1-2
俺がこの学校に来てからもう時期2週間経つ。
最初は机の周りに集まってきてたクラスメイト達も、時間と共にどんどん少なくなってきていて、そんな変化に切なさを感じながらも日々を過ごしていた。。
先生の帰りのホームルーム終了の号令が掛かった。やはり学校終了間際のこの時ばかりは少しテンションが高くなる。
すると前から声をかけられた。
「おい、賢一。昨日の数学のノート見せてもらってもいいか?」
「あ・・・あぁ、そういえば昨日一弘休んでたんだっけか」
この学校で初の友人でもある進藤一弘。
長身、坊主でメガネをかけてるそんな少し変わった、学年で一番頭のいいやつだった。
一弘は別に野球部でもないし柔道部でもない。と言うか部活には所属していない。帰り際にはジムに通ったり昼休みにはプロテインを飲んだりと筋肉馬鹿なのだ。
外見とは打って変わった内面でおもしろい奴だ。
ちなみにメガネを滅多に外さないので、メガネを外した顔を俺は知らない。
そして、席が前ということで最近では一番よく喋ってる友人でもある。別に性格に難があるわけじゃないし付き合いやすい男だ。
「そういえば賢一は何部にはいるんだ?帰宅部っていう選択肢もあるが。」
「んー。とりあえず文芸部でいいかなー。早く家に帰ってもやることないしな。」
「そうか・・・帰りに俺とジムに通うってのもあるんだぞ?」
「い、いやそれはいいや。ってかお前の盛り上がった腕の筋肉見せつけなくていいから!」
「残念だなあ? お前となら仲のいい筋友になれたと思ったのになあ?」
「腹筋見せても変わらんぞ!ってか筋友ってなんだよ!」
一弘のおもしろいところは、成績優秀でクラスの委員長という模範的生徒の上にジムに行って体も鍛えているという所だ。
俺も昔は色々あって体を鍛えていたが、単純な筋肉量なら一弘に及ばないほどだった。
「けんにー!」」
すると突然廊下からした女の子らしい高い声が教室内に響いた。
いきなりそんな呼び方で大声を出すものだから、一弘はもちろんクラスの中でざわつきが起こっている。
恐らくどんなヒソヒソ話をしているのかは大体予想はついた。断じて俺がそう呼ばせてるわけでもないし妹がいるわけでもない。
「っふ。お前もなかなかの食わせ物だな。俺との話はいい。行ってやれ」
なにか絶対に勘違いしてるなこいつ。
苦笑しながら俺は、一弘との話を中断させて席を立ち廊下に向かう。、
廊下につくまでに周りからの熱い視線やチクチクとした視線が刺さってきたが全て無視した。
「おい冬。流石に学校でけんにーはやばいだろ・・・せめて賢一にしろよ・・・」
「けんにーはけんにーでしょ?今更呼び名変えるのめんどいよー。」
冬は膨れっ面になりながら、意地悪そうに言った。
「ふーちゃんどうしたの?」
「けんにーうっさい。」
年下にいじられるのは少し不満な気がしたので、わざと声を高くして昔の呼び名で呼んでやると、顔を赤くして腹に一発パンチが飛んできた。理不尽だ。
「うぐぐ・・・・で、で用事はなんだよ?」
ズキズキと痛みを訴える腹をさすりながら問いかけた。
「あ、そうだ!今日は私、ちょっと中学の頃のクラス会で遅くなるからおばあちゃんに言っといて!」
「ばあちゃん携帯持ってないんだっけか。おーけー。」
「じゃあ!けんにーまたねー。」
そう言うなり冬は慌ただしく廊下を走り出して俺の前から去っていった。
その後は俺も用事があった。今日は文芸部に入るために、この一つ上の階の文芸部室に用事があった。
「ここ・・・だよな?」
綺麗な校舎には似合わない古く錆びてる扉に紙が貼られていて、そこにマジックペンで「文ゲイ部」と書いてあった。
明らかにおかしい。いや絶対おかしい。なにがおかしいって「ゲイ」の部分だけピンク色で書かれているあたりほんとにやばい臭いがする。
「ゲ・・・、ゲ・・・?」
「おい、入部希望者か?」
俺が部室?の前であたふたしていると後ろから急に女性の声がした。
「え、あ、いや・・・えっと・・・。」
そう言いながら後ろを振り返ると片手に一冊の小さな小説本を握り締めた155cmほどの高さの女の子が立っていた。俺の身長が大体180cmほどあるので少し見上げる形で俺を見ている。
背中まである細いサイドポニーに顎の所まで伸びる横髪。巷では触覚とも呼ばれていた気がするな。
アッシュブラウンに染まっている髪色が特徴で、赤縁メガネをかけた如何にも文芸部向きな女の子だ。
しかし、青く澄んだ瞳に少しつり上がった目尻が少し強気な少女の雰囲気を漂わせる。
横目で部室を見ながら俺は焦っていると、その声の主は怪訝そうな顔つきから何か閃いたかのように顔を輝かせて俺に近寄ってきた。
「ま、まさか!にゅ、入部希望者か!!」
「あ、え、いや・・・。」
「うれしいぞ!!!うれしいよ!!!」
キャラが安定していない所と急激な表情の変化をを察するに、、すごい喜んでいるんだろうという事がすぐわかった。
「え、えっと文芸部・・・ですか?」
「そのとおり!文・ゲイ・部だ・・・」
頬を少し赤らめがながら彼女はふざけたように言う。
「なるほど。それでは俺はここいらへんで!」
危険を察知したので走って逃げようとすると袖を両手で掴まれた。
「じょ、冗談だよ!こ、ここは文芸部だ!」
「で、でも文・・・なんとか部って書いてありましたし・・・少し怖いんでー・・・」
俺が棒読みでそう言うと、
「ま、まあ落ち着いて・・・まずは部室に入ってお話をしよう!」
必死に瞳をうるうるさせて俺を引きとめようとしてくる。
それから彼女のしつこい説得に折れ部室にお邪魔することになった。
*
「で、なんであんな気持ち悪い部活名に変えちゃったんすか・・・」
古風な部屋で如何にも歴史がありそうな感じがする部屋だった。
狭い部屋に縦長テーブルが横に二つ並んでいてイスが4つあり、俺はそこの一つに腰掛けて彼女を問いただす。
「君みたいなイイ男がくるかもしれないからね!」
「俺、帰りますよ。」
「ごめ、ごめんごめん!冗談だよ冗談!実はー」
なんか色々無駄話を混ぜ込んできたが、要は新入部員獲得のためにインパクトのある名前にしようとして勝手に部室の名前をアレにしたらしい。
普通の人間だったら確実に逆効果ってことくらいわかるだろ。
「そういえばその上靴、同級生・・・だよね?」
この学校は一年生が赤色 二年生が青色 三年生が緑色と色が決まっている。
俺たちは二年生なので青色だ。
「うむ。私の名前は菊池千由だ!今日からよろしく!」
「よろしくおねが・・・って俺まだ入るって・・・」
俺が腑に落ちないような顔をして千由を見ると、千由は満面な笑顔で手を伸ばしていた。
開いた窓から流れてくる春の少し暖かい風が、千由を揺らす。
なびいた髪を止める仕草や千由が作る笑顔。そんな一つ一つがとても綺麗だった。
嬉しそうな顔をしたと思いきや悲しい顔を急にしだす。そんな喜怒哀楽の激しいちょっぴり面白い少女だった。
そして面白い少女だと思いきやこんな綺麗な一面も見せてくる。
色々と不思議な少女だった。
「千由っておもしろいね。」
俺もヤレヤレと言った表情で千由の手をとった。