続続29話 青龍です。<ぶちのめす!>
「はぁ・・・緊張する・・・します」
ミシルが復帰した日は丁度魔法実習の時間があり、病み上がりの彼女も私と見学に。
やった!やっとぼっち脱却だよ!
一時的なのはこの際置いておく。
ミシル自身は魔法を使った事がないらしい。
なので放課後に学園長立ち合いのもと個別実習になる。もちろんそれには私も参加。
イメージを作るために他の子の魔法を見学。
は~! 一人じゃないっていいな! 刺繍しないっていいな!
「わー、本当に魔法だ・・・ですね」
私には敬語禁止!をお願いしたけど、他の貴族の手前、第三者がいる場合は基本敬語でなくてはならない。
まあ使えるようになって損はないのでルルーとも練習してもらっていた。
が。私とは慣れたのか、口調が砕ける。
自分で言うのも何だけど、私は田舎臭いのを隠そうともしないからね! 敬語なんて出ないよね。
言い直すのが微笑ましい。頑張ってる~。
「魔法は想像することが大事ですから、しっかりとご覧になって」
なので、私も頑張ってお嬢様言葉を使う。
「はい」
昨日のうちに練習をしたのでお互いに笑う事もない。いや、口許が微妙に動いてるな。私もむずがゆい!でも我慢!
別な意味で辛いけど二人だから楽しい。
クラスメイトの魔法を見ながら、最初はあの男子くらいの大きさの火をイメージしましょうとか、もちろん何も起きなくても練習を重ねるうちに出るようになりますとか、何でもないような事を説明する。
誰かが魔法を使う度、ミシルの目が見開く。私の声が聞こえているのかあやしいが、一所懸命に頷く姿にほのぼのとしてしまう。
自分の知らない事を学ぼうとする姿は好感が持てる。
素直で真面目。
でも、自分が納得するまで観察してから、だ。
ほんと胃袋を掴むって大事だわ~。
それができれば半分は攻略済み。今までの経験則だ。
残りは・・・残りは何だ?
皆は何となく優しいから、私の周りはたまたま優しい人が集まっただけかな? うわ、後の半分て何だろ!?
力づく? まあ、亀様に盗賊たちやシロウクロウにはそうだと言い切れるな~。白虎に関してはサリオンの可愛さよね!
財力で? って言うほどのものも無いんだけど・・・あ、遊具か、あれは財力だよね。
・・・・・・もしかしてとても運が良いだけ?
だ、誰に感謝すれば良いの!? どこの神様!? 太陽!? 亀様!? 私に運を集めてくれた何か!ありがとう!!
運のある内に領地を磐石なものにしなきゃ!
「うわあっ!?」
イヤミ坊っちゃんの安定の暴発。
ああやって驚いたフリをするけど、先生が他の子に付いてる時にやってんのはバレてんだよ。だいたいこっちを見ているし。
暴発した火球がこっちに飛んで来たのをいつもなら手で握り潰すけど、今日はミシルがいるので三メートル先でガード。
途中で潰れるようにして消えた火球を、慌てないで見られるようになれば避けるだけで済む事もできるとミシルにアドバイス。
まあ、腕輪に仕込んだ亀様ガードがあるので、ミシルに当たったとしてもケガはしないけどね。
しかし、よくまあ毎度狙ってくるもんだ。他の平民の子たちにはしないし、逆に構ってくれてるのかと放っておいたけど、ミシルがいても変わらないとは・・・そろそろシメるか?
「きゃあっ!!」
こっちのイヤミお嬢ちゃんも懲りずによくやるよ。ノーコンと烙印を押されてまで私を水浸しにしてどうするんだろ?
迫る水にミシルが私の袖をギュッと握りしめる。あ!水はまだ駄目か!
慌てて水流を消す。
「ごめん!もう大丈夫だよ」
「う、うん、ごめん、びっくりした」
震える手を失礼しました!と慌てて離した。
それを私が握る。
「ごめんなさい、配慮が足りなかったわ。絶対守るからね」
しっかりと目を見て伝えると、微かに笑うミシル。
「うん。・・・お嬢に守るって言われると、とても安心する」
その証拠というようにミシルの手の震えが止まった。
うわ、嬉しい・・・
《オ前ヲ守ッテイルノハ、我ダ》
ミシルの口から低い声が出た。
ミシルの目が不安に揺らめいたと思ったら、白目をむいた。
握り合っていた手からガクンと力が抜ける。
ドン!!
ミシルから突風が吹き、吹っ飛ばされた。
地面を転がりながら他の生徒の所に防護結界を張ったが、威力が半分も抑えられなかった。亀様の防護があるので大惨事ではなかったけど、ほとんどの生徒が逆側の壁に軽くぶつかったようだ。
バキン!
ミシルの腕輪が折れた。マジか。ミシルの足下に欠片が落ちる。
「お嬢!」
鍛練場の外で待機していたマークとルルーが駆け寄って来る。
同時にミシルの周りに薄黒い霧が発生。そしてミシルをゆるゆると取り巻いている。
それが、どんどんと黒くなる。
《出るぞ!》
亀様が言う。
まだまだ太らせてからの予定だったのに! ゆっくりと地面に倒れていくミシルに近付けない。
ミシルの体のどこにこんなに隠れていたのかというくらいに鍛練場の空を覆いつくした黒い靄。それがゆっくりゆっくりと集約されて、細長い形になった。
《我が巫女に手を出そうとは・・・》
地を這うような低い声に、何とか意識を保とうと踏ん張っていた生徒たちの何人かが気絶した。
《その命、無いと思え!!》
七つの玉を集めると現れるあの龍の様な姿が、鍛練場の空いっぱいに現れた。緑、碧、青と煌めく鱗が美しいが、その目は赤黒く染まり、怒りのオーラが圧縮された風となって生徒に叩きつけられる。
《青龍か》
その竜巻のようなものを空にかわした亀様が断言した。生徒たちには当たっていない。
その代わりに、パリン、パリンと、学園長の結界が壊れていく。
「青龍!?・・・あれが、あんなのがミシルに憑いていたの・・・」
「・・・いやホント勘弁して欲しいわ~・・・ルルー、逃げ道無さそうだから気をつけてな」
「マークこそ。・・・ここからじゃ、ミシルを捕まえるのに鞭も届かないわ」
なんか余裕のある会話が聞こえた。でも二人とも真っ青な顔をしてる。
「ちょっと、無茶はしないでよ二人とも?」
「お嬢に付いてて無茶をしないって無理だろ」
「生徒はほぼ気絶しましたよ。教師も圧倒されて動けなさそうです。まあ、私もですけど」
『お嬢!すまぬ! 結界の維持固定にしばし掛かる! 今そこで何が起きとるのじゃ?』
「学園長!そっちは皆無事? こっちはミシルから青龍が出たわ」
『青龍!? 四神の!?』
「亀様がそう言ったから間違いない」
『くっ!こちらは生徒も教師も怪我はない!避難を開始しておる! お前たちも逃げるんじゃ!』
「落ち着いて。四神ならなおさら結界の強化を。とりあえず上は無くてもいいから横への被害が広がらないようにお願い。大丈夫、こっちには亀様もいる。まずは他の生徒の完全避難を」
『くぅっ!すまぬ!』
《何を、こそこそと、しておるのだ・・・》
青龍が私たちを見た。
立ち上がる私のちょっと前にマークが立つが、それを引いて前に出る。
青龍が喋っているなら、こっちの話も聞いてくれる?
「あなたと、話をしようと思って」
《話?・・・何を?》
よし、返事してくれた。
「ミシルを助けるために」
《ミシル?》
「あなたが取り憑いていた女の子よ」
《知らぬ。我が望む者は、ノエルのみ》
「ノエル? それは誰?」
《この娘だ》
青龍の目線の先には倒れたミシルしかいない。
「違うわ。その子はミシルよ」
《ノエルだ! 一度は天寿を全うして死んだが、再び我の元に戻ったのだ!》
はあ?天寿を全う!? 生まれ変わりって事?
でも、そんなのミシルはわかっていない。
「例えそうだとしても、その娘は何も知らないわ。今生はその子のものよ?」
《うるさい!! もう我は騙されぬ! 眠りになどつかぬ! ずっとずっとノエルと共に居るのだ!》
いやいやいやいや、ちょっと待てよ。
仮に生まれ変わったのだとしても、泣かしてまで取り憑く事が良いわけない。
ミシルが寂しい思いをしたのは、コイツの我が儘が原因か?
・・・沸々と怒りがわいて来た。
「・・・こンの、ボケ龍がぁ・・・」
《何!?》
「本命間違えてる上に駄々こねてんじゃねぇよ!! 子供を、女の子一人あんなにボロボロにしやがって!! やっぱりぶちのめす!!」




