第11話 賢者モーリス
周りに転がる無数の兵士の死体、あまりこの世界の住人は殺したくなかったのだが襲われては致し方なかった。
返り血で黒い鎧が赤くなって居る、それにしてもモーリスと言う賢者は何処にいるのか、どの兵士に聞いても誰も知らなかった。
片っ端から様々な方法を使って聞き出そうとするが皆んな知らないと言う、中々苦戦して居た。
鎌にもたれ掛かり辺りを見回すが一面死体だらけ、オレンジ色のレンガが特徴的な美しい街の景観が台無しだった。
それにしても騎士団長のアディナ以外はゴミばかり、異世界人、つまりこの世界の住人というのはやはり底が知れて居た。
だが天器の存在は興味深い、能力を付与する武器とは珍しいどころでは無かった。
だが厄介な事に使用者を殺せば天器は消滅する、アディナの剣もアディナが死んだ瞬間に目の前で消滅していた。
「どうしたもんか……」
殺さずに奪った所でそれを使用出来るのか、そもそも俺が使おうとすれば拒否反応は出ないのか……謎はまだまだ残っていた。
だがそれを解き明かそうにもアーリス教は何処にあるかも分からなければ誰が信者なのかも分からない、教会は無くキリスト教の様な十字架や聖書の様なものも無い、分かっているのはアーリスと言う天使を神と崇めている事だけ……こちらはこちらでかなり厄介だった。
鎌を回しながらモーリスが居そうな所を見て回る、教会の様な場所や貴族の家、だが何処にもモーリスは居なかった。
「兵士に混じって殺したか……いや、賢者なら前線には出ないか」
となれば残るは城内のみ、そろそろ結城やカーニャ達の事も気になり始めた。
鎌をしまいゆっくりと城内へと入って行く、兵士が居た時は色々とうるさかったがあらかた片付けると逆に静か過ぎて不気味だった。
鎧の音がガチャガチャとうるさい、だが音がないよりかはマシだった。
扉を一つ開け中を覗く、だがそこは厨房だろうか誰も居なかった。
「一体何処なんだ」
何室もドアを開け確認するが図書館や広間、兵士の部屋などモーリスの居そうな部屋は無い、だが1階の突き当たりの扉の前に立つと微かに人の気配がした。
木で作られた教会などの扉でよく見る大きな両開きの扉、右側の扉に力を入れ押すと重たそうな音を立てて開いた。
「黒騎士の客人は珍しいね……」
ステンドガラスから入る光に照らされる1人の男、杖を持ち片手にはなにかの書物を持つその姿はまさに賢者だった。
「お前がモーリスか」
「ええ、同胞が沢山死んでしまいました……今は祈りの時、暫しお待ちを」
そう言って祭壇の方へ行き祈り出すモーリス、不意打ちをしても良いのだがなんせ聞きたい事が山ほどある……大人しく待つ他無かった。
教会の様な作りの長椅子に腰掛け祈り終わるのを待つ、中を見る限り教会を完全に真似た様な内装、だがステンドガラスに描かれた独特な天使を見る限りアーリス教と言うのは容易に想像できた。
10分の祈りが続き祈り終わると立ち上がりこちらに近づいてくる男、モーリスなのだろうが万が一の為に一応聞いておいた。
「名は?」
「モーリス・レヴァー、転生者ですよ」
にこりと笑う金髪のモーリス、見た感じイタリアやそっちの方の人の様だった。
「聞きたい事がある、答えてくれるな?」
「どうしましょうね……」
不敵な笑みを浮かべているモーリス、交換条件をつける気なのか何かを考える表情をしていた。
交換条件……物によっては考えるがあまり聞く気は無い、だが彼が転生者という事は能力持ち、何の能力か分からないのは少し気をつける必要があった。
「それじゃあ一つ取引をしませんか?」
「なんだ?」
「私を仲間にして下さい」
笑顔で言うモーリス、久し振りに人の発言で少し思考が停止した。
仲間?彼は何を言っているのか、仮にこの国の人間ならば一番言ってはいけない言葉、仲間が殺されたのにその殺した張本人の仲間になりたいなど正気の沙汰では無かった。
「勿論ただとは言いません、アーリス教の事、そして転生者の王の事を私の知る限り全てお話ししますよ」
またも笑顔のモーリス、彼の狙いが何なのか全く分からない、危険な匂いがする……だが興味深い二つの情報をみすみす逃すわけにはいかなかった。
「良いだろう、だが一つ条件がある」
「条件ですか?」
不思議そうに首をひねるモーリス。
「そうだ、それは俺の魔法にかかってもらう事だ」
「魔法にかかってもらうですか、ファンタジーな響きですね」
クスクスと笑うモーリス、たしかに響きはファンタジーだがかける魔法は全くファンタジーじゃ無かった。
「かける魔法の効力は嘘が言えないだ、勿論俺に対してな」
「言うとどうなるのですか?」
モーリスの胸に手を当てながら魔力を溜める。
「死ぬ、ただそれだけだ」
そう言い魔法を放つとモーリスは軽く吹き飛ぶ、だがしっかりと着地した。
「死ぬですか、それは怖いですね」
「さぁ、話して貰おうか?」
笑うモーリスを無視して自分の聞きたい事を尋ねる、魔法のお陰で嘘もつけない……これで知りたい事が一気に知れた。
「分かりました、まずアーリス教の事から……」
長椅子に腰掛け話すモーリス、軽くまとめるとアーリス教はかなりブラックらしかった。
まず入信に10万円、そして脱退不可、それに加えてカースト制でお金を積めば積むほど上に行けると言う仕組みらしかった。
アディナの場合は特別らしく彼は純粋に強くスカウトされ傭兵的立ち位置で入信したらしく槍と弓の使い手も傭兵らしかった。
アーリス教の教祖は表向きはガラハッドと言う男らしいが本当は天使アーリス自身なのでは無いかと言う噂も、あるとの事だった。
肝心の入信の方法はアーリスが生まれたとされる聖地、カーニャを買った砂漠の街ミズガルドの酒場で合言葉を言い先程の入信料を払うだけだった。
「合言葉?それは何だ?」
「神に作られし人、それは天使もまた然り……驕り無き天使、だが驕り深き人類、それを浄化するのが天使という存在アーリスなのだ……でしたっけね?」
笑いながら言うモーリス、はっきり言って意味は全く分からなかった。
驕りぶかき人、それを浄化する存在?ならばなぜ金を集めるのか、全く意味が分からなかった。
所詮天使も創られた存在……と言うわけなのだろう。
アーリス教の事は大体分かった、だが本当に知りたいのは転生者の王の事だった。
「分かってますよ」
早く話せと言わんばかりの圧力をかけるクロディウスに少しだけ苦笑いになる、そして一息置くとモーリスは話し始めた。
「転生者の王で分かる事は一つだけ、白銀の鎧を纏い2メートルは超えるランスを持っていると言う事……それだけです」
モーリスの言葉を聞いた瞬間に頭痛がする、白銀の鎧を着た騎士……何処かで出会った気がした。
「それだけか?」
「転生者の王については、ですがその側近についてはもっと知っています」
「教えてくれ」
頷き話すモーリス、彼の話しを聞き終えた後目的地は決まった。
転生者の王の側近は3人居てその内の1人がアーリス教の信者でカーストで言うと一番上から二番目に位置する所に居るらしかった。
と言う事はその側近から情報を聞き出せば転生者の王に近づける、となれば砂漠の街ミズガルドに行き早い所その側近に情報を貰う必要があった。
ついでと言ってはあれだがアーリス教も恐らく今後障害になる、潰す必要性は少なからずある筈だった。
「モーリス、行くぞ」
「イエス・マイロード」
膝をつきながら黒騎士に忠誠を誓う様言うモーリス、本当によく分からない奴だった。