第28話 裏切りと記憶
「寒っ……」
冷たい風が吹く森の中を時々木に身を隠しながら進む、空を見上げるとどんよりとした曇り模様、あまり気持ちのいい朝とは言えなかった。
揺れる赤髪のツインテールを後ろから隠れる様に眺め跡をつけていく、これじゃまるでストーカーだった。
エリス・ヴァークライ……昨日の帰宅後からどうも様子がおかしい、何かずっと思い悩んで居る、時々見せる苦しげな表情を見ると悪巧みには見えない……少し彼女の行動が気になった。
勿論こんな回りくどい事をせずともエルネの能力で吐かせることも出来る……だが仮にも仲間、それは少ししたくなかった。
時々周囲を見回しながら尾行を警戒して居る素振りを見せるエリス、だが残念ながら今のクロディウスの状態は気配を完全に遮断しその辺に落ちている石ころとおんなじくらいの存在になって居る、奇跡でも起きない限り見つけるのは不可能だった。
暫く森の中を歩き森を抜け砂漠地帯に出る、恐らくこの道はミズガルドへ向かって居るのだろう。
だが何故ミズガルド……何かイベントでもあったのか、仮にあったとしてもエリスは参加する様には見えない……ならば旧友の存在なのだろうか。
いつもは暑い日差しが照りつける砂漠地帯も今日は曇り、少しずつ雨が降り丁度良い涼しさだった。
時々砂に足を取られ進みにくそうなエリスを後ろで眺めながら辺りを見回す、不気味なまでに広がる砂の光景、ミズガルドまでは後半日と言った所だった。
果てし無く続く砂を眺め続けるクロディウス、その時激しい頭痛に襲われた。
「な、なんだこれは……」
治癒魔法でも消えない痛み……初めて感じる、そしてその痛みはどんどん増していきクロディウスの意識を奪った。
「なんの音?」
突然後ろでドサッ、と言う音と共に舞い上がった砂埃に警戒する、だが砂埃が消えても人の姿は無かった。
特に問題は無い……そう思いまた歩みを進める、本当にこの答えで良かったのだろうか。
あの圧倒的力に恐れて仲間になった部分もあるがガラハッドの件やその他の事で恩を感じて居る部分もある、それを裏切る……私の出した答えはそれで良いのだろうか。
「ヴァークライ……私はどうすれば良いの」
昨日の内に答えは決めたはず、なのにまだ心が揺らぐ……何故、クロディウスはただの仲間、それ以上でもそれ以下でも無い……それなのに何故か心が痛む、親友のだったエイカと天秤に掛ければエイカが圧倒的の筈、なのに決めきれない自分にイライラした。
剣を手に取り刀身を見つめる、本当に仲間になるのならばこの刀身をクロディウスと交えなければならない……また心が揺らいだ。
完全に心が決めきれぬままいつの間にかミズガルドの街入り口まで来ていた。
「答えは決まった?」
「えぇ……」
どこからとも無く現れる青年Aに少し元気無くそう告げる、すると青年はすぐ様迷いを見破ったのかエリスに近づき耳打ちをした。
「迷いがあるならたち切ってあげる」
そう言いエリスにある事を告げる青年、その瞬間エリスの表情が変わった。
「あの出来事にそんな真実が……」
ある出来事の真相を口頭とは言え知らされたエリスに全ての迷いは消えた、剣を青年に向け少しだけ斬りつけるとその血を舐める……これはヴァークライ家に伝わる仲間の証し、私はクロディウスを裏切る事に決めた。
「君が入れば100人力だよ」
「ええ、そうね」
そう告げると青年が肩にてを乗せる、そしてエリスに笑顔を見せると2人はミズガルド入り口から姿を消した。
「くそ……頭が痛ぇ……」
少し口調が変わり雰囲気も変わったクロディウス、辺りを見回すと砂を触った。
「懐かしい感触……記憶が少し戻ると違うな」
失われた記憶のカケラが少しだけ戻った。
自分は一国の騎士だったと言う事、そしてその国を転生者に滅ぼされた事。
転生者を殺して快感を得る理由はやっと分かった、だがまだ失った記憶の部分が大き過ぎて一歩前進と言うわけでも無かった。
何故突然戻ったのかは分からない、だがこの砂漠で何か記憶にまつわる事があった……それだけは分かる。
となれば母国ガレリアに戻れば少しでも記憶が戻る筈だった。
「転生者狩りは少し休憩だな……」
そう告げ風の様に消え去る、クロディウスがいなくなった場所に突然突風が吹き砂埃を舞いあげる。
そして砂が少し減った部分からは古びた鎧が見えていた。