第22話 アーリス教2
「一般市民は駄目な様子ね……」
アーリス教の名を口にしただけで下を向き足早に去って行く街の住人、これはアーリス教がここにあるのは確実だった。
問題は場所、城と予想しているが万が一違った時の為に確実な証拠が欲しかった。
となれば平民は恐らく知っていても口を割らない、理由は身なりにあった。
皆んなこの排気ガスが充満している国でも妙に小綺麗、という事は毎日風呂かシャワーを浴びる余裕があるという事……つまりこの国の平民は国に不満を持っていない、そんな平民からアーリス教の事を書き出せるわけが無かった。
となれば裏路地を適当に歩けば出られるであろうスラムで情報収集するのが一番効率が良さそうだった。
「さーてと、頑張りますか」
小さな体をグッと伸ばすと辺りを見回し人が居ないことを確認すると路地裏へと入って行った。
「これは一段と汚いわね」
ゴミが散乱し近くの工場から流れ出た何かの液体が地面を濡らしている、こんな所で転けたら死にたくなるほど汚かった。
暫く薄暗く汚い裏路地を歩き抜けると不自然な川沿いの道に出た。
「なにこれ……」
国と向こう側を分ける様に伸びる川、そして一本だけ掛かった橋には兵士と見られる人物が3人立っていた。
スラムを国から切り離している……見てて気分が悪くなったが揉め事はあまり起こしたく無い、目を瞑る事にした。
向こう側のスラムまでは20メートルほど、何故橋一本で切り離せているのかは川質に恐らくあるのだろう、ドロドロと何色にも混ざり合った吐き気のする川、匂いを嗅いだだけで病気になりそうだった。
一般人なら橋から渡るしか無いがそれを兵士が邪魔をする、だが私には特に障害にはならなかった。
エリス・ヴァークライは吸血鬼……そんじょそこらの奴とは違った。
「ちょっと、この橋通らせて下さる?」
兵士達の目を見てそう言う、すると兵士達の目が赤く染まり敬礼した。
「エリス様!どうぞお通り下さい!」
「ありがとねー」
そう言って橋を渡る、吸血鬼特有の完全催眠、自分より下の者ならどんな命令も聞かせることができる……まさに最強の能力だった。
そして兵士に使って思い出した、これを使ってアーリス教の事を聞けば良い事を。
「わざわざスラム行く必要無いじゃん」
兵士達に聞こうと橋を引き返そうとする、その時橋に亀裂が入った。
「何……」
小さく入った亀裂、今すぐに落ちる訳じゃ無いが急ぐ必要があった。
足早に橋を引き返そうと再び足を進める、その時馬鹿でかい円形の刃がついた回転式の武器が飛んできた。
武器はエリスでは無く橋を壊すとそのまま橋は川に溶ける様な音を立てて落ちた。
「黒騎士一同……1人目始末完了」
目を閉じミステリアスな雰囲気を放つ和服を着たロングヘアーの男はそう告げ武器を肩に担ぐとその場を去ろうとした。
「あんな位じゃ私は死なないわよ」
エリスの声が聞こえ男は辺りを見回す、だが辺りには誰もいない、もしやと上に視線を移すと羽を広げたエリスが空を飛んでいた。
「これまた奇怪な……だが面白い」
奇妙な喋り方をする男……強そうには見えなかったが目を閉じているせいで催眠が使えない、普通に戦うしか無かった。
だが彼が来てくれた少しラッキーだった、恐らく城の者……つまりアーリス教の情報を知っている筈だった。
「血吸いの獣よ……いざ尋常に!!」
そう言いチェーンソーの先端にも1つ丸型の刃物をつけた様なでかい武器を抱えているとは思えない程のスピードで突っ込んでくると凄まじい機械音を立てて武器の刃を回し始めた。
あれを喰らえば私でもかなりの重症になる、普通の剣じゃまず折られるだろう……だが私の剣はそこらの剣とは一味違った。
「この剣は人間の血を吸って強くなる吸血鬼殺しの剣……だけど私の血を吸ったこの剣は違う、全てを覇する剣……覇剣ヴァークライよ!」
剣の持ち手から棘が出現し血を吸って行く、その瞬間エリスの雰囲気が変わった。
見た目は変わっていない、だがやばい雰囲気になったのを男は感じた。
「これは誠に不味い……」
エリスを見失わない様にしっかりと細いながらも目を見張る、だが瞬き1つしていないのに見失った。
「何処だ?!」
「後ろよ」
「拙者は死ぬ訳には行かぬ!プロテクト!!」
そう叫び男の前に結界が張られる、だがエリスの剣はプロテクトを簡単に切り裂くと男の体を死なない程度に切り裂いた。
「距離を見誤ったか……」
ニヤリと笑う男、だがそんな訳は無かった。
剣を鞘に収め少し後ろに下がる、男はその様子に首を傾げるがチャンスと踏み武器を構えて突っ込んで来た。
「油断は禁物だぞ血吸い鬼!」
「油断なんてしてわよ、『目』を良く見開いて傷口を見て見なさい」
「なんだと?」
開いているのかどうか分からなかった目を開け傷口を確認する、だが何も無かった。
どう言う事なのか、顔を上げると不敵な笑みを浮かべたエリスが見えた。
「やっと目を開けた」
笑いながら言うエリスの赤い目を見て男は嫌な物を感じ目を閉じる……だがもう既に遅かった。
「催眠……か」
そう言いその場に倒れる男、そして数秒もすればエリスの奴隷として起き上がって来た。
「アーリス教について知ってる事全て教えなさい」
「了解しました」
あの面白い喋り方は無くなってしまったがこればっかりはしょうがない、一先ず情報を彼から聞きだせるだけ聞き出した。
15分後、全てを聞き出したエリスの表情は怒りと悲しさが織り混ざった表情をしていた。
「最後の命令よ、そこの川で私が良いと言うまで泳いで来なさい」
「はい……」
無表情でそう言って川の中に飛び込む、すると何かが焼ける音が辺りに響き渡った。
まさかアーリス教の闇がここまで深いとは思っても居なかった……彼が幹部と言うのもあり大体の事は分かった、後はクロディウスに報告して……いや、そんな事している時間が勿体無い、1人でも乗り込んで壊滅させてやりたかった。
気が付くかは分からないがポケットに入っていた紙に血で『城に向かう』と書くとエリスは剣を力強く握りしめて城の方向へと羽を広げ飛んで行った。