第15話 アーリス教の謎
街が騒がしくなり兵士達が走り回る、どうやら奴隷オークションを地下で開催する酒場の死体が見つかった様だった。
流石にこの暑さだと直ぐに死臭が漂って来る、とは言え自分がやった訳でも無く焦る必要は皆無、さほどアーリス教探しに支障は出ないだろう。
人通りの少ない静まり返った川の音が良く聞こえるスラム街と国を分ける橋を渡る最中に妙な違和感を感じていた。
モーリスに向かって一方的に暴言を吐く結城、彼女の口を塞ぎながら辺りを見回す……誰かに付けられて居る気がする。
数は数人……いや、数十人は居る、地下で殺したあの男の仲間か……若しくは転生者の王の使いか、もし後者ならばかなりめんどくさい事になりそうだった。
こちらは戦力的にはあまり期待の出来ない結城に強いのか分からないモーリス、対して向こうが転生者グループならば1人1人が恐らくシルバの側近クラス、確実にモーリスは死ぬ事になる。
結城は不死だがモーリスは違う、庇って戦うほど俺も優しくはない、とにかく臨戦態勢に入った方が良さそうだった。
モーリスにジェスチャーで敵の事を伝えると彼も気づいて居た様子で頷いた。
「何してんの?誰かいんの?」
辺りを見回しながら不思議そうな顔をし橋の下を見ようと覗き込むと結城が突然吹き飛ばされた。
「おっと、女の子は殴らん主義なんだが覗き込んだ嬢ちゃんが悪いな」
結城が覗き込んだ橋の下から1人の男が飛び上がり橋の柵に着地する、見た目からして恐らくチンピラ、とてもでは無いが転生者とは思えなかった。
「痛ってぇな!!なにしやがんだ!!」
映画の様に曲がった鼻を元に戻し起き上がる、その様子に男は驚きを隠せて居なかった。
反応からして転生者では無さそう、ここは結城に任せる事にした。
「ヘマすんなよ」
「わかってますよクロさん」
柵に腰下ろすクロディウスにそう告げ骨を鳴らしながらチンピラの男に近づいて行く結城、何の障害物も無いこの橋でどう戦うのか見ものだった。
相変わらずモーリスは戦う気は無いようです俺と同様に柵に腰を下ろしている、全くこんな奴を仲間に引き入れて良かったのだろうか……それはさておき戦いが始まった様だ。
耳に聞こえて来た金属音、視線を結城に移すと衝撃の光景が広がっていた。
始まって1分……いや、下手すりゃ30秒も経っていない、それなのに男の手には結城の頭があった。
「ったく、こんな可愛い子殺させて……だがあんたらが悪い、俺らアーリス教の事を嗅ぎ回ってんだからな」
アーリス教の者……全く運が良いものだった、まさか探し者が向こうからやってくるとは。
「何故嗅ぎ回っていると感じた?」
「情報だよ、酒場に顔を隠した変な奴と笑顔が特徴の杖を持った優男がアーリス教入信の合言葉を言って回ってるてな」
そう言い結城の頭を後ろに投げ捨て血のついた手を拭く、彼の話しが本当ならばアーリス教は俺たちの入信を拒んだ様子だった。
だがその理由が分からない、怪しまれない様に立ち回ったつもりだったが何がいけなかったのだろうか。
「まぁ大人しく帰るなら見逃してやる……だが帰らないのであれば殺すぞ?」
「死ぬのはお前だよクソチンピラが」
「は?」
間抜けな表情を浮かべる男の後ろには結城が立っていた。
男はお化けでも見たかの様な表情で固まり動けずに居る、その隙に結城は男の両腕を男の腰に携えていた剣で切り落とした。
「う、腕がぁぁぁ!?てめぇ何で生きて?!」
静かな住宅街に響き渡る男の悲鳴、結城の表情は殺しを楽しんでいる様に見えた。
「何で生きてるか気になるか?」
そう言い剣で自分の腕を切り落とす、そして数十秒もしないうちに新たな腕が生えて来た。
その光景に男は絶句した。
「こういう訳だ、じゃあ止めを……」
「待て結城」
剣を振り下ろそうとしている結城を制止し、男の胸ぐらを掴み宙に浮かす。
「アーリス教は何処だ」
「お、俺が言うと思うか?」
「思えんな……だから言いたい様にしてやる」
そう言って男の頭を数秒間掴みそして地面に投げ捨てる、すると男は腕を切られた時とは比にならない程の悲鳴を上げた。
「や、やめてくれ!く、来るな!やめろ!!」
地面をのたうち回り発狂する男を不思議そうに見る結城と興味津々なモーリス、2人はとてもこの男に何をしたのか聞きたげな表情をしていた。
「こいつが何を見てるかは俺も知らん」
「え、何すかそれ」
「この魔法は対象に恐怖を与えるだけ、そいつが最も恐れるものを幻覚として見せるだけだ、だから何を見ているは俺にも分からん」
「てかこの発狂してる奴からどう情報を引き出すんすか?」
「それは簡単だよ、そのうち彼から言い出すよ結城さん」
「はぁ?どう言う事だよ」
喋り出したモーリスにあからさまに嫌な顔をする結城、恐らく彼が何故わかるのか気に入らないのだろう。
「人が恐れるものは何だと思う結城」
「うーん……死ですかね?」
「まぁそうだろ、そして死を演出するのは恐怖、いつ死ぬのか、いつ殺られるのか分からない恐怖……それに耐えられる人間はそうそう居ない……恐らく彼もな」
「吐く!吐くから助けてくれ!!」
話し終えたタイミングでちょうど良く降参する男、再び頭を掴み術を解くと安堵の表情を浮かべた。
「安心すんのは早えーぞチンピラ、早くクロさんに情報を吐きやがれ」
チンピラ以上にチンピラの様な喋り方で問い詰める結城に気圧され話し始める男、アーリス教の実態は彼のお陰で多少なりに掴めた。
本部と2つある支部の存在、本部には限られた人物しか行けずこの男はアズガルドと言う支部の場所しか知らない様子だった。
ここミズガルドは聖地らしいが本部も支部も無く入信する為だけの地らしく聖地が聞いて呆れた。
だが1つだけ引っかかる事があった、この男は1人で来たと言っている、嘘の様子もない……だが確かに複数人の気配を感じた、あれは何だったのだろうか。
「まぁいい、今楽にしてやる、結城」
そう言い名を呼ばれた結城は頷き剣を男の胸に深く突き刺した。
「それにしても厄介っしたね」
「何がだ?」
「転生者の彼ですよ、いきなり頭取られたんでビビったんすけどまぁ空間転移系と踏んで腕切ったのは私のナイス機転っすね」
「あぁ、そう言うことか」
突然結城の頭が取られた時は何の能力かを考えたが空間転移があった、ここで潰しておいて良かった。
「アズガルドに行くか……」
「そうっすね……クロさん?」
アズガルドと言った瞬間顔は見えないものの何処となく行きたくない様な雰囲気がクロディウスから出ている、アズガルドという街で何かあったのだろうか。
「ボサッとするな、行くぞ」
そう言い結城の頭を撫で先に歩くクロディウスに結城は先程までの考え事を忘れついて行った。