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転生者狩りの騎士と奴隷の少女  作者: 餅の米
第1章 記憶無き黒騎士編
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第2話 賞金首

「貴方は誰?」



部屋の真ん中でほぼ無表情の少女がクロディウスに問い掛ける、確かにあの時はお面で顔を隠していて誰か分からない……と言うより背丈も170後半で普通の黒髪で多少髭の生えた青年姿だと誰なのか分からないと言われても納得だった、全くの別人なのだから。



「俺はクロディウス、君の主人と言ったところだな」



「主人……」



無表情ながらも少し寂しげな声で呟く少女、彼女の表情が自分と重なった。



だが彼女の場合は恐らく何らかのトラウマ、俺の意図的な無感情とは訳が違った……正直厄介でしか無かった。



彼女の地雷ワードは何なのか、そもそも俺と居たいのか、好きな物、名前……聞かなくてはいけない事だらけだった。



「君名前は?」



「名前は……無い、です」



喋り慣れて居ないのか所々切れて聞き取りにくい、だが名前がない事は分かった、彼女の少しだが変化した悲しげな表情がその証拠だ。



それにしても困った、名前が無いとなると付けなくてはならない……だが俺の付けた名前を彼女は気に入ってくれるのだろうか。



一先ず見た目から名前を考える、ボサボサだが綺麗にすると美しくなりそうな青髪、充分な栄養を取れて居ないのか痩せ細った身体……年齢は15.6と言った所だろうか、真剣に悩むが決まらなかった。



それにしても不思議だ、つい数十分前は他人に興味などないと言っていた俺がこんな少女の為に必死に悩んでいる、全くキャラじゃないと言うのにどうしたのだろうか。



この少女に今どんな感情を抱いているのかすら分からない……だがこんな感情久し振りだった。



「まぁ名前など後でいい、ついて来い」



急に雰囲気が変わりいつものクロディウスに戻る……まただ、またこの不思議な女神の力が俺の事を邪魔する。



誰かに一瞬でも優しくしようとすると決まって冷たい言葉を急に投げ掛ける、優しさの中には愛がある……つまり他人に優しくも出来ないと言う訳だった。



少女と何の会話をする訳でも無くただ長い廊下を2人で歩く、その間にクロディウスは見る人に恐怖すら与える黒騎士に戻る……ふと鏡に映った自分を横目に見て思った、悔しいが俺にはこの姿がしっくり来る。



「ご、ご主人様」



「なんだ」



ご主人様とは言え初めて少女に呼ばれた……冷たい声色だが即座に返事をする、内心は嬉しいのに言葉では伝えられない……もどかしかった。



「ご主人様はえっと、あの、悪い騎士なのですか?」



聞くのを躊躇したのかまだ喋り慣れて居ないのかぎこちなくクロディウスに語り掛ける、答えは言わずとも見た目で分かりきって居た。



「俺は悪、だが勘違いするな騎士には己の正義と志を持った奴らばかり、俺が珍しいだけだ」



かつてそうだった自分の様に……少女にはそんな奴等もいる、ただそれだけでも伝われば良かった。



「わ、私は殺されるのですか?」



今度はしっかりとわかる、完全に怯えた声色だった。



「安心しろ、殺す予定は無い、ただ俺の気まぐれで買ったまでだ」



そう言って少女の肩に手を乗せる、転移魔法の存在を完全に忘れていた。



「ご主人様?」



頭に疑問符を浮かべている少女を見るが何も言わずに転移するクロディウス、そして着いたのはマディソンと言う街の外れにある最初に居た廃れているギルドだった。



「相変わらずボロいな……」



手に魔力を溜め一定量になると一気にボロいギルドに放つ、するとギルドは一瞬にして一階建ての綺麗な平屋になる……相変わらずこの魔力は馬鹿げていた。



女神から貰った力は圧倒的な魔力とそれなりの身体能力、何か能力でもくれるのかと思っていた俺にとってはガッカリだったが今ではこっちの方が断然使いやすい、なんせ魔力があれば大抵の事は出来るのだから。



空を飛ぶ、属性を操る、瞬間移動etc……大抵の事は魔法で出来るこの世界、今更能力など欲しいとは思わなかった。



「入れ」



「は、はい……」



威圧的なクロディウスの声に怯えながら家に入っていく、久し振りの人に緊張している訳ではない、女神の力が邪魔をしているのだ。



「風呂に入って来い、使い方は見れば大体分かるだろ……行って来い」



「は、はい」



クロディウスから手渡されたふわふわのタオルと新しい服を手に持ち風呂場へと駆けていく少女、そして今行った行為にクロディウス自身が驚いていた。



些細ながらも彼女に優しく出来た、渡そうと思えばボロボロのタオルやそれなりの服を渡させた筈なのにしっかりと新品の服に柔らかいタオルを渡した……これは少女の影響なのだろうか。



「どちらにせよ俺は自分の仕事をするか」



どうせ女神の気まぐれと言った所、魔力で偽人を二人出すと書斎に入った。



書斎には山積みの資料、これは女神から定期的に送られてくる転生者の所在地、能力やその他諸々をまとめた資料、それに目を通して始末した奴に印を次の提供日までに送らなくてはならなかった。



提供日は1ヶ月に一度、そして今日が最終日……だが印は一つも押されていなかった。



昔からこう言う宿題や課題みたいなのは提出日ギリギリにやる性格故、毎回最終日仕事に追われていた。



「やるか、えっと……お前は押した印を穴に放り込む役、んでお前が書類を俺に渡す役……って言葉通じてる?」



頭に疑問符を浮かべている魔法で作り出したメイド服を着た偽人達、お前では分かりにくいのか困惑した表情をしていた。



「あー、右の金髪ショートがネロ、んでそっちのセミロングがロネね分かったら仕事してくれ」



「はい!ご主人様!」



嬉しそうな顔で返事をするロネとネロ、なんだか調子が狂う。



あの少女が来てから自分に何か変化が起きている……その証拠に今まで優しくしようとも思っていなかった俺があの少女に優しくしようとしている、そして些細な優しさならしてあげる事も出来た……女神の力が弱まったのだろうか。



「どうされましたか主人さま?」



髪の短いボーイッシュな姉の方ネロがクロディウスの顔を覗き込む、しかし自分の魔法ながら良く作られた物だった。



性格は見た感じネロは強気な感じでロネは少しなよなよした性格といった感じ、姉弟真逆の性格とは面白い偽人が出来るものだった。



「ご、ご主人様!!」



風呂場から少女の声が聞こえ急いで駆けつける、すると風呂場の窓から外に人影が数人見えた。



「覗きか……」



人影の逃走方向を予測して転移魔法で先回りをする、そして数十秒すると二人の山賊らしき男達が走って来た。



「親方!目の前に騎士が!」



「何!?始末するぞ子分よ!」



クロディウス目掛け二人が一斉に襲いかかるがそれを鎌で弾き飛ばす、すると二人は顔を見合わせ何か話した後に頷き合った。



「あんた黒騎士さんか?」



剣の先をクロディウスに向けて偉そうな態度で尋ねてくる、黒い鎧を身に付けて居たのを完全に忘れて居た。



「だったらどうした?」



「どうしただって?知らないのか?あんたは凄い賞金首なんだぜ?」



そう言い一枚の紙を見せてくる山賊、そこには鎌を持っている黒騎士、つまり自分が丁寧に細部まで書かれていた。



自分が賞金首とは知らなかった、しかも賞金は希望する額と馬鹿げている、どれだけ俺を殺したいのだろうか。



「勿論作戦は練ってある、子分あれを!」



親方の掛け声に合わせて大剣を持ち出す子分、恐らく彼は転生者……それも第2世代と探す手間が省けた。



能力は不明だがわざわざ俺が相手する必要もなさそうだった。



「ネロ、ロネ、始末しとけ」



「スイ、イル・ヴィアジアトーレ」



膝をつき胸に手を当て忠誠を誓うポーズで返事をすると二人は山賊と対峙する、イタリア語で返事とはまたお洒落な召使いを出してしまったものだ。



二人の戦いは見ずとも恐らくあの双子の勝ち、一先ずはあの少女の様子が気になった。



「大丈夫か……ってお前」



脱衣所で身体を拭いている場面に鉢合わせる、だが彼女の身体よりもその身体についた傷に驚いた。



至る所に出来た痛々しい痣、虐待の跡なのか……彼女の過去に何があったのか気になるがこれは恐らく地雷ワード聞かない方が良いだろう。



「ご、ご主人見過ぎです……」



無表情ながらも恥ずかしいのかタオルで身体を隠す、彼女の無表情の理由が気になった。



「服を着替えたらリビングに来い」



そう言い脱衣所から出ると鎧を脱ぎ顔にお面だけを付ける、この5年良く思えば自分の顔をまともに見ていない……だがあんな顔が無くても生きていける、もう本当の自分は要らない。



「ご主人様、片付きました」



お面を触っているとネロ達が返り血まみれで帰ってくる、第2世代の転生者を倒せるとなるとかなり良い出来の様子だった。



足元を見ると血が床に付着している、綺麗好きの性格としてこれは許し難かった。



「お前ら早く風呂入れ、俺はあいつと出掛けてくる」



「どちらまで行かれるんですか?」



「旧友に会いに行くんだよ……」



そう言いタイミング良く出て来た少女と共に転移魔法で移動していくクロディウス、先程作り出されたばかりのネロ達にとっては誰の事か分からなかった。



「ロネ、お風呂はいるよ」



「で、でもお姉ちゃんと入るなんて嫌だよ!」



「うるさい!あんた女みたいなもんなんだから口答えしないの!」



嫌がるロネを無理やり脱がせ風呂に放り込む、そしてネロも風呂に入ると湯船に浸かった。



「ご主人怖いねお姉ちゃん」



「そうね、なんて言うか言葉の全てに気持ちがこもってないのよね……冷たいって言うか」



行動自体は優しさもたまに感じるが声色が常に冷たく恐怖を感じる、ご主人の過去に一体何があったのだろうか。



「取り敢えず綺麗になったらあんたは床を私は死体を片付けに行くわよ……私達はご主人様の召使いなんだから」



「分かった」



湯船に浮かぶ花びらを手にすくい天井を眺めるとそっと目を閉じた。

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