第27話 揺らぐ心
クロディウスと旅をしてどれくらい経ったのか、数日なのか数週間なのか……分からない。
だが分かる事は私達の事を仲間と思ってはいないと言う事だった。
これから先もそれは恐らく変わる事は無い……だが私はそれで良かった。
人間なんて身勝手な生き物信じられない、信じれば啓介の様に裏切られる……そんな事になるなら初めから浅い付き合いで良かった。
剣を太陽にかざしながら屋根の上で寝転がる、下では何をやって居るのか結城がずっと叫んで居た。
「だ、あ!そこは負けちゃだめっすよ!この役立たず!」
バタバタと楽しそうに一人で何をやって居るのか、見当もつかないが見に行く気にも特にならなかった。
仇のガラハッド倒した今特に生きる目的も無い、ただ無気力に時が過ぎるのを待つのみ……一体私はいつ死ぬのだろうか。
3000年と言う長過ぎる時を生きた、この世界と共に育ったと言っても過言では無い、この世界は進化した……人も。
だが一つだけ進化してない部分がある、それは争いを続ける事。
クロディウスの言う転生者の王然り国々の争いまで……あまりにも愚か、だがその争いで我が種族は滅んだ、結局生まれてきた全ての生き物がいずれ過ちを犯すと言う事なのだろう。
強い風が吹きエリスの髪を揺らす、正直なところクロディウスには感謝して居る。
先も言った通り私は3000年を生きている、あまりにも長く生き過ぎると感情が薄くなって来るのだ。
クロディウスはその感情を引き出し私を興奮させてくれた、そしてある感情も同時に消してくれた。
憎悪の感情を。
ガラハッドを殺す、その一心でクロディウスに出会う日まで生きていた。
人を殺すのが嫌い……と言っても誰も信じてはくれないだろう、だが私は本当に人を殺すのが嫌いだ。
血を吸うために人を殺し、ガラハッドを殺すために障害となる人を殺し……ガラハッドが生きている内はまだ良かった。
だが死んだ今心が痛む、死んでいった人の家族や未練を思うと罪を背負いきれない……私がクロディウスなら恐らく罪が重過ぎて死んでしまうだろう。
「クロディウスは凄いわね……」
立ち上がり屋根から飛び降りる、すると扉の前にクロディウスが立っている、帰って来ていた様だった。
「いつ帰ったの?」
「つい数分前だ」
それだけを告げて家の中に入って行くクロディウス、相変わらず冷たい、人間の分際で。
だが彼だけは認めている、私より強い、私より格上だと。
だがそんな事よりも今は睨みを利かせて来る私より少し背の小さい銀髪の少女が気になった。
新たに仲間に加えたのだろうか、何処と無く危険なオーラを感じた。
「なに?」
「君クロディウスの何なの」
「何ってただの仲間よ、それ以下でもそれ以上でも無いわ」
「そうかそうか!それは良かった、僕はエルネ!宜しくね!」
クロディウスと親密じゃ無いと分かった途端に笑顔になって肩を叩く、よく分からない少女だ。
家の中に入り結城にも同じ質問をして居るエルネ、彼女に続いて家に入ろうとした瞬間結城と言い合いになって居るのが聞こえて来た。
「は、入らない方が良さそうね……」
回れ右して森の方に歩いて行く、ワイワイ楽しそうにやって居る彼女達が正直羨ましい。
私はこの少し人を下に見る性格のせいで周りからどうしても浮いてしまう、親しい人など生まれてこの方1人しか出来たことが無かった。
2000年前に出会った人間の少女……エイカ、もう一度叶う事なら会いたかった。
「君がエリス君?」
何の気配も感じず真後ろから声がする、首筋に当たる吐息……誰か背後に居る。
剣に手を掛けようとゆっくり気が付かれない様動かすが凄まじい力で手を握られ動かせなくなった。
「何者?」
「僕の名前はそうだね……スカウトマンAとでも名乗ろうか」
「スカウトマン?」
彼から殺意は見えない、何が目的なのか……一刻も早くクロディウスに知らせなくてはならなかった。
「まぁ落ち着いて、君の実力を買って僕は来たんだ、暴れられると困るよ」
手を握る力が強まる、今にも折られそうだった。
「何が目的」
「率直に言って黒騎士を裏切ってくれない?」
「クロディウスを?何故?」
「僕は転生者軍で強そうな人を今片っ端からスカウトしてるんだよ……そうでもしないと彼には勝てないからね」
「私を加えた所で戦力にはならないわよ」
クロディウスの強さは次元が違う、3000年生きてきたが彼より強い人間……いや、種族は見た事が無かった。
私が加わった所で勝率0%が0.1も上がる事は無い、加わるメリットが無かった。
「勿論タダとは言わない……君に力を与えるのと同時に会いたい人に合わせて上げるよ」
「会いたい人?何を言って」
「それじゃあ答えは明日、ミズガルドの街の入り口で聞くね」
エリスの言葉を遮る様にそう言い放ち消え去るスカウトマン、会いたい人……最後のその言葉にエリスの心は揺れた。
「エイカ……」
そう呟くエリス、今日の風は一段と寒い気がした。