第10話 プラチナ冒険者
「闘いはやはり心が安らぐ……」
周りには数え切れない程の兵、街の住人はもう既に避難したのか居ない……モーリス、彼は中々の策士だ。
スディラへは歩きで5日掛かった、その間にこの大国の国民を逃すのは不可能……つまり俺があの騎士と接触する前から国民達には避難をさせて居たことになる、まさに預言者、ここで潰しておかなければ転生者の王側へ回ったら厄介だった。
四方から槍、剣、矢、銃、様々な攻撃が飛んで来るがそれを鎌一本で防ぎ周りの兵士達を切り刻んで行く、今のクロディウスには黒騎士よりも死神の名の方がピッタリだった。
「ば、化け物だ……」
勝ち目が見えない、死の未来しか見えない事に恐れをなした兵士達が次々と戦意を失い逃走する、だがそれすらもクロディウスは許さなかった。
「逃げるな、興が削がれる」
そう言い両手を合わせると地面から現れた無数の槍が兵士達を串刺しにする、これである程度一掃できた……かと思いきや妙なバリアが兵士達を守って居た。
「すまねぇな黒騎士さんよ、あんま気乗りしないが部下が死ぬのは見過ごせねぇ」
聞き覚えのある声……これはあの騎士団長の声だった。
兵士達が一斉に後ろに下がり騎士団長が前に出て来る、改めて対峙するとかなりの威圧感を彼は放って居た。
「見逃してやったろ、死にたいのか?」
「そんな訳じゃ無いんだが俺も闘いは好きでねぇ……」
そう言い剣では無く拳を構える、武器が無い方が不利なのを彼は分かっているのだろうか。
鎌をしまいこちらも既になり一歩足を前に運ぶ、すると男は気が付いた頃には懐に入っていた。
「鎌要らないのかな?」
流石に速すぎる、咄嗟にガードをしようとするがそれも間に合わず兜越しだが顔に打撃を喰らった。
軽く脳が揺れ足がふらつく、久し振りに戦いで一発もらった。
ふらつく頭で何とか距離を取りながら男を見ると首元に気になるものが掛かっていた。
「あんたそれプラチナ冒険者の証か」
「ご名答、俺はスディラの騎士団長兼プラチナ冒険者のアディナ、拳の神とか呼ばれてるよ」
こんな所でプラチナ冒険者と出会えるとは予想外だったが少しがっかりした、まさかこの程度の強さだとは思いもしなかった。
たしかに威力もあり速さもある、だが俺からすればさほど脅威では無かった。
先程と同様に一歩踏み込むとすかさず一撃を入れようと今度は後ろに回り込んで来る、だがそれをクロディウスはいとも簡単にガードした。
「まじかー、こんなに早く見極められるとは……でも本気の俺は強いよ?」
腰に携えていた剣を抜き地面に刺す、そして懐からナイフを取り出し掌を切り血を垂らすと辺りが眩しい光に包まれた。
神々しい光が徐々にアディナへと集まりやがて完全に消える、そして微量の光を纏った。
「これが神と呼ばれる由来……拳神モードとでも名付けようかな?」
そう言いその場でステップを踏みリズムを刻む、見た所神々しくなった以外あまり変わったところは無さそうだった。
様子を見るために少し距離を取ろうと後ろに下がる、すると鎧にヒビが入る音が聞こえた。
「痛ってー、その鎧どんだけ硬いんだよ」
拳を痛そうに撫でながら初期の位置に居るアディナ、鎧を見ると拳型に所々凹んでいた。
黒龍と呼ばれるかつてのドラゴンの鱗で作られたこの鎧にヒビが入るとは正直驚きだった、何を慢心していたのか……戦いとは常に死と隣り合わせ、それを忘れていた。
だがこの戦いもクロディウスにとっては余興の一つに過ぎなかった。
「あんたのそれ、天使の力だろ」
剣に彫り込まれた天使達の飛び交う模様を見た瞬間に分かった、この世界にはアーリス教と言う唯一の宗教がありその信徒の中でも限られた者だけが持てる天使のアーリスの力が施された剣、弓、槍の武器があり彼のはその一つ剣の天の武器、略して天器だった。
クロディウスのは黒魔術や闇の力に分類され天使とは対になる存在、彼の攻撃はかなりダメージが入っていた。
だが逆にこちらの攻撃も向こうは通常よりも痛手になる、恐らく一気に決めようとしたのだろうがそれが仇となった。
「あんたは死神って信じるか?」
「死神か、信じないな」
「そうか、そりゃ残念だ」
そう言って黒い鎌と白い鎌を片手ずつに持つ、そして刃の部分でバツを作るとアディナに問いかけた。
「ここで一つ話をしようか」
「話し?」
広場の時計を見て時間を確認するクロディウス、指一本動かせないこの状況で話など何を考えて居るのか分からなかった。
「アーリス教についてだ」
「何が聞きたい」
「天器についてだ」
凄まじい力を纏うことが可能な天器、それを結城、もしくはまた別の奴に持たせる事が可能なのならば是非手に入れておきたかった。
「喋るとでも?」
そう言い口をつぐむ、どうやら墓場まで持って行こうとして居るらしかった。
「あんたは正義の騎士って感じじゃ無いけどな」
「確かに確立した正義は無い……なんせ守る者を失ったからな」
「成る程、最後に参考までに殺した人物を聞いておこうか」
「あんただよ黒騎士」
「だと思ったよ」
守る者を失ったと言った時にやっとピンときた、彼とは数年前に一度やり合った、確か彼の婚約者が転生者と言う理由だった。
あの時は天使の力など無くさほど強くも無かったから分からなかったがまさかここまで力をつけて居るとは人間よく分からないものだった。
再び時間を確認すると鎌を一回転させるクロディウス、その瞬間にアディナの身体は解放された。
「黒騎士ぃぃ!!!!」
足にめいいっぱい力を込め地面を蹴り黒騎士目掛け拳を振りかざそうと握りしめる、だが突然視界が反転した。
「な、なにが……」
自分の身体が見える、後ろの兵士達は驚きや悲しみ、様々な表情をしている……一体なにが起こったのだろうか。
「首を切れてもなお生きようと足掻く……恐るべしだな騎士団長アディナ」
そう言い遠ざかって行く黒騎士の背中、成る程……俺は負けた、そして死ぬのか。
乗り気では無いと言っていたが本当は黒騎士の強さに惚れていた、フィアンセを殺した奴なのに……不思議なものだった。
薄れ行く意識の中大量の兵士達の泣き声が耳に微かだが聞こえる、俺も愛されたものだった……向こうに行ったらもう一度彼女にプロポーズをしよう。
「セーナ、Ti amo……」