第23話 アーリス教3
「血が足りないならもっと吸いなさい!こんな雑魚達に手間取ってる時間は無い!!」
身体がおかしくなっていくのは分かっている、だがアーリス教の教祖……ガラハット、彼だけは許せなかった。
空を舞うエリスを撃ち落そうと無数の砲弾や銃弾がエリス目掛け撃ち放たれる、だが血を倍以上吸わせている今のエリスにはそんな物無意味だった。
化け物。
1人の兵士がそう言い戦意を無くす、人間とは圧倒的な力の前ではこうも簡単に諦める……数分もすれば何百と居そうな兵士が半分近くに減って居た。
鬼気迫る表情で城の中へと向かうエリスを止めようとするが兵士達はまるで蟻の様に蹴散らされていく、そしてエリスの前に1人の男が立ち塞がった。
「モーリス、やっぱり敵だったのね」
「逆に仲間と思ってくれていたのですか?」
笑顔で話すモーリス、癪に触る。
剣を握りしめると凄まじい風圧が辺り一帯に居た兵士を吹き飛ばす、この体長くは持たなそうだった。
モーリスは強そうには見えない、だがこう言うタイプの敵が何より怖い……一撃で決める。
羽を広げて一気に加速するとモーリスの目の前まで行き右足の膝を曲がらない方向に蹴飛ばす、だがモーリスはそれを予測して居たかの様にジャンプして居た。
「掛かったわね」
ジャンプしたせいで宙を舞っている無防備なモーリスの右肩から真っ二つにする勢いで剣を横に振る、だが不自然な金属音を立てて剣は弾かれた。
「君の行動は手に取るように分かる……君に勝ち目は無いよエリスさん」
服の下に鉄の腕宛を仕込んでいる……ヴァークライでも斬れないとなるとかなりの強度だった。
だがそれよりもモーリスの反応が不自然すぎる、ジャンプから腕の防御までの流れがまるで予測して居たかの様に速かった……まるで未来を予測されているかの様だった。
いつもの笑顔とはまた違う不気味な笑顔を浮かべ手を動かし挑発するモーリス、こうなれば彼の反応出来ない程のスピードで攻撃するしかなかった。
羽を広げつつも羽では飛ばず踏み込みで一気に距離を詰めると何も無いであろう胴体に斬りかかる、それを躱されると今度は頭から両断しようと試みる、しかしそれも予測されたかの様に手払い1つで否された。
「どうしたんですか?もう終わりですか?」
「ふん、人間風情が……」
強気な言葉を吐いて息巻いて見たは良いが攻撃が当たる気がしない、先から催眠も試みているが掛かる気配も無い……何か予測して居ても当てれる攻撃は何か無いか……
「何故アーリス教を恨むのですか?」
どう言う目的なのかは不明だが会話を始めるモーリス、だが疲れているこっちにとっては好都合だった。
「アーリス教はどうでも良いわ、私が恨んでるのはガラハットただ1人よ」
「成る程、教祖様も色々な人から恨みを買いますね」
また笑うモーリス、良く思えば何故彼から仕掛けて来ないのだろうか、私の攻撃を全て避け切る事ができる程の身体能力、攻撃に活かせば私が負ける可能性もある……何か攻撃出来ない訳でもあるのだろうか。
仮にそうとするなら好都合……考える時間が出来た。
催眠を使って2人で仕掛ける……だがそれだと自分の攻撃が疎かになる、第1催眠はかなりの集中力が要る、それを戦闘と並行して使うなんて私には不可能……だが私の力と言えば催眠と身体能力が少し高い事くらい……ヴァークライで血を吸わせた状態になるとその身体能力向上効果とんでも無く上がるが今の状態でかなり体に負担が掛かっている、これ以上は無理だった。
となればやはり当たるまで攻撃あるのみなのか……そう思った時頬に微かな痛みを感じた。
滴り落ちる血……
「あ、当たった?」
広い中庭の隅の方にある草陰で兵士の声がし振り向くと銃を持ったまだ若い青年が銃を持って震えて居た。
流れる血を見て思い出す、あの力があった。
「この技が決まらなかったら素直に負けを認めてあげる」
「良いですよ……」
少し顔が険しくなるモーリス、何かを察したのだろうか少し背後に下がった。
再度剣を構えてモーリス目掛け走ると剣の先端をモーリスに向ける……だが目的は突き刺す事では無かった。
「血を吸い、そして吐き出せヴァークライ!!」
「くっ!!」
吐き出された血が鋭く尖り無数の弾丸の様にモーリスを貫いて行く、最後のとっておき……自身の血質の変化、決まって良かった。
貫かれたモーリスはその場に倒れる、それを確認するとエリスも力を使い果たしたかの様に座り込んだ。
「貴方のその攻撃見えてました……ただ避けれる未来が見えなかったんですよ」
「未来……笑わせるわ、そんなの見えるなら苦労しないわよ」
「ははっ、ごもっともですね……殺して下さい」
最後に楽しげな笑い声を上げたモーリス、あまりいけ好かない奴だったが殺すのは少し躊躇いがあった。
最後のこの雰囲気、どうにかすれば分かり合えるのでは無いか……そう思ったが彼はアーリス教の者、どうやっても無理だった。
「貴方との戦いは楽しかったわ」
「それは嬉しい言葉ですね……」
その言葉を聞き届けるとモーリスの心臓に剣を突き刺す、そして今のうちにモーリスの血を剣に吸わせて置いた。
剣と私の体はかなりリンクしており剣が血を吸うのと私が直接吸うの、同じ回復効果があった。
周りに居たギャラリーの様な兵士達も先程の戦いで殆どが戦意を無くし逃げ城の中には容易く入れた。
だが問題はここから、城内には恐らくモーリスクラスがまだ居るはず……かなりの長期戦になりそうだった。
「クロディウスの強さが羨ましい……」
笑いながら目の前に立ちはだかる大量の兵達を見るとエリスは剣を強く握り締めた。
宿屋の窓から城の方向を眺める、街は凄い賑わいだが兵士達が走り回るのを見るとまた別の賑わいだった。
「モーリスが死んだか……それにエリスも暴れてる様だな」
モーリスに掛けた魔法の効果が消えエリスにこっそりと掛けておいた追跡魔法で城内に居るのを捉えた、加勢に行くのも良いがここはひとつ吸血鬼の力を信じて見ても良さそうだ……それにセリアの事が気になる。
いや、具体的には彼女自身では無く彼女の持つ転生者の王、若しくは与える者の情報について凄く興味があった。
ダメ元でもう一度サーチを掛けて見る、するとサーチはあっさり成功した。
真っ先に生じた疑問……だがその答えはすぐ分かった、それはモーリスの存在、彼がサーチを恐らく邪魔して居たのだろう。
その方法は分からないがサーチさえ出来ればあとはこっちのものだった。
「結城!行くぞ!」
「へ、は、はいっす!」
隣の壁を強く叩くと寝起きなのか眠たそうに返事をする結城、宿屋に置いてある荷物をまとめ部屋から出ると荷物を結城に持たせ街の広場の方へと歩いて行った。