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キミノタメニ  作者: ばにばに
4/11

1-4


「え・・・。」



振り向くとそこにはおどおどとした様子で俺を見ている女の子がいた。


「え・・・なんで、お前いるの・・・。」


俺は純粋にそう思った。なぜこんな人気のない場所にこんな内気そうな女の子がいるのか。


「え・・・えっと・・・ご、ごめんなさい!」


彼女はおどおどした様子を見せると視線を泳がせ帰ろうとする。


「いや・・・ちょ、ちょっと待てよ!」


俺がそう呼びかけても、彼女は止まる気配はなく、それどころか歩みを早める。



「おい!!」



しまった。そう思った。昔みたいに威圧的な声でそう叫んでしまった。


なんで俺がそこまでして呼び止めようとしたのかなんて、自分にさえわからなかった。


「は・・・はい・・・。」


彼女は、俺の声にビクッとさせた後、次は体をビクビクさせながら俺の方を振り向いた。


「ご、ごめん・・・俺つい・・・・。」


「だ、大丈夫ですよ・・・。」


叫んでしまったことへの謝罪を述べる。彼女は怯えた様子は消えていたがそれでも俯きながら返事を返す。


「なんで、ここにいんの?」


「先に・・・いました。」


「えっ、ど、どこに?」


「あ・・・っちです。」


彼女が指さした場所は、端にある街灯の下にぽつんと設置されてた小さいイスだった。


全く気づかなかった。さっきの叫び声が聞かれてしまったことから少し恥ずかしくなって俺も彼女から視線をずらす。


それから、続く会話もなく俺と彼女の間に静寂が訪れると、あたりの木が一斉に揺れ初めて、また暖かい風が吹く。


どれくらい時間が経っただろうか。体感的には5分くらいはこの状態だった気がする。


「名前・・・なんていうの。」


「え?」


俺が最初に発した言葉はそんな言葉だった。彼女は顔を上げて動揺の声を漏らす。


しっかり彼女の顔をみるのはバスの中以来で、黒く澄んだ大きな瞳持つ彼女は綺麗というより可愛らしいという顔をしていた。


木口未依きぐちみいです・・・・。」


少し頬を赤らめて未依はそう答えてくれた。


「未依さんか・・・・俺は賢一だ、よろしくな。」


「賢一さん・・・。」


未依はぎこちなさそうに俺の名を呼ぶ。


「さん付けは慣れてないからやめてほしいなあ。」


俺は苦笑しながらそう言った。


「わかりました・・・。なら、賢一君も・・・タメ口で呼んでいいです。」


少し照れながらそう言葉を返す未依が、俺には一瞬微笑んだかのように見えた。


それがなんだがとても嬉しくて、やっと繋がった。そんな気がした。


俺は未依を微笑みながら見ていると、突然未依から声をかけられた。


「賢一君も・・・ここが好きなんですか?」


「あぁ。たったさっきこの場所のファンになったばっかだ。ここってすっげえ気持ちが晴れるっつうか、心が軽くなるような気がするんだ。」


「そ、その気持ちわかります!わ、私もここ大好きです!」


俺が夜空を見上げながら思ったことを口に出すと、未依も興奮気味に顔を上げて、少し声を荒らげそう答えた。


俺はそんな未依の態度に驚きつつも、必死に共感してくるその顔は、俺が印象を受けていたモノとは全く別もののとても明るい笑顔だった。


ー こいつも、こんな笑顔できんだ。 ー


そんな未依を見て、俺はまた微笑んだ。







なんで、この世界はこんなにも不平等なのか。


楽ができる者もいれば、苦しかない者だっている。


「苦」しかない者は多分この世界に何万といると思う。外国なんかではいまだに飢えなんてものもあると聞くし、スラム街と呼ばれてる場所もある。


私が感じてる「苦」なんてそれに比べたら全然穏やかな苦しみにすぎないと思う。


でも、それでも私はその程度の苦しみがたまらなく辛くもあり、憎かった。


ー 少しでいいから・・・笑える生活がしてみたい ー


そんな風に思う17歳の春だった。




               ?



私はいつもバスで学校に通ってる。


ほんとは自転車でも全然いける距離なんだけど、めんどくさいというか、人と道端であいそうだからバスにしている。


東高行きのバスなのに乗る人はいつも私くらいで、誰にも顔を合わせなくてすむってのも理由の一つで、その日も普段通りの時間に出た。


なんの鳥かもわからない鳥がチュンチュン鳴いていて、どこにいるかわからないカエルがそこいら中でゲコゲコと鳴いている。


空は晴天で、4月ということもあり太陽の光もギラギラしておらず、暑くも寒くもない素晴らしい朝だった。


だけど、1日の中でこの時間が一番憂鬱で体が重たくなる。


いつからだろうか、晴れた青空が大好きだった頃から雨の降る曇り空の方が好きになってしまったのは。


あの頃から私の心の中は、今日のような晴天になることなんて一度もなかった。


まあ、私自身、人を信じることすらしてないし、期待もしてなかったからそうなることはないってのはわかっていた。


「はぁ。」


今日もこんな事を考えつつ溜息もしてバス停に向かう。


「今日は新学期。まだあと二年も通わないといけないのかあ・・・。」


地面で元気に仕事をしている蟻を見ながら小さくぼやいていると、大きな音と鼻につんとくる煙を出しながらバスが着た。


重い体を無理矢理動かし、段差のあるバスの階段を上がってバスの車内に入ると、いつもはいない、ぽつんと一人乗ってる男の人と目が合った。


身なりはきちんとしているが、髪型も整っているし顔もちゃらくてアレは絶対にやんちゃしていた男の人だ。


多分ああいうのとは一生あいまみえないと思うし絡むこともない、そんな考察をしながら私は席に着いた。


この人が私のこの暗い生活を変えてくれるわけでもないし、興味なんてほとんど湧かなかった。


バスが到着し、学校に入って教室に向かうと席について私は本を広げてそれを読む。


ただ、頭の中に入ってくるのは本の内容ではなく周りの声だった。


みんな友達同士で楽しそうに喋っていて多分独りぼっちで本を読んでいるのは、私くらいだと思う。


ざわざわとざわつくクラスの中を掻き分けるかのように一人の女性が声をかけてきた。


「ねぇ、木口?あんた、昼休み屋上な。」


ニヤニヤしながら同じクラスの本田さんが声をかけてきていた。


茶髪のロング、つり上がった目が特徴で、見た目がギャルそのものな人だった。


「わ、わかった・・・よ。」


私はおどおどしながら返事をする。


「・・・怯えながら返事すんじゃねえよ。うっざ。」


振り向きざまに小声で吐き捨てると、自分の席の方に向かっていった。


「ごめんなさい・・・。」


私はそんな本田さんの背中に向かってそう呟く。


去年から一緒にいる、いや、いさせられているが、地味な私と派手なあの人達との不釣り合いな組み合わせは、とても不自然で、周りは多分ちゃんとした友達じゃないことくらいわかってると思う。


私はあの人達を友達だなんて思えないし、もちろんあの人達もそんな風に思った事なんて1ミリもないと思う。私にとってあの人たちは怖くて、とにかく怖い存在だった。



「ホームルーム始めんぞ」


私が一人落ち込んでいると、飯田先生が隣のクラスにも聞こえるくらいの大声でそう言った。


飯田先生は私にも優しくしてくれて、唯一喋ったりするとってもいい先生だった。


「今日はこのクラスに転校生くるからー。つってもやっぱりもうみんなの方で情報回ってんのかね?」


飯田先生がそう言うと、クラス中がざわついていた。


みんなは知っているのかもしれないが、少なくともそんな情報私には回ってきていなかった。


SNSでクラスのグループ会話に参加しているわけでもないので、転校生がくるなんていう情報わかるわけもない。


私だけ何も知らない。 そう思うと改めてこのクラスで孤立していることを実感した。きっと、これから先もずっとこんな環境が待っているんだ。


なんで空は青空なのに、こんなにも私の心の中は曇ったままなんだろう。そう思いながら私は雲一つない快晴の空を眺めていた。





名前もわからない鳥が、立派な羽を広げ楽しそうに飛んでいる。


優雅に飛ぶその鳥は美しくとても綺麗なものだった。


しかし私はそれほど綺麗なモノでも素直にそう思える人間じゃない。


ー 羽、もげちゃえばいいのに ー


私はひどい人間だ。いつの間にか楽しそうにしているモノが全部、羨ましいどころか恨めしい。そんな醜い弄れた性格になってしまった。


そうやって自分を卑下していると、私の横を転入生が通り、風を感じた。


そして転入生はそのまま私の後ろの方の席に座った。音的に二つくらい後ろの席だろうか。


それからホームルームが終わり、さっそく転入生の周りに人だかりができていた。


私も本を広げてそれを読むが、やっぱり頭に入ってくるのは内容じゃなくて周りで喋ってる会話の内容だった。


別に誰の会話の内容でもいいのだが、一番近くて聞きやすい、すぐ後ろの質問攻めに遭う転入生とその周りの人達の会話を聞いていた。


聞いたところで誰の得にもならない質問ばかり。それを聞いたところでなんの意味もないのになんでそんな質問ばかりするのだろうか。そんな疑問を抱いていると、転入生がみんなの質問を丁寧に答えていく。


「趣味は読書とかかなあ。彼女はいたことないよ。前は文芸部だったかな?ちょっとちょっとみんな一人ずつ喋ってよ!」


転入生は楽しそうに周りの人達と会話していた。いや、転入生はほんとに楽しく会話しているのだろうか。


ー あの人も、なかなかにひどい人だ ー


私は、本を読んでいるフリをしながら、そう思った。



      

                                    


           *



                                     


「あんたさ、何昨日の返信返さないで無視ってんの?」


私は昼休みに屋上に呼び出されていた。目の前で本田さんが眉間にシワを寄せて壁に寄りかかりながら問いただしてくる。


「最近調子乗ってない?」


本田さんの周りにいた二人の女性も口々に喋りだす。田口さんに井口さん。いつも本田さんの周りにくっついて行動している人たちだ。


「ご、ごめんなさい・・・。昨日はその、寝ちゃって・・・・。」


私は怯えながら言葉を返した。なにをされるかわからなくて、怖かった。


すると急に本田さんは真顔のまま私に近づきそのまま髪を鷲掴みに掴んでくる。力強く私の髪を掴み、引きちぎれるんじゃないかってくらいの痛みで顔がひきつった。


「あんたさ、馬鹿にしてんの?」


なんで返信を返さなかっただけで、こんな痛い思いをしなければいけないんだ。


すると、次は脛を足で蹴られ、足がジンジンしていて悲鳴をあげている。


痛い。痛いよ・・・。 


心の中でそう呟く。


痛みで瞳から一滴、二滴と涙がこぼれる。


「ごめんなさい、ごめんなさい・・・ごめんなさい。」


私は謝り続ける。それしかできなくて、周りから見たら惨めな女子にしか見えなかったと思う。



「っぷ。なに泣きながら謝ってんの。まじウケるんだけど。」


「ほんと、木口はいつも笑わせてくれんねー。」


「これ写真とっとかない?」


「いいねー!めっちゃおもしろそうジャン」



そう言って荒々しく髪を離し、哀れに泣く私を嘲笑しながら見下した。


そしてスマホを片手に私の姿を1枚、2枚と写真で撮っていた。



ひどい仕打ちだよ。


私何もしてないじゃん。


ただ・・・ただ・・・返信返さなかっただけなのに。


私はそう思った。



本田さん達は呆然と立ち尽くす私を置いて奥にある扉から階段を降りて姿を消した。





痛い。





髪を思いっきり引っ張られたから痛いんじゃない。脛を蹴られたから痛いんじゃない。多分痛いのは心の方だ。



謝ることしかできなかった。抗おうともせず、反抗の意思すら湧かず、ただただ早く終わってくれとその一心で謝り続けることしかできなかった。



そんな自分がすごい惨めで。辛くて。心が痛かった。



私は悔やみながら、本田さんが寄りかかっていた壁に額を当て、拳を強く握りその壁を叩き続ける。手は赤くなり内出血も起こしていたけれど、そんなことはどうでもよかった。



私を馬鹿にし傷つけようとする本田さん達は腹立たしい。けれど、それに対してなにもできない弱い自分がもっと腹立たしかった。



しかし、友達どころか喋る相手すら作れない私になにができるんだろう。




そう思うと徐々に手足に力が入らなくなっていた。さっきまでの熱が急に冷めたかのように私はその場に崩れ落ちる。



そして顔を上げ青く晴れた空を見上げていた。



周りに人はおらずなぜかあたりは安穏とした雰囲気を出している。空に近いこの場所が、まるで私だけの世界のような気がした。



ここなら、私はなんの心配もしなくていい。心地のいい風になびかれて、世界全体が私の存在を歓迎してくれている。



できることならここにずっといたい。私だけしかいないこの世界ならどれだけ楽に過ごせるんだろうか、そう考えていた。



けれど、校庭で遊んでいる男子の声が耳に入ってくると、すぐにその世界は音も鳴らずに崩れる。



私は静かに俯き、



「誰か・・・助けて・・・。」



呻き声をあげなら、涙を浮かべそう呟いた。



そんな期待は無駄だって事は嫌ってほどわかっていたはずなのに。だけど、自分でももうどうすることもできなかった。



自分で自分を卑下し続け、それが自分の中に闇を作り、そしてまた苦しみ自分の弱さを知る。そんな負の連鎖から抜け出すことができない。



その行為が自分を駄目にしているとわかっていても、やめることはできなかった。



だからなにもできない私は誰かの助けを待つことくらいしかできない。



そんな都合の良い事なんて起きるわけもないのに。



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