続続25話 ゲットです。<入寮>
魔法学園アーライル
正式名はアーライル国立学園。
魔法科(男女)、騎士科(男)、文官科(男)、侍女科(女)がある。
12才の春に入学をし、15才の春に卒業(お付きの年齢は問わない)するのが基本。成績によっては飛び級もあるし、留年もある。
魔力のある者はどんな些細な魔力でも最初の一年は魔法科に属する。その後は転科が可。
騎士科は貴族が多いが平民からも募集している。身分で既に隊での位が決まる傾向にはある。
文官科。こちらも貴族が多いが商家の子供たちも多い。侍従の事も学ぶので、平民からも募集はしている。
侍女科。文官科に同じ。ただし女子に限る。
「は~! 寮もとんでもない大きさね~!」
どこの宮殿だ!?という造りの学園寮を見上げ、ルルーはしていないが私とマークはアホ面を晒した。
通り過ぎる人たちが田舎者を笑って行く。家紋の入った馬車や商家の馬車が寮の門を過ぎて行くのを横目で見送りながら、荷物と言えば保存リュック一つずつの私たちはしばらく立ち尽くしていた。
「・・・馬車が多いと人が通れないって、どうなってんの?」
「まあ、歩いて来るような貧乏人は待ってろって事じゃないですか?」
「勝手に出入り口を増設しないで下さいね。安全面の事はまずは学園長にお願いしてみましょうね?」
ルルーの笑顔に半目で門を眺めていた私たちは背筋を伸ばした。はいっ!
さっきからそれぞれに同じ家紋の馬車が三台から五台ずつ続いて行く。
「・・・あれってさ、三年分の衣装でも詰まってんの?」
「・・・さあ? 貴族様の考える事なんてわからないですよ」
「私も貴族だっての」
「もっとわからない!!」
「ちょっと!? どんだけ力強く言うのよ! 何年付き添ってんの!?」
「七年目ですけど完全には無理ですね」
「ルルーまでっ!?」
半分本気で落ち込むと冗談ですよと二人が笑う。・・・何この夫婦、仲良しねっ!!!
「おお~い! そんな所で何をしとる?」
門の前から見える寮の玄関で学園長が手を振っていた。
「門を通れなくて立ち往生してる所ですー!」
「転移すれば良かろうに」
「魔法を使えない人に厳しい! 横暴だ! フゴッ!」
「馬車が途切れたら入れますからもう少し我慢します。お嬢、学園内及び周辺では礼節をもって行動、発言をして下さいよ」
マークが私の口を手で塞ぎ、学園長にそう言った後に私に注意する。あぁそうだったそうだった。礼儀正しくね。
まあ、今日は入寮日であって入学式は明日だ。時間はまだまだ余裕がある。
・・・まさか。明日まで続かないよね・・・?
「明日まで途切れんぞ~」
まじか!?
門の方に歩いて来た学園長をまじまじと見てしまった。
「説明せんかったか? 入寮日は混雑するから入学式は午後からで、一般人はその午前に入寮だと」
・・・。
「・・・どうします? 一般人は明日だそうですよ?」マークがぼそりと言う。
「・・・一応貴族だっての」
「一応ではありません。貴族です」言い切ったルルーもちょっと力がない。
揚々と領地を出てきたし、宿に泊まるのも馬鹿らしい。
「今更馬車を用意するのも阿呆らしい。学園長!出入り口を造らせて!」
「そっち!?」
マークが項垂れた。
「うちら基本歩きでしょ? いちいちあのデカイ門を開け閉めしなきゃならないなら通用門があった方が色々楽よ。そんで不審者が簡単に勝手に出入りできないようにすりゃあ良いんでしょ?」
学園長に確認すると指で丸を作る。
「お嬢より。グラントリー親方~!」
『ぶっ!? ぶわっはっはっ!! 負けた~!!』
通信機の向こうから爆笑が聞こえた。あれ、皆いるの?
「負けた?」
『賭けだよ賭け。お嬢が入学式で問題を起こして連絡寄越す。入学式の日に問題を起こして連絡寄越す。入学式の翌日に問題を起こして連絡寄越す。まさか、大穴の入寮日に連絡寄越すとはなあ。で?何をやらかしたんだ?』
ぅおい!! 問題を起こす以外に選択肢はないのか!?
「・・・寮の門が馬車用のデカイのしかなくて、通用門を作ろうと思ったの。学園長も了解したから材料と人手をお願い」
『おおそうか、今すぐかい?』
「今すぐお願い。混雑し過ぎて私らまだ寮の敷地にも入れてないのよ」
よしわかったと土木班親方グラントリーさんが指示を出す。
「ところで大穴ってことは誰かそれに賭けたのよね?誰?」
『ぶっ!くくっ! カシーナだよ』
カシーナさん!?
『"見送った数時間後に無事に着いたって知らせ以外の事で連絡寄越す"ってさ。ズバリだったな。お嬢をよくわかってる』
お。鍛冶班親方キムさんが加わる。
「・・・なんか複雑~・・・あ、キム親方、鉄の加工もやって欲しい」
わかった十分待っててくれ。
そうして通信を終える。チャットも可になってしまったイヤーカフ。なのでマークとルルーも聞いていた。
「・・・これ、問題だろ?」
「・・・学園長の許可があるから良いんじゃない?」
「そっか。にしてもカシーナさんの一人勝ちか~、すげぇな~」
「ふふ。心配なのよ」
「まあ心配だろうなぁ」
しみじみと私を見る二人。・・・そんなに変な事をしてるかな~? 言葉使いがよく乱暴になるけど、それ以外は普通だよね~?
そうして宣言通りに十分後にやって来た土木鍛冶合同班の精鋭たちは、魔法でちょん切った高さ一メートルの石垣とその上に付いてる二メートルの鉄柵を、あっという間に加工して帰って行った。
新しい扉は領から持ち込んだ物だけど、景観を損なわない鉄柵で出来た物だった。・・・どこに使う気で作り置きしてたんだろう? あって良かったけど。
もちろん火力係として私も参加した。
「・・・ほんに、魔法を使うと早いのぉ」
そうして学園長と亀様と私で学園寮のガードをかけ直し、鉄柵扉の重量をいじって、学生証及び入寮証を持ってる人、教師と寮専属事務員のみ限定で軽く、許可の無い人には動かせないくらい重くなるように調整。さらに門と寮の事務室を繋ぐインターホン(学園長の持っていた水晶を割って門と事務室に取り付けた)を作り、やっとこ寮に入る事が出来た。
「お嬢は本当に容赦が無いのぅ・・・水晶・・・」
だって持ってるから! 良いって言ったじゃん! 泣かないの!
最後に学園長が水晶が取り付けられた鉄板に「ご用の方はこちらに声をかけて下さい」と文字を彫った(もちろん魔法で)。
そうして学園長に案内された部屋は「一般棟」という区域で、「貴族棟」よりこぢんまりとはしているが、2LDKという立派な物だった。
「お嬢たちはこちらだな。部屋数は少ないが三人だから大丈夫じゃろ?」
「想定していたよりもだいぶ広いです!」
「王都の一般住宅よりは大きいぞ。一般入学者は二人で一部屋を使う。一般棟で済まんな?」
いやいや充分です! ルームシェアか~。私も一人だったら誰かと生活したのか~。楽しそう。まあ、マークとルルーだし、楽しいよね~。
「それでな、お嬢に頼みがあるのじゃが」
ん?
すでに掃除が行き届いているリビングのテーブルにお茶を出してもらい、皆で席についた。椅子が四脚あって良かった。
「今年の入学者に一人、お嬢並みに莫大な魔力を保有しとる娘が居るのじゃが・・・」
うわっヒロインだ! え、ここで存在を知っちゃうの?
てか学園長の眉間に皺がよっている。
・・・良い話ではない?
「どうにも暴走気味で、そのせいか村八分にされる程の性格だそうじゃ。娘同士ということで世話をしてくれんか?」
は?
ヒロインの魔力が暴走?
は? 何それ!? いつからそんな設定になってた!?
村八分になる性格って、ヒロインはちょっと天然で素直な見た目も可愛い愛される子だよ!?
「失礼します。暴走の理由はわかっているのですか?」
マークが学園長に聞く。
「ワシも直接会ったのだが魔力が膨大だということしかわからんかった。・・・情けない話少々恐怖も感じたのだ。得体が知れん事にな。だからと言って退治するわけにもいかん。年端のいかぬ小娘じゃ。親はもう亡く、その村の連中もよく原因がわからんらしい。暴走せずに使いこなせるようになるまで引き取りたいと申し出たら、二つ返事じゃった。お嬢には玄武も付いておるし、何とかその魔力を抑える方法を一緒に考えてくれんか?」
《我は構わんよ》
「私もやる!」
鼻息の荒い私に三人がちょっとひく。
構うものか! 私だってヒロインは好きなんだ! 好きなキャラがハブられているなんて気になって仕様がない! やりますよ!
「お、おぉ、では頼む。部屋はここの隣になる」
隣ね!
「暴走しても被害が少ないように、ここと隣の部屋は一般棟の外れに増設したのだが、そうならんように健闘を祈る」
やってやんよ! どうするか今は全然思いつかないけど、私は可愛いヒロインが良いです!
「・・・こんなに張り切るお嬢が不安で仕様がない・・・!」
マークが両手で顔を覆う。ルルーはお茶を飲みながら、
「そのために私たちがいるのよ。頑張りましょう」
静かに闘志を燃やしていた。
お疲れさまでした。
前話に入れられなかった二人の僧…天然も豪腕も中途半端な気がしますが、これからも何回かは出るはず。そこでどうにか挽回したいです…(^^;)
そして醤油。米の前に大量確保してしまいました。テリヤキバーガーで無双は有りかな…?その前に餃子かな(笑)
ではまた次回にお会いできますように。
あ、他力本願で申し訳ありませんが、誤字脱字を教えていただけると助かります。
【追加】
シン爺のセリフで、
「一門の証しとして暗記する経典の一文はあるが、健全な体に健全な精神は宿るというのが第一なんじゃ。元気があればそれでいい」がありました。
これについて感想をいただきましたので、紹介を。
これは、よく聞く「健全な精神は健全な肉体に宿る」を元にしてますが、誤訳!だそうです!Σ( ̄□ ̄;)
>「デキムス・ユニウス・ユウェナリス(古代ローマ時代の詩人・弁護士)の言葉
『健全な精神(魂)は健全な肉体に宿れかし』が元ネタですね
日本では誤訳の「~健全な肉体に宿る」の方が広がってますが
本来の文意は「健康な奴ほど健全な精神を持って欲しいものだ」と言う内容で、現実はなかなかそうじゃないと皮肉る文だそうです
彼はこう続けてまして
『元気は馬鹿を補わない』
『元気な馬鹿は手に負えない』
まさに爺にぴったしだと思いますw」
・・・わお、シン爺・・・何とぴったりな・・・そこまでじゃあ無いつもりだったけど、ぴったし!Σ( ̄□ ̄;) 笑うしかない!
>「間違った解釈の方が世に浸透している原因は、世界大戦時に軍国路線を突っ走る国々が軍人教育のスローガンとして使っていたせいです。原作のユウェナリスさんが聞いたら鼻で笑うか激怒しそう(((゜д゜;)))」
軍人教育のスローガン!Σ( ̄□ ̄;)
脳筋を憂えているのに、脳筋を作り出す為に使われるとは・・・
シン爺も、脳筋にする為に使ったわけでは無いのですけども・・・
原文のラテン語から、英訳、和訳を経ての日本での大流行かと思いきや、英訳の時点であやしいものだそうで、本当にユウェナリスさん、鼻で笑ってそうです…。訳者が偉いさんだと日本では訂正もされないので(推敲されない事が多いのか、訂正し辛いのかは謎)、図書館にある古そうな本は間違ったままかもしれませんよ。
ローマ文学を勉強してる方、またはラテン語が得意な方に詳しく聞いてみましょう。
ちなみに私の周りには居ません。
ということで、セリフを「健全な体に健全な精神が宿ればいいなぁ」と変更しました。これもまた感想のまんまいただきました。確かにこちらの方が合っています。
ファンタジーだからどうでもいいよと思われるかもしれませんが、私自身勉強になりましたし、セリフ変更を報告させていただきました。
つっこみ所満載の拙作に、こうしてご意見をいただけてとても嬉しいです。助かります!
長々と失礼しましたm(_ _)m




