29話 青龍です。
「おらおら!どうしたーっ! 騎士科の授業で何を習ってんだよっ!」
「くっそ! また一段と速くなりやがって! 腹立つっ!」
タイトとマークが久しぶりにと木剣で打ち合っている。
・・・アレだけ動いているのによくまあ喋れるもんだ。
「お嬢~、良い感じか教えてくれ~ぃ」
下から土木班親方が声を張る。
私は食堂になる建物の二階部分にいて、ここから見える庭部分のチェック。大きな窓を付けたいので、どうせならちょっと良い感じに庭も見せたい。
まだ骨組みだけの床に板を渡しただけの所をてくてく歩いてみたけど、可愛いらしい花壇がアチコチ見える。うん、OK。親方に向かって両手で大きな丸を作った。
バキン!!
「っしゃあっ!! 勝ったっ!!」「あああああっ!?俺の剣がぁ!?・・・こンの馬鹿力マー君がっ!!」「その呼び方止めろよな!?タイトン!!」「ほほぅ、ちょっと会わねぇ間に調子に乗るようになったじゃねぇか、ぶっ飛ばす!!」「お前のそういう雑な言葉使いのせいでお嬢がケンカ上等になっちまったろうが!!」「うるせえ!お嬢の雑さはどう考えたって生まれつきだろうが! それでも止めるのがお前の仕事だろう!!」「止める隙が目の前で潰されていくんだぞ!どこも掴めねぇよ! じゃあ次はお前を呼ぶからな!手伝えよ!」「絶対嫌だ! めんどくせぇ! お嬢を止めるくらいならクラウスさんに飛びかかって殴られた方がマシだ!」
・・・・・・えっと、コイツらどうしてやろうかしら・・・
グラントリー親方と他の土木班員は笑ってるし。
まあ、たまのじゃれあいだから聞かない事にし「並べてみろ!アンディの方がよっぽど女子力高いわ!!」
ぶっ飛ばすっ!!
「わあ、お嬢の周りは賑やかな人が多いね? 漁師も荒い人が多かったけど」
おっととそうだった。ミシルも一緒に来ました。
ルルーが手入れをしたピンクブロンドが前よりもきらめいている。亀様腕輪を今度は私の血で作り、二個つけしてもらっての外出。
リハビリついでにと一緒に王都屋敷の改築の様子を見に来たのさ~。亀様転移で。
呼び名も「お嬢で!」と強制的にお願いした。
屋敷を解体してみたら意外と敷地があり、腐っても貴族だったんだな~と改めて認識。敷地面積って数字で見たってわからないわ~。
とりあえずの予定としては、小規模二階建てのアイスクリーム専門店で出してみることにした。一応増築の見込みあり。
ハンクさんたち料理班と、キム親方率いる鍛冶班はコーン部分と新たな道具の製作中。これは、立ったまま食べられるようにするのと、洗い物を減らしたいため。コーンには我が領のわら半紙を巻く。
一階はテイクアウトのみ。平民向け。その奥は二階のためのキッチンが占める。
二階は喫茶店の装いで、器にフルーツなんかと一緒に盛るタイプ。貴族向け。
一階と二階は出入り口を別にしてみた。なので、二階用入口前にはロータリーと、馬車止め?駐車場みたいに造る。
なかなか階級の問題は根深いので少しずつ対処していくことに。
後は定休日を設けて、その日は希望した学生を招いて試食会(という名のお茶会)をする予定。いつまでも寮の食堂を使えないもんね~。もちろん寮の食堂職員も参加。彼らのは休憩時間に合うようにしないと。
「こんな大きな建物の作ってる所が見られるなんて嬉しい。凄いね。連れて来てくれてありがとうお嬢」
微かに笑うミシル。少しずつ打ち解けてくれて感じたのは大人しいなということ。あれ?もしかして天真爛漫じゃない?
・・・人見知りでもなさそうなんだけど、なんか想像してたのと違う。
まあ可愛いけど。
にへら。
「マーク!お嬢のなけなしの女子力どこで落とした!?見ろあの顔!?」「俺に言うな!?あれでもルルーだって頑張ってンだよ!」
・・・お前らホントいい加減にしろよっ!?
***
「ああ、タイトも来てたんだ。だからマークに青タンができてるんだね? 会いたかったな」
「ふん。タイトにもお揃いの青タンを作ってやったわ、仲良くね!」
「ははっ、容赦ないな」
「ふん! あ、次に行く時はアンディも一緒よ? 親方もアンディに見て欲しいって。明後日の放課後なんだけど、どう?」
「わかった。教室に迎えに行くよ」
「え、いいの?」
「明後日は授業が一コマ少ないから丁度良かった。制服のままで?」
「うん制服で行こう。あ~あ、良いなぁ少ないの。授業が暇で困ってるのよね~。刺繍も上達しないし」
「上達してるよ?」
「そお?・・・まあ、チマチマとね・・・アンディの卒業前にハンカチくらいは贈りたい! そしてあの虹という七色の直線を回収するのよ!」
「返さないよ」
「え!? あの保存袋を回収すべく今頑張っているのに!」
「もう僕のだからね、絶対返さない。でも新しいのはいつでも受け取るよ。楽しみだな」
「うわっ、圧力!」
パンパン!と手を叩く音がする。
「お二人とも今はダンスの練習です。お話は後になさって。でも表情は良いですわ。続けて」
そこにはエリザベス姫が立っている。張りつけた笑顔は褒められた!
皆ズルい・・・私も構って下さいませ・・・
との要請に、本日は慌てて貴族寮のダンス室にお邪魔しております。暇な私とマークだけ。ルルーはミシルに新しい刺繍の技を教えるために免除してもらった。
エリザベス姫も変わらず美人だ。潤い潤い。
アンディの護衛四人と、姫の護衛女子四人もダンスに付き合わされている。狭いフロアで綺麗に避ける練習だとか。マークは手拍子係。
皆は貴族なので素敵に踊る。ちょっとずれるのは私だけ。まあそれをアンディが上手くリードしてくれている。さすがですな。
でもどうやって保存袋を回収しよう・・・うぅむ。
姫の自主勉の時間が近づいたのでダンスの練習を終了。姫の侍女たちが淹れてくれたお茶を飲みながらお喋りタイム。
「食堂を?」
「はい。平民区画に合わせた大きさにします」
「あら、平民用のお店? 私たちは入れないのかしら?」
「まさか。ドロードラングのお店ですよ。誰でも使えるようにしますとも。でも貴族用には二階にテーブル席を設けます。それについての意見をアンディにもらおうと思っています」
「そういう事ですの。私も一緒に行きたいけれど、侍女科は試験前なのよ。開店後は必ず行くわね」
「ありがとうございます」
エリザベス姫は魔力が弱く、魔法科に入らなかったそうだ。素質は辛うじてあるが、クラスメイトも教師もやり辛かろうと言う学園長の助言に従った。本人も魔法についてはそれで納得している。
が、根が真面目な彼女は学科については学年トップだ。ぶっちぎり。
「先生に恥をかかせたくありませんもの・・・」だって。
ふっ、どの先生の事かなぁ。可愛えのぉ。
・・・ていうか何でダンスだったのか。お茶だけで良いのに。まあ、久しぶりのダンスだったから楽しかったけど。
何だかアンディの身長の伸びを感じる。まだヒョロっとしてるけどやっぱり成長期なんだな。




