続26話 入学です。<手合わせ>
一人で納得していたら、
「当たり。よくわかったね?」
アンディが驚いてもニコニコとしてる。
「うん。ドロードラングに来てくれた人は何となく覚えているよ。立ち姿がそっくりだね~。男子だからか顔付きも似てる。え~と、お父様方にもお世話になっております」
主に国王がだけどな! 初めて来た時は皆さん大変だったよね・・・懐かしい。雪合戦もお疲れさまでした!
「あ、いえ! その節は父がお世話になりました」
ウォル・スミール君が代表で発した。他の三人もキチッと礼をしてくれる。おお。
「あ、あの、我が家では最近『歯ブラシ』を使っています」
ロナック・ラミエリ君がうっすらと頬を染めて言う。歯ブラシ!あざーす!
「我が家では石鹸と匂い袋が、母や姉たちのお気に入りです。・・・あと、お菓子も、です・・・」
ヨジス・ヤッガー君が睨みつけながらもじもじと可愛い事を言ってくれる。どんな属性!? 目付きがもったいないな~。
「あの!剣聖との手合わせは!お願いできませんか!」
モーガン・ムスチス君がビシッ!と直立した。
その台詞に他の三人がギョッとする。
「いいですよ。でも侍従長は忙しいのでとりあえずの目安として、私を負かしてからの交渉になりますが」
マークが私を飛び越えて答えた。・・・まあどうせマークに聞くけどさ。
「そういう事で宜しければお受け致します」
そう許可を出した。・・・後でクラウスに確認しよう。
ムスチス君が拍子抜けしたような顔をしている。あれ?
「で、でも、あの、あなたは、あの、強いのですか?」
恐る恐る聞いてくる。ああ。
「田舎騎士ですがそこそこの腕だと思いますわ」
「・・・お嬢様、それフォローですか?」
王の外遊時のお付きは護衛騎士だ。騎士だけど侍従の役割もこなす。アンディの侍従たちは見た感じマークより年下みたいだけど、基本は騎士なのだろう。やっぱ剣聖には憧れるかい?少年たち。
「アンドレイ様。この後彼と手合わせしてもよろしいでしょうか?」
さっそくとばかりにアンディに聞くムスチス君。
「いいよ。予定が無いから校舎の案内をしようと思ってお嬢を誘いに来たんだ。僕も二人の手合わせは見たいな。僕は剣ではどちらにも勝てないからね。
ただし、今日は午後から入学式だということを忘れないで」
マークがこちらでどの程度通用するかを知るチャンスだし、私はOKよーと頷いたらマークが「あ」と言った。
・・・入学式忘れてたろ?
明後日の方向を見るマークをルルーとジト目で見てみた。
その様子をアンディが笑って見てた。
一般人は片付けもする。洗い物置き場に食器を戻す時に「美味しかったです!」と三人で声を掛ける。
たとえ少人数だろうと直接言われるのは嬉しいかなと思って。本当に美味しかったし。
弟の部活仲間に初めて言われた時は思わず涙が出てしまったなぁ。次からはもっと気合いを入れて作ったっけ。
あ、夕べはハンクさん作のお弁当を四人で食べました。しばらく食べさせられないからと持たされた。領地の母の味は最高です!
ええ、学園長も一緒に食べたので四人でした。
「ど、どういたしまして・・・」
一番近くにいた料理人が呆然とした顔で答えた。マークが「昼もよろしく~」と手を振ったら何人かが振り返してくれた。お、案外ノリがいいかも。
「えぇと、使うものはお互いに剣でいいね?」
急きょ借りた鍛練場は寮に併設されているものだった。熱心な生徒は寮でも練習するらしい。屋内用も屋外用も市民体育館くらいの広さがある。ちなみに屋内用はダンスの練習もできるらしい。おおぅ・・・
私らが今いるのは屋外用なので日は照りつけ地面がむき出し。だけど長年踏み固められて隅っこにしか雑草が生えていない。
審判というか開始の合図はアンディがすることに。
マークとムスチス君は、鍛練場備え付けの練習用の刃の潰された(斬れない)剣を持っている。
それぞれに準備運動を終え、向かい合って構える。
それを確認してアンディが「始め!」と言った瞬間に、ムスチス君が飛び込んだ。
ガキイィィンン! ・・・ザクッ!
そして私の足下に折れた剣先が刺さった・・・・・・
「コラーーーッ!! 危ないでしょうが!! 何上手いこと私を狙ってんの!!」
「わぁごめんお嬢剣折れちゃった~。皆の場所は防護魔法掛けてたから大丈夫っしょ? ごめんて」
「軽い! 借りた剣を壊した反省をしろーーっ!?」
「そっち!?」
マークとの言い合いに呆然とする四人。ムスチス君は折れた剣を持って動きが固まったままだ。
「どうする? もう一回やる?」
のほほんとアンディが声を掛ける。
「あ、あの! 次は私と手合わせ願えますか?」
ウォル・スミール君が手を上げる。マークはいいよ~と手招きする。
そしてアンディの合図で動いたと思ったら、また私の足下に剣が刺さった。
「コラーーーッ!!!」
「今度は折ってないだろ!」
「危ないって言ってんでしょうが!!!」
あの、と、今度はロナック・ラミエリ君が手を上げる。
そして、合図と共に剣ごとラミエリ君が飛んで来た。それを風魔法で受け止める。
「・・・・・・まぁぁくぅ??」
「剣だけだと危ないんだろ?」
「意味が全くわからないのだけど!?」
四人の中で一番小柄なヨジス・ヤッガー君も手を上げる。ヤッガー君は練習用武器庫からナイフを持って来た。
そして、開始。
ヤッガー君は間合いを詰めるのが上手く、マークが手こずっている様に見えていたが、あっさり剣を手放したマークに逆に懐に入られ、手刀でナイフを落とされ、綺麗に背負い投げをされ、やっぱりこちらに飛んで来た。その技普通は飛んで来ないからね!?
もちろん風魔法で受け止める。
そして私が文句を言う前に、ショックから立ち直ったらしいムスチス君が「今一度!」と今度は体術でマークに向かって行ってこちらに飛ばされてきた。
そして四人がまた一回り。・・・なんだこれ?
「アンドレイ様、お嬢様、空気クッションを作っておいて私たちはお茶にしましょう」
とルルーが言った。
それ、採・用!




