第14話 与えし者の存在
「神に作られし人、それは天使もまた然り……驕り無き天使、だが驕り深き人類、それを浄化するのが天使という存在アーリスなのだ……」
「うちそう言うの良いです」
モーリスから教わった言葉を酒場でひたすら言い続けて早5軒目、皆同じ様な対応だった。
変な宗教と思い込んでいるのか凄く微妙な顔をして憐れむかの様な表情で断って来る、いい加減イライラしてきた。
一度断られた酒場にセラスの姿で1人入店し端に座る、アーリス教探しは一先ず結城達に任せ自分は状況の整理がしたかった。
つい数分前に倒した名前も知らない男について……彼の正体を女神に聞いたがやはり転生者では無い、となれば話しはかなりややこしくなった。
何故転生者では無いこの世界の住人が能力を持っているのか……唯一能力を与えられる女神はこの世界への直接的な関与は認められて居ない、だから俺を使い間接的に転生者を殺す、仮に女神が与えたのならば彼女は今頃神様とやらに裁かれている筈だった。
だが先程話した限りそれは無い、となればもう1人の与える者の存在があると言うことを意味して居た。
この異世界には魔法も殆ど無ければ異能力も無い、あるのは天使と悪魔の力だけ、それも限られた……だが与える者が現れたとなるとこの世界のバランスは大きく崩れる事になる。
俺からしてみれば崩れてくれた方が楽しくなりそうだが女神からの指令が増えるのは面倒臭い、早い所原因を突き止めて始末しておきたかった。
テーブルに置かれた水を飲み干し立ち上がると気持ちばかりのお金をテーブルに置き酒場から立ち去る、外に出ると涼しかった店内とは違い暑い日差しが照りつけてきた。
流石砂漠の街、風も強く砂埃が舞う、周りの人は皆防塵対策だろうか皆顔を隠した服を着ていた。
「成る程……」
手を何度も握っては開いてを繰り返し頷く、幾ら膨大な魔力量だからと言えど限りはある、ずっとセラスのままでは数十年後には限界が来る、そうなる前に魔力温存して置きたかった。
「2000円だ、毎度な兄ちゃん!」
元気の良い声で礼を言う露店の店員から服を受け取り魔法を使い一瞬で服を着る、着心地は至って普通だが顔を隠せるのは良かった。
暑いこの街に適し通気性も良い、黒騎士姿よりも良く中々に満足だった。
辺りを見回し酒場探しを再開しようと酒場を探す、すると結城が路地裏に数人の男と入って行くのが見えた。
「助けるべきなのか?」
「助けるのが男ですよクロディウス様」
独り言に答えが返ってきたことを少し驚く、隣を見ると何の気配も無くいつのまにかモーリスが立って居た。
全く気味の悪い奴、心を読めない分何を考えているか分からなかった。
だが今はそれよりも結城の方が先、ニコニコしているモーリスを横目に裏路地に入りある程度の距離を男達から取ると様子を見た。
「助けないのですか?」
「あぁ、あいつの強さを測っておきたい」
まだ結城の戦いを見たことが無い、不死能力が強いのは分かるがあまりにも弱過ぎると囮にすらならない、そうとなれば仲間には必要無かった。
わざわざ毒まで引き受けて仲間にした、それなりの強さを願った。
「何すん、じゃなくて何するんですかー、離してくださいよ」
いつもの生意気な口調では無く妙に艶っ気のある声色で男達を上目遣いで伺っている結城、ここまで来ると流石としか言いようが無かった。
その後男達にベタベタとくっつきながらも聞こえない程の声量で何かを言い合う、そろそろ助けに入ろうとした時男の1人がその場に倒れた。
「何したんでしょう?」
モーリスが不思議そうに首を傾げる、一瞬の出来事で分からないのも無理は無かった。
ベタベタとくっついた時に奪ったナイフを使い男の首を搔き切る、聞くと案外普通の事だがあまりにもその行動に至るまでが滑らかだった。
特別スピードが速かった訳でも無い、ただ手際が良かっただけ、まるで殺し屋の様だった。
3人いた男達のうち2人片付け最後の1人にナイフを向けるが手を掴まれる、そして壁に押し付けられると結城は腕で首を絞められていた。
泣きながら叫ぶ男、苦しそうな顔をしながらも笑う結城、これじゃあどっちが襲われてるのか分からなかった。
「おい、離してやれ」
物陰から姿を現したクロディウスに驚き手を離すその隙に落ちたナイフを拾うと最後の1人も始末した。
「もやしんその人誰?」
「クロディウス様ですよ」
「え?!顔隠してるから全く気づかなかったんだけど」
返り血を拭く手を止め分かりやすく驚く結城、そりゃ顔を隠せば誰も分かるはず無かった。
逆に何故モーリスが分かったのか不思議なくらい、だかその事はあまり気にはならなかった。
「命拾いしたな結城」
それだけを告げ死体を何処かに飛ばすと大通りに戻っていくクロディウス、だが当の本人結城は何の事か分からなかった。
「どうゆう事もやしん?」
「貴女の力量次第では毒をお返しする予定だった様ですよ」
「まじかー、それだけは勘弁して欲しい」
少し離れた位置にいるクロディウスを見ながらそう言う、血が染みた服を脱ぎ捨てると結城はクロディウスの方へ走って行った。
「見つけたぞ黒騎士……」
建物の上からクロディウスに視線を送る謎の人物、モーリスはその人物を確認するが敢えて何も言わなかった。
「新たな障害、クロディウス様……どう乗り切るか」
いつもの表情とは違う笑顔を浮かべ笑うモーリス、そしてゆっくりとクロディウス達の元へ歩いて行った。