨てられた、そう認識したユリウスは我を忘れ怒り狂った、それを見たマキアは悟った、早く去らなければ自分も巻き込まれると。
だが不思議とこの結末を見届けたかった……理由は分からない、だから不思議なのだ。
建物を壊し、人を殺し、暴れるその姿はまさに鬼の如く……そして国王を目の前にしてユリウスは少しだけ正気に戻った。
「何故俺を捨てた」
ユリウスの口から威圧的な雰囲気で放たれたその一言、それに国王は怯える事しか出来なかった。
「はぁ……俺も少なからず恩は感じている、俺を道具の様に思いながらも育ててくれたのだからな」
ユリウスは知っていた、この国王が俺をこの国に受け入れた理由を、数年前に何気無くこの城の廊下を歩いて居た時聞いてしまった、国王と大臣が話す声を。
「ユリウス、あいつは厄介だな」
「ですね、今のうちに手懐けておかないと大人になって牙剥いたら厄介ですよ」
「だよな、クローディリスの国王には一杯食わされた、まさか自国が滅ぶのを予測して生き残りを4000万の国家予算と引き換えに受け入れろなどと……」
その言葉を聞いた時ユリウスは全て悟った、国王は自分の事を厄介者と感じている事を、そして自国が突然貧乏になった理由もこれでハッキリした。
感謝はしている、それにあの時キレなかったのは訳があった。
大金をはたいてまで国民を守ってくれたクローディリス、それを自分の個人的な怒りで台無しにする訳にはいかない、それに加えてまだあの頃は捨てられて居なかった。
だが今は状況が違う、もうこの国の騎士では無い、この国の住人でも……それは祖国の国王を裏切る行為になる、それは正義を貫いてきた騎士として許せなかった。
「国王様、今お守りします!」
一人の金髪兵士が剣を持ってユリウスに飛び掛かるがユリウスはそれをいとも簡単に否し赤の剣を喉元に突きつけた。
「セインか、死にたくなきゃ下がれ」
ユリウスの弟子の一人、筋が良くまだ15歳と未来もある、ここで殺すには惜しい人材だった。
「誰だか知らねぇが俺の名を呼ぶな!」
「ユリウスだぞ?」
「知らん!ユリウス様はお前では無い!」
セインの一言で薄々勘付いて居た疑問は強くなった。
この国に来て10年、ユリウスの名を貰って6年、この国に俺の素顔を知らない人は居ない……なのに彼らは俺と初対面の様な対応をする、まさか記憶を無くしているのでは無いのだろうか。
だがそうだとしても誰が……こんなにも大規模な記憶喪失、まず常人じゃ無理だった。
考えようとも答えは出ない、だがお陰で冷静になることが出来た。
10秒と掛からずにセインと国王を始末する、数日前まではこの国に忠誠を誓って居た騎士が今はこのざま……笑えてくる。
玉座に飾られて居た初代白騎士の鎧を身に付けるとユリウスは外に出た。
「結構スッキリした顔してるね」
「兜で見えてないぞ?」
「私には分かるのよ」
そう言って見張りの兵士の死体を蹴飛ばしユリウスに近づいてくるマキア、弱いと見くびって居たが彼女も中々やる様だった。
「答え探しに行くんでしょ?」
「おう」
「じゃあ早く行こう、この街そろそろやばいしね」
そう言って笑うマキア、騒がしくなる街をユリウスはマキアと二人で駆け抜けた。