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キミノタメニ  作者: ばにばに
3/11

1-3

あたりは暗くなってきており、太陽が沈みかけるそんな独特な寂しさを感じていた


「んじゃ、俺そろそろ帰りますね。」。


山の中に家があるってこともあり、日が落ちる前に学校から出ておきたい。


「わかった。お疲れ様だ。」


千由が窓際で、いかにも小難しそうな小説を読みながらそう答えた。


ああいう小説は文字だらけで読む気が起きないし、元々俺には本を読む習慣がない。


ならなんで文芸部に入ったのかという疑問に至るわけだが、元々これといった得意なスポーツもないし家に帰ったところでやることもないので、その結果消去法で文芸部っていう案に至ったわけだ。


それにしても先程から千由以外の部員が見当たらない。俺がこの部室に半強制的に連れてこられてから誰も入ってこないのを不思議に思っていた。


「あの、他に部員とかいないんすか?」


「私以外は誰もいないぞ?・・・おっと、賢一君がいるから二人だな!」


千由が笑顔でそう答えると、俺はなんか照れくさくなった。


千由と二人か。


そんな乙女チックな事を考えながら視線を千由からずらす。


「それと同級生なんだし敬語なんて使わなくてもいいぞ?」


「あ、そうです・・・そう?じゃあそうさせてもらうわ。」


なんか今日初めてあった人にいきなりタメ口ってのは少し違和感を感じる。


なんか馴れ馴れしいっていうか。だからってちゃん付けで呼ぶのは色々論外だし、そうなると敬語が妥当かなとか思っていた。


すると空いてる窓から声がした。


「あー飯田だるいわ、またスカートが短いだとかボタン閉めろとかうっせっつーの。」


「まじわかる。体臭きっついしまじ死んでほしい。」


そんな、明らかに善良とは思えない生徒たちの会話が下の方から耳に入ってくる。よく聞くと同じクラスの女子の声だった。


いつも4人くらいで行動してる典型的なギャル。


「なーそう思うっしょ?」


「・・・。」


「おい、聞いてんの?」


「う、うん!ほんとうざいしきっついよね!」


そんなギャル達の問いに答えた聞き覚えのない声を俺が耳にしていると、千由がその返事をした主を上から覗いた。


「あの木口がまさかあんなのとつるんでるとは驚きだったな・・・。」


俺からは見えないが、恐らくその主を見ながら過去を思い出すかのように見ていた。


「え、えっと木口って誰?」


別に関わりのない奴の事なんてほとんど興味ないが、一応聞いてみる。


「賢一のクラスじゃなかったか?多分だけどいつも一人でいるおとなしい子だ。」


「え?あの、地味っぽい黒髪の子!?」


「そうだ。」


クラスの中で一人でいるやつなんてあの子しかいなかった。


バスの中であったあの子、木口っていうのか。雰囲気的には地味でぼっちっぽいっていうのが正直な感想だったけど、人は見かけによらないっていうのはこのことらしい。


ー これがあいつの本性か ー


別にがっかりしたとか、逆に実は友達いるんだってことで嬉しかったわけじゃない。喋った事があるわけじゃないし、そもそも最初の印象から少し気になる人物だなとは思ったが、


親しくなりたいと思ってたわけじゃないから普通にこういう一面があるんだなと驚いた。


「そんな風には思えなかったけど・・・。」


「私も最初は驚いたが、一年前くらいからずっとつるんでるぞ。」


「そんな前からつるんでるのか。」


「ちなみに彼氏もいるみたいだな。」


「おいおいまじか・・・。」




 あいつ、彼氏いんのか。




呆然とそう思った。




「それはそうと、あと5分くらいでバスがくるぞ?」


「げっ!まじかよ!」


一時間に一本くらいの本数なのであれを逃すともう一時間待つ事になる。


急いでイスから立ち上がりリュックを背負う。


千由を背にし、扉を開けようとして俺は立ち止まる。


「んじゃ、また明日な。」


俺は振り返って千由を見る。


「あぁ。また明日だ。」


千由は読んでいた小説から視線を俺に向けてニコリと微笑む様な顔でこちらを見ていた。





          *





結局、全力疾走しても間に合わず、俺は近くのコンビニで本を立ち読みして時間を潰していた。


その後、やっとバスが着きそれに乗って席につく。


一弘の言ったことやバスであったあの子の事とか色々考えていると、眠気に襲われた。


あー、色々忙しかったからなあ今日は。・・・眠てえ。 そう思い、ゆっくりまぶたを閉じる。



      


                     *



そこは真っ暗な場所だった。真ん中に街灯が一つ立っており、街灯が急に光りだすと、小さな光で照らされた薄暗い不気味な空間となった。


俺は足元に底冷えするような冷たさを感じて下をみると足首まで水に浸かっており、よくみると一面に水が張っていた。


すると街灯の下に高校生くらいの女の子がうずくまって、頭を抱えながら小さい声でなにか言ってるのが聞こえた。


                 

                  ー・・・けて。ー


                 

                  ー・・・けて。ー



                  ー・・・めて。ー



                  ー・・・めて。ー



声が小さくよく聞き取りづらかったが、ひたすらそんな言葉をつぶやいており、また愁然とした彼女の様子に俺は心配で見るに忍びない状態だった。多分こんな光景をみたら誰でも心配になると思う。


彼女の近くまでゆっくり歩き、俺は声をかける。


ー 大丈夫か? ー


彼女からの返事はなかった。


ー どうした? ー


俺がもう一度そう問いかけると、小さく返事が帰ってきた。


ー もう・・・てよ・・・ ー


やっぱり声が小さくて聞き取れなかった。


俺がどうしたもんかと悩んでいると、急に頭を抱えていた彼女の拳が強く握られたのがわかった。


すると次の瞬間顔を上げてこう呟く。




ー もう・・・やめてよ・・・ ー




俺は愕然とした。見上げられたその顔は、何時間泣き続けたらこうなるんだろうと思わされるような、そんな顔。


愁嘆し続けくしゃくしゃになったその顔に俺は見覚えがあった。


忘れる事などできない。


彼女の訴えは確実に俺に向けられた言葉。


その言葉は憎悪や恨みと言った憎しみの気持ちなどは感じられず、


ただただ、なぜ私だったのか。


なぜ私にあんな事をしたのか。


そんな、悲しみと苦しみしか込められてないような声だった。



そこで俺は目を覚ます。





全身に汗が流れており、息も荒くなっていて、夢だったということがすぐにわかった。


俺は震える拳を強く握り、睨むように顔をしかめた。



少し放心した後にあたりを見るとすっかり暗くなっていて、窓の外をみるとちょうど「東山高台まであと200m」と書いてある看板を見つけた。


「やっべえ・・・高台って確か山の頂上のとこだよな・・」


俺はそうぼやき、少し後にバスが止まった。


恐らく、この東山高台がこのバスの終着駅なんだと思う。


時間は7時。


このまま乗り続けていれば多分次は山を下ると思うので帰れると思う。


けどたまには寄り道して帰るのも悪くない。


それに気分転換もしたいと思っていたんだ。


そう思った俺はバスを降りると、まず真ん中に立ってるでかい木が目に入った。


ここに来るまでに歩道の脇に大きな木が何本も植えられていたが、それの比にならないほどのでかい木だった。


家も人気もないが綺麗に整備された場所で、並んだ街灯が明るく照らしていて怖い雰囲気でもなかった。


すると、奥の方に高台があるのがわかったので俺はその高台に歩みを進める。


その高台もやっぱり木でできたモノで、そこから見える景色は街が一望できるそんな場所。暗がりの街にライトアップしてる橋、明かりがついているスーパーや住宅街がそんな綺麗な景色を作っていた。


それに、たまに吹く心地の良い風が俺の気分を上げてくれて、すぐにこの場所が好きになった。


夜風にあたり、心地いい気分に浸りながら高台に設置されてる椅子に座り、街の景色ではなく夜空を見上げた。


俺はさっきの夢を思い出すかのように考える。




「なにやってんだろ俺。逃げるようにして地元から離れて・・・。」



絶対に逃げるべきじゃなかった。



言うべきはず言葉は、クラスのみんなへの別れの言葉なんかじゃなく、あの子への謝罪の言葉のはずだった。



なのに俺は逃げた。親の転勤を口実に。



その気になれば一人暮らしっていう選択肢も普通にあったんだ。



けど逃げたんだ。



そんな思いが俺の胸を痛めていた。



思い出したくないそんな思いが俺を襲う。嫌な思い出ほど思い出してしまうのはほんとにきつい。



そして俺はまた夜空を見上げ、



「ああああああああああああああ!!!!」



いまにも中から破裂しそうなそんな思いをぶちまけるかのように、声にならない声で俺は叫んだ。



近所迷惑とか、他の誰かに聞こえてないかとかそんな事一切考えずにひたすら叫んだ。



叫んで叫んで叫んで。


そうやって俺の中で溜まっていたモノを吐き出していった。。


多分この思いは、いままで俺がやってきてしまった俺への神からの罰だ。



これから一生こんな風に思いながら生きていかなきゃいけない。けれど、俺があの子にやってきたことに比べれば全然ましなはずだ。



すると次の瞬間、それは強い風が吹いたそんな瞬間だった。



「え・・・。」





後ろから呆気に取られたような細く高い声が聞こえた。



それを聞いて俺はすぐに後ろを振り向く。



そこに立っていたのは、地味な容姿の黒髪の女の子だった。
















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