続続続26話 入学です。<だから>
そうして翌日。
朝からミシルに突撃してるのだけど、「行きません」「一人でします」「寄らないで」等々、全敗です。
え?ご飯?もちろんマークとルルーと三人で一般の時間に一般のメニューを食べて参りました。コッペパンにオムレツとベーコンと野菜を挟んだサンドイッチ?でした。それに牛乳、オレンジジュース、リンゴ。マークはお代わり。
ミシルは朝も自炊してるのか、食堂に現れなかった。
魔法科の初授業は自己紹介だけで終わりで、後はクラス毎の校内の見学。
「一緒「嫌です」
早い! そしてとうとう「嫌」と言われてしまった・・・くっ。
《ふむ。人とも会話が可能だな。穏やかな気配になる時がある》
ということは?
《話し合いで解決出来るかも知れん》
・・・うん。さてどこから攻略出来るかな~?
「あなたたち、静かにして下さらないかしら?」
「そうだ。先程からうるさいぞ」
「辺境と聞いたこともない国の田舎者同士、気の合うことで何よりだが黙れ」
貴族様のお子様たちが徒党を組んで私と向かい合う。
・・・あらあらあらら。列の先頭では引率の担任が青い顔で私を見ている。あれまあ。
「あら申し訳ございません。なにぶんこの様な豪華な建築物を見ることがありませんので、ついはしゃいでしまいました。お許し下さい」
そうして淑女の笑みで礼をすると、フン!と口々に言って担任の近くに戻って行った。
・・・良かった。唾でも吐かれたらぶん殴るところだったわ。
担任の魔法使いは副担二人と合わせて三人。さらに補助が二人付いて計五人。三十人クラスに教師が五人! スゴくない?
まあ、実技に合わせての人数なんだけど、一年生の前半は、二年生と三年生の補助の教師もプラスされるらしい。教師一人に付き、三人から四人の生徒が見てもらえるとか、スゴくない!?
ただし、二年生と三年生で強力な魔法の実習なんかには、一年生の副担までが駆り出されるらしいので、その日生徒は大人しく学科をこなすそう。ま、安全は大事よね。
なので、校内見学のために細長い列になってはいるけど、私の傍にも教師が一人付いている。本当は教師が最後尾になるはずなんだけど、ミシルが頑として譲らない上に近寄るなと言う。
困りましたねとその教師と私でお喋りしてたのを、先頭グループにいたお貴族様のお子様がうるさいと言う。
はいすみません。だって担任の声が聞こえないんだも~ん。私が聞こえないなら、さらに後ろにいるミシルには何も聞こえないよね? 傍に先生がいるなら校舎の事を確認するよね~?
クラスの半分が私を含め貴族で、商家から三人、後は平民。貴族のお子たちにはお付きがガッツリ付いている。
この順に並んでいるので、担任の声が聞こえず姿も見えず、平民の子がおろおろとしているのが見える。
だからちょっと大きめな声で教師と喋って、ミシルにもいちいち聞こえたかの確認をしてました。
お貴族様が戻ると隣を歩く教師がすみませんと頭を下げる。すぐ前にいる子たちもこちらを心配そうにチラチラと見る。
いいええ私地声が大きいので~と笑ったら、ホッとした顔になった。マークがそっと噴いた。
「だから私の事は放っておいて」
ミシルが私の二メートル後ろで呟いた。おお!?びっくりしたー!
「そんな餓死寸前の姿で放って置けるわけないでしょう。でもありがと。あの人たちの言葉なんて気にもならないわ」
ミシルの眉毛がちょっと上がった気がした。そしてそのまままた距離を取る。むぅ、せっかくミシルから寄って来たのに。
「だから」って言ったのは私を気遣ってくれたんじゃないかな・・・?
「うっ!?」
振り返るとミシルが胸を押さえて蹲る。え!?どうした!? 蹲る程苦しい時があるの!? 床に額を付けてゼハゼハと言うミシルに慌てて近寄り体に触れる。
バチンッ!!
火花が散ったような音がし、壁や廊下にザックリとした傷がいくつか出来た。「お嬢!」とマークとルルーが駆け寄る。大丈夫当たってない!
と。ミシルがゴポリと血を吐いた。
ええっ!?
「・・・さわ、ら・・・ない・・・で・・・」
そうしてヨロヨロと立ち上がる。
「ミシル!? 無理よ! 動いちゃ駄目!」
強引に抱き寄せる。軽い!? 想像以上に軽い体。
また火花が鳴らない事にホッとして、治癒魔法を掛ける。
「やめて・・・わた、し、・・・しな、ないか、ら「無理!」
私のスカーフを外してミシルの口を拭く。ついでに口の中を確認。異物無し。
ミシルの魔物が邪魔をするのか全然治癒が進まない。こんの~!
《サレスティア》
治癒魔法を増幅させ力づくで回復させようとしたのを亀様からのストップが入る。
・・・ふ~。焦らない焦らない。無理矢理やってしまえばガリガリのミシルの方が壊れてしまう。治癒は体の治す力だ。強すぎてはいけないと習ったよ。どこかに絶対隙間がある。
「ふ、く、・・・よご「黙って。大人しく抱っこされてなさい」
離れようと私を押し退ける力が更に弱まり、ミシルの目が虚ろになっていく。なのにミシルの魔力が収まらない。
うぅ、亀様!!
《任せろ》
一瞬、亀様の魔力が膨れ上がる。ミシルの物よりずっと強大に感じた。それに反応したのか一瞬だけミシルの魔力が大人しくなった。
よし!見っけ!
ミシルに続く隙間に私の魔力を混ぜた治癒魔法を注ぐ。
ミシルの荒かった呼吸が徐々に、徐々に穏やかに変わる。
「何事じゃ!?」
学園長が転移して来て、私たちを見てすぐに簡易結界を張り、そのまま保健室に転移で連れて行ってくれた。
常駐の学園医はおばちゃんで、直ぐにミシルの状態を見て、血だらけの制服を脱がし、体に付いた血も拭き取り、病院にあるような寝巻きを着せてベッドに寝かした。私も一番汚れたブレザーを脱ぎ、それに血を拭ったスカーフを巻き込み放り投げておばちゃんを手伝う。
その間学園長は治癒魔法を使える女の教師を迎えに行ってくれた。
脈を診て、熱を計る。
「学園長から話は聞いていたけど、こんなに早く保健室に運ばれるとは思ってなかったわ~。私は魔法を使えないのだけど、魔物はどうなってるのか、あなたわかる?」
「今は一時的に大人しくなっているだけだそうです」
おばちゃんはミシルの左腕で脈をとりながら、「一時的か、困ったねぇ」と気の毒そうにミシルのおでこを撫でる。私はミシルの右手を握って治癒魔法を続ける。
「あなた、この子と仲良し?」
「いえ、取りつく島もなくて、どう攻略しようかと思ってるところです」
おばちゃんはちょっと微笑んだ。
「そう。あなたがそうなら、他にはいないのね・・・ねえ、この子の食事をしている姿は見たことある?」
「いえ。食事は自室でしているようでしたが・・・この様子ではろくに食べてないですね」
治癒のせいか、顔色は赤みがかってきた。
口が微かに動く。空気が微かにもれる。
ミシルの閉じた瞼から、涙が一粒こぼれた。
「おか、さ、ん・・・にげて、」
おばちゃんと、顔を見合わせた。
お疲れさまでした。
あまりの恋愛要素の無さに、ちょろっとだけアンディとルルーに協力してもらいました…乙女ゲームのキャッキャうふふ(σ≧▽≦)σ(/▽\)♪て何ですかね…(遠い目)
二話も使って二日しか進んでないとは…12才は一体何話になるのか…(~_~;)
いや!端折っていきましょう!
ではまた次回、お会いできますように。




