1話 白騎士ユリウス
0030年、滅びし国クローディリスで一人の少年が辛うじて難を逃れた。
「団長様……国王、皆んな!!!」
丘の上から見下ろすクローディリスの国は至る所から火の手が上がり国民の悲鳴が聞こえる、当時10歳の少年には何も出来なかった。
突如現れた異形の力を使う者たち……それに皆殺された。
騎士団長は今も決死の思いで戦っている、少年を逃す為に。
少年は靴も履かずに飛び出てきた故に足をボロボロにしながらも痛みを堪え走った、隣国のグラントリアまで行けば助けてもらえると知って居たから。
この戦いでオージギアは元は半分だった国土を打ち滅ぼしたクローディリスと合わせ大国となった。
命からがらグラントリアに逃げ込んだ青年はそこの国王に大切に育てられた、そして四年後の0038年、青年となった少年に一つの名が与えられた。
白騎士ユリウス。
この名はグラントリアに代々伝わる騎士団長になりし者のみに与えられる名、その日名も無き青年はユリウスとなった。
ユリウスの名を貰った青年はその後迫り来る敵を全て薙ぎ払った、だがその内異形の力を使う者が現れ始め、運命の出来事は起きた。
ゆき
「我が名はユリウス、山賊の頭とはお前か」
無精髭を蓄えた男に剣を向けそう尋ねる爽やかな黒髪の青年ユリウス、その言葉に男は不敵な笑みだけを浮かべた。
「これはこれは、100の兵士をも退けたかの英雄ユリウス様では御座いませんか、まさか私のようなチンピラ相手に出て来られるとは」
山賊にしては妙に低姿勢な事に疑問を抱きつつも剣を構えて一気に間合いを詰め身体に一太刀浴びせる、だが剣は鈍い音を立てて宙を舞った。
「剣が折れた……?!」
男の身体はまるで鋼のように硬かった、鍛え上げられたとかそう言う次元では無い……鋼そのものだった。
ふとその時昔国を滅ぼされた時の光景がフラッシュバックした、手から炎を出し民を焼く者、神の如く雷鳴を落とす者……ユリウスはその瞬間悟った、これは異形の力だと。
「残念だったな白騎士さんよ!!」
男の振り上げた拳を見て咄嗟にガードするが男の拳は純白の鎧を突き破りユリウスを吹っ飛ばした。
国王から貰った鎧が破壊され、民からの期待を裏切り俺は負けた……飛ばされた衝撃で崖から落ち滑空する中ユリウスは自分の無力を悔いた。
何故自分はあの力を持たぬのか、何故自分はこんなにも弱いのか……だが死ぬとなった今どうでも良かった。
崖のはるか下を流れる川に身体を打ち付けられる、為すすべもなく沈んで行く身体は何故か軽く暖かかった。
これが死ぬ前の感覚……不思議だった。
「ユリウス、力が欲しいか」
何処からともなく聞こえる声、暖かく、何処か懐かしい優しい女性の声……その言葉にユリウスは何も言わず頷いた。
「承った……白騎士ユリウス、お主に二対の剣をーーーー事黒騎士を討伐する為に授ける、お主の役目は黒騎士を倒す、ただ一つだ」
そう言った女性の声、剣の後の言葉がノイズで聞き取れなかったが話の流れを掴んだ時ユリウスは確信した。
自分は死んでいないと。
そして目を覚ますと木造りの天井が目に入ってきた、所々身体が痛み生きてると実感する証拠がある、目線を色々な場所に移すと此処が大体何処で自分がどんな状況かが分かってきた。
手作りのアンティークが所狭しと置かれてはいるが決して広く無い、恐らく川沿いの小屋か何処かだろう。
助けてくれた恩人が居ないのを見ると出掛けている最中、とっとと去りたい所だが礼だけは言っておきたかった。
一先ず外の空気を吸おうと立ち上がった時に腰に感じた違和感、何かがあった。
「これは……」
刀身が赤の剣と青の剣、夢だと思っていた女性が言った二対の剣だった。
赤の剣を軽く振って見ると一瞬だけ炎が出現する、青の剣を今度は振れば氷が出現すると同時に砕け散って行く、あの忌まわしき異能の力だった。
家族を奪い、国を奪った力、だが不思議と憎悪は湧かなかった、寧ろこれで国を守る事が出来る……願っても無い力だった。
「あ、起きてたのね」
ドアを開け入って来た見慣れない着物を着たおかっぱの少女、手にはキノコがカゴいっぱい抱えられていた。
「あんたが俺を助けてくれたのか?」
「そうよ、釣りしようとしたら倒れてたからビックリしたよ」
「そうか、すまないな」
「いいよ、それよりキノコスープ食べる?」
手に持たれたキノコを大量に鍋の中へ突っ込んで行く少女を見てユリウスは戦慄した、毒キノコが入って行くのが見えたのだ。
「ちょ、ちょっと待て!お前毒キノコも食う気か?!」
「ちょっとお腹痛くなるだけだから大丈夫よ、それにこの世界じゃそうでもしないと生きれない……」
悲しげな表情でそう言い鍋を置く少女、こんな少女までがここまで思い詰めてしまう国……騎士団長として恥ずかしかった。
だが騎士団長が出来る事は国を守る……ただそれだけだった。
「戦い……そうか」
「どうしたんですか?」
「お前我が国の騎士にならないか?俺を助けてくれた礼も兼ねて」
「私が?あんまり気乗りしないしあと貴方が決めていいの?」
「あぁ、騎士団長だからな」
そう言った瞬間彼女の表情が明らかに驚いた表情に変わる、そして笑顔を見せた。
「騎士も悪く無いわね……」
「あぁ、修行は厳しいが君なら……ってそう言えば名前は?」
「マキア、貴方は?」
「ユリウス、グラントリア騎士団長のユリウスだ」
マキアとの出会い、彼女との出会いが今後の俺が歩む道を全て変えることとなる。