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転生者狩りの騎士と奴隷の少女  作者: 餅の米
第1章 記憶無き黒騎士編
19/97

第17.5話 吸血鬼 エリス・ヴァークライ

エリス・ヴァークライ、私の人生は騙し騙され血が必ずつきまとう暗い人生だった。



生を受けたのは今から3045年前、この世界に今ほど精巧な武器や建物は無く藁や木で雑に作られた家しかない時代、そんな時代に生を授かった。



生まれてから1000年、人間達に恐れられ敬われる存在として君臨し吸血鬼の中でも更に高貴なヴァークライ家の生まれと言う事もありその家柄に甘んじて生きて居た。



生まれて2,000年目、吸血鬼が種族内で序列を決める争いを始める、その結果殆どの吸血鬼が死滅し数えられる程数を減らす。



そして人間は進化の一途を辿り吸血鬼を恐れなくなる。



生まれて2500年目、ヴァンパイアハンターと名乗る男達が現れ残った数少ない仲間も死に自分だけが生き残る、この時自分の弱さを悔いた。



ただのうのうと生きなんの修行も積まずに生きて人間を見下して居た自分を恨んだ。



そして生まれてから3000年目の今でも忘れないある暖かい陽気の日、転生者と名乗る男とであった。



あの日は暖かくラシーナと言う人の少ない村の外れにある森の中で日向ぼっこをしている時だった。



「ヴァンパイアハンター……」



暖かい陽気とは裏腹にエリスの表情は暗い、その理由は自分が吸血鬼最後の存在という事にあった。



自分が死ねば吸血鬼はただの噂に変わってしまう、居たと言う証拠は何も無く吸血鬼の存在を証明出来るのは自分のみ……とてもでは無いが明るい気分にはまずなれなかった。



草の上に寝転がりながら太陽を眺める、吸血鬼と言うのに陽が平気なのは本当に笑える、何故平気なのかは自分でも分からない。



突然変異と言うわけでも無く生まれつき太陽が大丈夫だった、周りからは異端と虐められたのも今となっては懐かしい思い出だった。



私は生まれつき太陽に強い以外は他の吸血鬼よりも劣って居た、ここまで生き残れたのは太陽が平気なお陰、昔に起こった吸血鬼狩りに用いられた太陽の下に晒す作戦もこの体質のお陰で生き残れた……だがヴァンパイアハンターの前ではこんな私は無力だった。



ヴァンパイアハンターは銀弾の入った銃に銀の聖剣から銀の短剣、吸血鬼に対抗する装備を揃えて尚且つ吸血鬼に匹敵する身体能力を持っている化け物達、劣等種と呼ばれて居た私が当然勝てる訳が無かった。



「あーーもうムカつく!!」



ツインテールを揺らしながら木を蹴りまくる、普通の吸血鬼なら簡単に折れる木も私は表面を傷つける事しか出来なかった。



悔しい……仲間も守れず種族の存在も守れそうに無い、そんな諦めて負のオーラを撒き散らしている時1人の男が目の前に現れた。



「なに?」



威圧的な眼光で男を睨みつける、小汚い外見に髭まで生やしてヘラヘラとしながら目の前に立つ、睨みつけられてもなお笑って居た。



「君吸血鬼だねー珍しい」



「な?!」



男の言葉に驚き一旦距離を取ろうと後ろに飛ぶがいきなりの事で動揺して着地を失敗する、起き上がろうとするがすでに男が目の前まで迫って居た。



「チェックメイトだよ」



そう言う男の言葉に終わりを覚悟する、吸血鬼最後の生き残りの死に方がこんなにも情けないとは先に死んでいった皆んなに申し訳なかった。



「クッ……」



覚悟は決めた……なのに死は訪れず代わりに額に軽い痛みが走った。



「え、あ?生き……てる?」



「そりゃねぇ、僕は君を殺しにこの森を訪れた訳じゃ無いから」



恐る恐る目を開けるエリスに手を差し伸べる男、そして手を掴み立ち上がると男を突き飛ばした。



「何するんだよー」



無気力に男を無視しながら下を向く、こんな屈辱初めてだった。



人間は下等生物、そして自分は高貴な存在と思いずっと生きてきた、それは無力と感じてもなお変わらずに……それなのにこの人間の中でも更に下の部類にいそうな男に高貴な私がいきなり殺されそうになった、これ以上の屈辱は無かった。



「それで、何の用よ」



既に遅いことは分かっているが改めて舐められないように気丈に振る舞う、それにしても一体何故彼は私の事を吸血鬼と見抜いたのか……考えてみるが分からなかった。



「僕の目的は君だよ」



「私?あんた見た所ヴァンパイアハンターにも見えないし何者なの?」



うーん、と言い悩む男、悩む程の存在なのだろうか。



しばらく考え込む男、空を見ると相変わらず陽が暖かかった。



風が吹きエリスの髪を揺らす、それと同時に男は口を開いた。



「転生者……とだけ名乗っておこうかな?」



「はぁ?」



転生者、聞いたことがない、虚言癖なのか本当なのか……本当だとしても転生者とは一体何なのか、軽く頭がこんがらがって居た。



「まぁそれは置いとこう?俺の役目はエリス、君を強くする事だ」



「私を強く?」



意味が分からなかった、初対面のよく分からない虚言癖の男にいきなり殺されかけたかと思えば次には強くするだ、夢でもおかしく無かった。



「そう、俺の名前は啓介、よろしくな」



「啓介、はぁ……」



聞きなれない変な名前、いきなり来て勝手に話を進める……無礼な奴だった。



これが啓介との出会い、それから五年、ひたすら私は彼の元で聞いたことも無い奇妙な武術を習った。



純粋な力は私の方が強い、それなのに啓介に勝てなかったのは武術を心得ているかどうかだった。



啓介に出会って10年経ったある日運命の時は訪れた。



降り頻る雨の中エリスは傘をさしてハーネストの街を気怠げに歩いていた。



啓介から貰ったメモを頼りに食材や日用品を買い家に戻る道中エリスはずっと一人で文句を垂れて居た。



「高貴な私が何でおつかいなんか……」



彼には確かに世話になった、そのお陰でヴァンパイアハンターの一人を始末できた、だが彼の弟子になった訳では無い、飽く迄私は教えてくれると言ったから教えてもらっただけ、関係は対等どころか私の方が何倍も偉い、なのに何故こんな事を……



買い物した物を全部投げ捨ててあいつを困らせてやろうか……そんな事を考えながら街を抜け森の離れにある家の方向を見ると煙が上がっているのが見えた。



「あれ……は?」



啓介に限ってそれは無い……だが嫌な予感はした。



荷物を全てその場に落とし全力疾走する、傘をささずに走ったせいでずぶ濡れになって居た。



森を駆け抜け家に着くと案の定家からは火の手が上がって居た。



「啓介!」



扉を開け家の中に入る、リビングは荒れ果て戦いをした痕跡があった……だが啓介の姿は無い、一瞬安堵しもう1つの部屋を開けるとそこには啓介がうつ伏せで倒れて居た。



「け、啓介?!」



慌てて駆け寄ろうとした瞬間エリスの身体は何者かに弾き飛ばされ家を突き破り木に激突した。



「誰だ!!」



辺りを見回すが家から出ている炎と深い森の所為で何処に居るのか分からない、耳を澄ませて見るが火が燃え上がる音と雨が木々に当たるうるさい音しか聞こえなかった。



「吸血鬼……見つけたぞ」



声が聞こえた瞬間目の前に仮面を付けた謎の人物が現れ拳を突き出す、それを咄嗟にガードするがエリスは吹き飛ばされた。



「クッ!!」



攻撃を受けた手は少しビリビリと痺れている、こいつに啓介はやられたのだろうか。



「俺はお前を殺す」



それだけを告げ腰に携えて居た豪華な十字架の様な形をし柄の部分に蛇の様なドラゴンをあしらった剣を両手で持ち縦に構える、この構え何処かで見覚えがあった。



一度昔見たことがあるような……思い出そうと考えるがそんな時間すら仮面は与えてくれなかった。



「何者か知らないけど私に楯突くとはいい度胸ね!」



何の変哲も無いただ剣を構え仮面の攻撃を受け止める、一撃受けただけでその衝撃で剣が大きく振動した。



一歩のミスで死ぬ緊迫した斬り合いを続けるがエリスは勝てる気がしなかった。



人間離れした速度に力、ヴァンパイアの生き残りなのではと思うほどに強かった。



「終わりにしよう」



そう言い仮面が剣を斜めに構え突っ込んでくる、恐らく最後は全身全霊の力で斬りかかってくる筈……負けを確信して諦めようとした瞬間啓介から教わった剣術を思い出した。



「剣ってのは両手で持ってしっかり踏み込み振り下ろすと馬鹿強いんだよ……」



そう呟き剣道と言う剣術の構えを取り仮面が切り掛かってくる剣を交わし全身全霊の力を込めて振り下ろした。



「死ね!!」



刃が仮面を割り謎の人物を切り裂く、そしてその謎の人物の正体はヴァンパイアハンターでも無ければ吸血鬼でも無い、家で死んで居た筈の啓介だった。



「流石だな……」



そう言い血を吐く啓介、何故彼が敵……いや、そもそも生きているのか分からなかった。



何故私を騙して居たのか、彼は私の味方では無かったのか……何故が頭の中を支配して居た。



「しくじったか……」



「え?」



何かを呟く啓介、だが強まる雨の音で聞き取れなかった。



どうにか助ける術は無いか、色々な方法を考える……今からでは街にはまず間に合わない、とは言え応急処置で繋ぎ止めれる程の傷でも無い、だがあれだけは可能性が僅かだがあった。



それは啓介を自分の血族にする事……だがこれはかなり可能性が低かった。



吸血鬼は元々数が少ない種族、そんな吸血鬼が数千年の間生きてこられたのは種族特有の身体能力や催眠能力もあるがこの力が一番大きかった。



一般の吸血鬼がその辺の奴に血を与えると与えられた側は血の眷属となり一生をその吸血鬼に仕える、吸血鬼にならならない可能性もあるがその時点で死ぬ事はあまり少ない、ならば何故エリスが啓介に血を与えても吸血鬼になる可能性が少ないのか……それは自分が高貴な事に理由があった。



ヴァークライ家は吸血鬼の中でもかなり高位の存在、そんな吸血鬼の血は拒絶反応が凄まじかった。



高貴な存在と言うのは血も他の吸血鬼と違い特殊で同種族に対して凄まじい治癒効果を持っていたりする、そんな血を人間が易々と受け入れられる可能性はほぼゼロに近かった。



啓介の身体から尋常では無い量の血が溢れ出ている……とても美味しそうだった。



血を与えなければならない……与えなければならないのだがここで吸血鬼の本能が邪魔をし始めた。



今思い返せば人間から新鮮な血液を頂いた事が無かった、ヴァークライ家にいた時代は何処からとも無く持ってきた血を飲む生活、その後は人間と同じ物を食べていた、不思議と渇きは無くまるで普通の人間の様だった……なのに何故今こんなにも血が欲しいのか、自分を抑えれそうに無かった。



「ひ、一口だけ……」



そう言い啓介の首筋に噛み付く、もう既に虫の息だった啓介は何も言う事無くただ血を吸われた。



「これが人間の血……」



美味しい、昔飲んでいた物が人間の血では無いのは一目瞭然、滑らかな口当たりにスッキリとした後味……どんな食べ物よりも美味しかった。



そして夢中になって血を吸い我に帰った時には取り返しのつかないところまで行っていた。



「わ、私は何て事を……」



苦しげな表情をして今にも死にそうな啓介、早く血を与えなければ本当に死んでしまう状態だった。



「い、今血を」



そう言って剣で自分の手を切り血を与えようとする、だが啓介はそれを拒んだ。



「や、やめとけ……俺は吸血鬼にはなれないよ」



「な、何を言って」



「俺にそんな価値ねぇよ、折角お前が俺を眷属にまでして助けようとしてくれてんのに……俺はお前を裏切った」



そう悔しげに言う啓介、裏切ったとは何のことなのか分からなかった。



「俺はヴァンパイアハンターなんだよ」



「え?」



「驚くのも無理ないよな、俺はちょっと特殊でさ……お前を強くしたのも俺が倒した時の名誉の為だったんだ、まぁヘマして強くし過ぎたがな」



こんな状況でヘラヘラと笑う啓介、全く笑えなかった。



私を騙した……ずっと信じていたのに、ずっと仲間だと思っていたのに、だが今更そんな事を言われたくらいで切り捨てられなかった。



「だから何よ!この高貴な私が血を上げるって言うのよ?大人しく受け取りなさいよ!」



胸に手を当て怒鳴るエリス、目には涙が浮かぶが必死に涙は見せない様に我慢していた。



「ほんと最後までデレてくれないな……この剣、俺がこの世界に来る際に貰った物だ、お前が使え」



啓介の腰に携えて居た剣をエリスに手渡すと事切れたのか手から力が抜け地面に叩きつけられる……長く生きる私にとって別れは付き物、だがこんなにも悲しい別れは初めてだった。



「なんでよ……何で涙が出て来るのよ……」



降る冷たい雨とは違い暖かい涙が頬を伝い地面に落ちる、エリスはこの日久し振りに泣くと同時に涙が枯れ果てるまで泣き続けた。



生を受けて3015年目、啓介が死に人間に更なる憎悪を抱く、そしてこの日から啓介の血を吸い知った美味さを忘れられず恨み目的で殺していたヴァンパイアハンターだけでは無く一般の人間にまで血を吸うべく手を出す。




3035年目、ヴァンパイアハンター最後の一人を殺すと同時に啓介が本当にヴァンパイアハンターで私を騙して殺そうとしていた事を知る、だがそれはもうどうでもいい事だった。



そして3045年目、クロディウスと名乗る男に人生で三度目の敗北を喫し、それと同時に人生に終わりを告げようとしていた。



「あぁ……最悪な人生だった」

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