第9話 消える騎士団長と預言者
結城を仲間に引き入れて2週間、仲間を見る目がないと言うのか何と言うのか……毒を消した少女はどうもミーシャと反りが合わない様だった。
「クロディウス様にベタベタしてんじゃねーよドサンピンが!」
「何の言葉か分からない、でも貴女はムカつく」
無感情なミーシャが珍しく言い返し怒りを表現する、こうして感情が増えるのはいい事なのだがクロディウスとしてはそろそろウザかった。
それにしても結城は本当に利用できるのだろうか、再生能力は強い、だが始末するときに面倒な気がした。
またシルバと同じ異空間に放り込むか成功する可能性はあまり高く無い能力を消す魔法を試してみるか……どちらをするにせよまだ転生者の王と出会っても居ない段階で考える事ではなさそうだった。
「私はクロディウス様に買われた身ですから」
そうドヤ顔で誇らしげに自慢出来る事なのか怪しいラインの事を言うカーニャ、だがそれを聞いて結城は明らかに悔しそうな顔をしてクロディウスにくっつ居て居た。
「わ、私なんかクロディウスに仲間って言ってもらったし!」
そう言いカーニャ同様くっついて来る結城、彼女の場合は胸もしっかりと押し付けてくる分タチが悪い、しかし何故こうも好かれるのかよく分からないものだった。
セラスの容姿はカッコいいのは分かっている、だが彼女達には本当の姿では無いと伝えてある……となれば恩でも感じているのか、女性とはよく分からない生き物だった。
「クロディウスはどっちとヤりたい?どっちが好きだ?」
可愛らしい顔をしてど直球で聞いてくる結城、だがその質問はクロディウスには分からなかった。
好きと言う感情がどんなものなのか……昔は覚えて居た気がする、だが今はどんな感情なのか全く分からなかった。
人に聞いても胸のときめきなどとふざけた事を抜かす、結城の質問には答えられなかった。
「取り敢えずお前には期待しているぞ結城」
彼女を仲間に引き入れた理由は能力もあるが毒に侵された中で様々な方法を試し再生能力を向上させた根性とスラム街を生き残った計算高さ、これは少しだが役に立つ筈だった。
それにあの毒は消したのでは無く俺自身が吸収した、あの一度纏わりつけば消えない毒はかなり使える……これが彼女を仲間にするのはこの毒を手に入れる過程に過ぎず毒を手に入れた今となっては正直な所、期待すると言ったが殺しても良かった。
性格から何まで黒騎士とはかけ離れた状態の今……すこしクロディウスには焦りすらあった。
このままでは転生者を殺すのに同情が出てきてしまう可能性がある……それだけはあってはならなかった。
残念な事に黒騎士は不死身では無い、首を刎ねられれば死ぬし毒を盛られても死ぬ、水で溺れ死ぬ事もあるかもしれない、圧倒的な魔力量と人間離れした身体能力以外は至って普通の人間なのだから。
ならば何故毒を吸収しても死なないのか、それは簡単で治癒魔法を常に掛け続けているからだった。
勿論圧倒的な魔力量と言っても無限では無い、その内魔力は尽きるだろう……だがそれは何年も後の話、それ程にクロディウスの魔力は桁外れだった。
快晴の草原の中で喧嘩する2人を三歩ほど後ろで眺める、転生者の王の存在をまだ話していない今知らない彼女達は何とも平和、だがそれで良かった……余計な事で変に張り詰めてもらってはこっちが困る。
次の候補者を紙から探そうと黒い穴を出現させてを突っ込み適当な紙を一枚取り出し目を通そうとする、だが辺りの空気の些細な変化に気が付きクロディウスは足を止めた。
「クロディウス様どうしたの?」
不思議そうな顔をするカーニャとカーニャに両頬を引っ張られている結城、向こうは呑気だがこっちはかなり神経を張り巡らせて居た。
「少し黙ってろお前ら」
指でジェスチャーをしながら辺りを見回す、周りはだだっ広い草原、隠れる場所など当然なく人の姿は無い……だが微かだが気配がした、確信は無いが誰か居る気がした。
注意深く周りを見渡しながら地面に視線を移す、すると一部分だけ不自然に草が踏み潰されていた。
「成る程な」
踏まれた形跡のある草を眺め頷くと両手に魔力を溜め空に手をかざす、するとクロディウスを中心に物凄い衝撃が発生し辺りを吹き飛ばす、結城達には当たらぬよう施したバリアを除く一帯から草木は消えた。
「今ので死ぬならそれまで、生きてんなら出てこい、始末するか考えてやる」
辺りに響くクロディウスの威圧的な声、暫く風の音だけしか聞こえない静寂が訪れるが数分もすれば1人の男が何処からともなく姿を現した。
「ゲホッ……見た目の割にはダメージ無くて良かったよ本当、死ぬかと思ったよあの攻撃を見た時は」
鎧に付いた土埃を払いながら近づいてくる顔に傷を負った男、俺の記憶が正しければこんな奴は転生者の殺害リストには載っていなかった。
だが何も無いところから姿を現す辺り能力者と見て間違いない、となれば一体何者なのか……かなり興味があった。
「あんた俺になんか用か?」
「用って程の用でも無いさ、言伝を頼まれたからこうして来たんだよ」
「言伝?誰からのだ」
「アブラハム・セイリオ、我が国王からだよ」
アブラハム・セイリオ……何度か耳にした事がある、なんでも目立ちたがりの国王で頻繁に戦争などを起こすが勝率はほぼほぼ100%で民衆からの支持も厚くスディラという国の国王らしかった。
しかしまたそんな国王が何故今このタイミングで言伝なのか、厄介な事しか思い浮かばなかった。
「騎士団長の俺としてはあまり気乗りしないんだが黒騎士さん、あんたの事をうちの国王が気に入らないみたいでね」
そう言い話を続ける男、だがそんな事よりもクロディウスは何故彼が自分の事を黒騎士と知って居るのかが疑問で仕方がなかった、なんせ今は別人になって居る、外見からは分からず最近は人間臭くなって居るはず、分かるはずがなかった。
「あぁ、黒騎士って何故知ってるかはあれだよ、モーリスって言う預言者を名乗る男が皆んなに告げてたんだよ、まぁ彼の予言は絶対当たるから疑いは無いけどね」
預言者モーリス……厄介な奴も居たものだった、これではセラスの意味が全く無かった。
「情報提供のお礼だ、生かしてやる……だが攻撃しようと一歩でも踏み込んでみろ、その瞬間首を刎ねる」
セラスの姿から黒騎士に戻り鎌を喉元に突きつけて威圧的な声で告げる、男のめんどくさそうな表情を見る限り戦意は元々無さそうだった。
「言ったろ、俺は気乗りしないって……だが剣を交える時は来る、その時は容赦しないからな黒騎士」
そう言いカッコつけたポーズで別れを告げ消え去る男、これは予定変更でスディラの預言者モーリスを始末しなくてはいけなさそうだった。
「行くぞお前ら」
鎧と鎧が触れ合う金属音を鳴らしながらあの2人のバリアを解き先に歩いて行くクロディウス、完全に音を遮断され何を話していたのか分からなかった2人にはクロディウスの黒騎士姿とあまり元気の無い声の意味が分からなかった。
ただ分かることはこれから戦いが始まると言うこと、カーニャと結城は顔を見合わせ頷くとクロディウスに置いていかれないよう走って後を付いていった。