続続24話 収穫祭です。<賊>
『お嬢』
アンディの出た扉が閉まった途端、王都偵察から呼び戻していたヤンさんから通信が入る。おぉ、眠る前で良かった。
『相変わらずとんでもないですね。今、吹っ飛んだ奴を拾いましたよ』
よし。
「ヤンさん~、お疲れ~」
『いやあ、担ぎたくねぇなぁ、コレ』
「ん~?」
なんだかヤンさんの声が呆れてる。
『お嬢、何をやらかしたんです? 顔にグーパンの跡がついて歯が四、五本抜けて口から鼻から血がでてるんですよね~。服は破けて真っ裸だし』
「アンディに炎の矢~」
『・・・チッ。引きずって帰ります』
ですよね!
任せた~、と伝えられたかは定かではない。
意識が戻った時には会場は綺麗に片付き、アンディと侯爵だけは帰っていて、遊園地とホテルは通常営業をしていた。
捕まえた賊たちは大蜘蛛のお家に招待されたらしい。
今回は一日半寝ていたようで、レシィには泣きながら説教された。
頭で剣を受けた所を見ていたらしい。
恐かったね、ごめんねと抱きしめて謝った。
夫人にも、貴女が先陣を切ってどうするのと言われ。
マミリス様には、私も剣を砕いてみたいわと言われた。
・・・うん。やっぱ騎士団長の妻になるべくしてなったんだな、このヒト。
***
取り調べは一日で終わった。
私が寝てる間にほぼ終わってて、ちょっと拍子抜け。
国を股に掛けるというくらいだから、イカレ具合に気合いが入ってんのかと思いきや、至近距離の大蜘蛛には誰も勝てなかったらしい。
まあ、大蜘蛛をクリアした所で独房もあるし。
んで。
この盗賊団の中心は、ヤンさんがバンクス領から連れ帰った魔法使いの男(60)。二番手が、ダンとヒューイが見つけシロウとクロウが捕まえた、二人の魔法使い。後は殺しができればいいと言う阿呆が約百人。兼下調べ、頭の命令から企画する頭脳的な担当が十人。
わりと大所帯だった。
提携している貴族やら商人やらを足すと、奴隷王関連に次ぐくらいの人数になりそうだ。まあ国を跨いでいる訳だけども。
今回、アーライル国を狙って手を組んだのがクソ従者こと、ウェスリー・ワージントン子爵(23)。キルファール伯爵家の取り巻きだった。
まあ、取り巻きだったのはワージントン元伯爵。ウェスリーの父親で、ほぼ家族総出でキルファール家にくっついていたらしい。ということで没落しかけたのだけど、五男のウェスリーだけは関わっていなかった。
*
なんとか食らい込んだアンドレイ王子の従者という役から父親よりも成り上がる気だった。だから奴隷売買には手を出してはいなかった。
が。あれよあれよと家族が捕まり、没落を防ぐ為に親族から、家格も下がり資産も三分の一も没収された家の当主に据えられた。王に任命された時は親戚が代わりに出ていた。
そんな領地に先はないと思われたのか領民の流出もあり、ウェスリーは荒れた。
とにかく領を立て直さねばと考えたが、あまりにも何も残っておらず、自分の生きてきた生活水準ではどうにもならないと愕然とするばかりだった。
毎日思うのは自分をこんな目にあわせた原因、ドロードラングの小娘の事。ただただ憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
そこにスッと現れたのが、ひょろりとした陰気な魔法使いだった。
憎いなら手伝うが?
ウェスリーは天恵だと思った。
魔法使いに言われるままに屋敷や空き家を手配し賊を引き入れた。
ウェスリーの想定よりも人数が多かったが、魔法使いは金持ちだった。あらゆる物を用意できる事に驚いたが、使いきったとしてもドロードラングで回収できると笑う。
そのうちにドロードラングを手に入れればどうにかなると考えるようになった。
邪魔なのは小娘。コイツさえいなくなれば全ては自分の物。
自分の物の邪魔をするものは、殺す。
その願い、叶えよう。
どこぞの悪魔のように、魔法使いは微笑んだ。
*
人の堕ちる様は可笑しい。
いつも、笑わずにはいられない。
ちょっと手を出すだけで、面白いように狂っていく。
誰かを従えるなんて簡単だ。
その欲望を少しだけ手伝えばいい。
後は、転がって行く先を少しずつ修正すればいい。
ほら、簡単だ。
ほら、俺は出来るんだ。
ほら、俺は優秀だ。
ほら、俺に出来ない事はないんだ。
だって見ろよ、皆、堕ちた。
ほら、俺は出来るんだ。
俺は、出来るんだ。
魔法使いはその昔、学園に在籍していた人物だった。
魔力があったので魔法科に入ったが、竈に火を付けるのが精々だった。
周りには圧倒的な魔力持ちしかおらず、貴族でもない商人でもない彼はハブられた。
教師も、魔法使いとして底辺の彼に文官科への転科を勧めてきた。
彼のプライドはズタズタにされた。
ある日、街の古書店で黒魔法の本を見つけた。黒魔法は主に宝石を必要とするので結果出費がかさむために人気が無く、古書店にあってもあまり売れない。
一度は通り過ぎたが、店を出てから引き返した。手に取って値段を見れば二束三文もいいところだった。
しょうもない所が自分と重なり、何となく買って帰った。
黒魔法というよりはおまじないな内容にいよいよしょうもない物を買ってしまったなと苦笑する。が、後半になるにつれ、呪術的なものになってきた。
この魔法陣に血を垂らせば、狙った所に火を出せる
いつの間にかノートに魔法陣を写していた。
どうせ嘘だろうと思いながら、いつも自分を馬鹿にするあの商家のボンボンを思い浮かべ、指先から血を垂らした。
何も起きなかった。自分の部屋では。
次の日、その商家のボンボンが学園寮の部屋で焼死したと皆が騒いでいた。
そっと自室へ戻り本を隠した。
卒業まで気付かれなかった。
卒業しても誰も追って来なかった。
それからはやりたいようにやった。
続けざまに狙うと自分だとバレる気がして、年に一人ずつ復讐していった。
何だ、あまり慕われてないんだな?
そう言って、動けない相手にナイフを刺した事もあった。
愉しかった。
やっと自分らしく生きられる。
唆し、高みの見物が一番愉しいと知った。
この本さえあれば、俺は一生、何処に行っても愉しく暮らせる。
最強の呪文だ。
「その願い、叶えよう」
ついでに、俺も愉しませてくれ―――
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