第13話 流血の黒騎士
砂漠の街ミズガルド、相変わらずの街並みに相変わらずの活気だった。
カーニャを買った時と何ら変わりがない、変わったと言えば俺の姿位、一先ずはアーリス教に入信する為に酒場を探す必要があった。
「やるか……」
目を閉じて精神を集中させる、すると頭の中に街を上から見た全体図が表示された。
自分達の現在地は街に入って直ぐの所、一通り辺りを見回し『探索』と唱えると街をスキャンする様に光が上から下へと何度も行ったり来たりした。
「これは……」
サーチが出来ない、何か特殊な力が街を覆っていた。
魔法……とはまた違った力、恐らく転生者、それもかなり強力な転生者だった。
俺の魔力を凌駕する程の何かをこの街に張り巡らせるなど普通では無い、カーニャを連れていては恐らく自らも死ぬ可能性があった。
「おいカーニャ」
「何ですかクロディウスさん?」
当然肩に手を置くクロディウスを不思議そうな表情で見るカーニャ、そしてクロディウスは何も言わずにカーニャをネロ達の待つ家へと転移させた。
「どうしてカーニャさんを?」
「この先の危険を考えてだよ」
尋ねてくるモーリスにそれだけを言い歩き出す、一つだけ当てがあった。
それは第一転生者が営む酒場、あの奴隷オークションへと続く酒場のオーナーに聞けば何か分かるかもしれなかった。
暑い炎天下の中を歩いて行くクロディウス、モーリスは涼しげな顔をしているが比較的涼しい森の中でずって生活をしていた結城にとってはかなりキツそうだった。
「あちーっすねクロさん」
そう言い服を脱ぎワイシャツ姿になる結城、汗で張り付いたワイシャツが周りの視線を集めていた。
暫く周りの好奇の目を受けながら大通りを歩くとあの酒場に着く、外で2人を待機させるとクロディウスは1人中に入った。
「おい、聞きたいことが……」
扉を開け中に入った瞬間に臭ってきた死臭、周りを見ると従業員や客が皆死んでいた。
1人の死体の前に座り血をなぞり時間経過を図る、恐らく死後数十分も経っていない……その証拠に血がまだ乾いて居なかった。
一旦外に出てモーリス達に入り口を見張る様伝え中へと戻る、恐らく犯人はまだ店内、こんな蒸し暑い気候の砂漠で血が乾いて居ないと言う事はそう言う事、そんな直ぐに逃げれる訳が無かった。
カウンター裏や奥の部屋を確認するが誰も居ない、気を張り巡らせ気配を探すが酒場からは何の気配も感じなかった。
さほど荒れて居ない店内、数人程の店員や客は皆喉元を一撃、かなりの手練れの様子だった。
もう一度耳を澄まし気を張り巡らせる、すると奴隷オークションへと続くエレベーターが稼働する音が聞こえた。
「下に行ったか」
そう言い木の床を触る、奴隷オークションの会場と言うのはドーム型で東京ドームをそのままこの酒場の地下に埋め込んだ様な物、つまり床を加減して殴ればドームの天井に出る筈だった。
床目掛け拳を振りかざし床を突き破る、すると予想以上に天井まで距離があった。
恐らく7.8メートル程の落下、だがその音で気づかれてしまっては元も子もない……念のために魔法で減速しておいた。
「さてと……」
天井に耳を当て音を聞く、今日はオークションが無い日なのか若しくは殺された後なのか不気味なまでに静かだった。
すり抜けを使い下に出ようと魔力を溜める、だが使おうとした瞬間に魔力が消えた。
どうやら魔法が使えなくなって居た。
「どう言う事だ?」
魔力を溜めることは出来る、だがそれを放出し魔法を使う事は出来ない……厄介な能力もあるものだった。
薄暗い辺りを見回し下に続く梯子を見つけ降りていく、下は相変わらずの豪華な椅子が並ぶオークション会場だった。
「これはこれは、大口のお客様ではございませんか」
長い髪に黒いスーツを着た中性的な男がいきなりステージに現れ両手を広げそう言い放つ、確かあいつは殺した転生者の部下だった気がした。
しかし彼は転生者の名簿では見た事が無い、つまり能力持ちでは無いという事……となればもう1人誰か居るはずだった。
辺りを見回し人影が無いかを確認するがそれらしきものは感じなかった。
「因みに僕以外はだれも居ないよ?ま、探して無いか」
クスクスと笑い小馬鹿にする男、誰も居ないと言うのは嘘か本当か……判断し難かった。
この手の男は考えが読めない、それに加えて魔法が使えないとなるといくら俺でも油断は出来なかった。
「お喋りは僕も嫌いでね、単刀直入に言うとイケメンの皮を被った黒騎士さん、貴方には死んでもらいたい」
「イケメンの皮を被った……」
その言葉で思い出した、今の姿はセラス、なのに彼は会った時『大口のお客様』と言った、つまり俺の正体はバレて居る……となれば能力はそれに似た何かなのだろうか。
「我が主人を殺した罪も重いですよ黒騎士……」
刀を抜きながらクロディウスに向かって片手を広げる、するとセラスの姿から黒騎士の姿に変わった。
「私の能力は範囲内に居る対象の能力解除……と言っても解除出来るのは魔法が能力者本体から離れた能力位なのですがね」
「魔法の使い手って事は知られてたのか」
「当たり前ですよ、貴方はこの世界では有名人、知らない事と言えば過去位ですからね」
刀を回しながら近づき面白おかしく言う男、知らないのは過去位……自分も覚えて居ない事を他人が知る訳無い、だがこっちの手が筒抜けとなるとやりにくかった。
「さぁ、貴方の好きな殺し合いをやりましょう!」
笑顔で突っ込んでくる男、瞬発力はまぁまぁといった感じ、刀の握りからして剣を持った事が無いのか片手で持っていた。
一撃目を鎧で受け止めて様子を見る、力は恐らく一般の男性並み、この鎧に傷が付くはずも無く刀は弾き飛ばされて居た。
「成る程、その鎧は特殊みたいだね……となれば僕も本気を出さなきゃね」
もう一本の刀を抜き二刀流になる、一本で傷がつかないのにそれが二本になった所で変わりはしない、言ってしまえば一本の時より勝ち目は無くなるだろう。
両手で構えて剣の要領で戦えば良いものをわざわざ負けに持って行く……理解し難かった。
先と同様に突っ込んでくる男の一撃目を片手で受け弾く、そして二撃目も同様に弾こうとした瞬間腕を斬られる感触がした。
「なにが……」
鎧を透かし傷口を見る、ほんの軽い切り傷だがクロディウスに取っては屈辱的とも言える傷だった。
プラチナ冒険者の戦いでさえ血を流さなかった、それがこんな道端の兵士で……許せなかった。
だが頭に上る血を沈めもう一度状況を冷静に振り返る、一撃目右手の刀の攻撃は防げた、問題は二撃目の左手の刀、何故か防げなかった……何が問題なのか、魔法や能力の類いを発動した様には見えない、となれば刀に力があるのだろうか。
どちらにせよ傷はもう二度と付けさせない、右手に黒い穴を出現させ鎌を構える、そしてゆっくりと男に向けて歩き出した。
一歩歩く度に男が後退りする、先程まであんなにも戦いを楽しんで居た男がクロディウスの怒りに触れたばかりにその圧倒的な圧力に負けて恐れて居た。
「た、戦いを怖がる?俺が……」
近づいていくだけで何もして居ないのに取り乱し出す男、彼の目の前に立った時にはもう戦いにならなかった。
「く、黒騎士様……慈悲を」
「あぁ、くれてやる、最高の慈悲だ」
そう言い鎌を振りかざす、そして男の息の根を止めるとクロディウスはエレベーターを使って上に上がった。
情報は知りたかった……だがあいつからは何も聞けない、そんな気がした。
それにしても彼の能力……転生者でないとするならば一体何なのか、考えれば考えるほどわからなくなっていった。
エレベーターの到着音と共にエレベーターから降り足早に外へと出て行った。