続22話 再度、まさかのお客です。<長閑>
え~と。
「突然の申し込みにも拘わらず、受けてもらい感謝する。今日は世話になるよ。ドロードラング伯」
「私もついでによろしく頼む!」
・・・何ですかね、アーライル国は重要人物は二人一組でお出掛けが決まりなんですかね・・・?
本日のお客様は、宰相と、騎士団長です!
・・・何なんだ!!
「まずはドロードラング伯には謝罪をさせてくれないか」
ん? 宰相に何かされたっけ?
「いつぞやは娘が失礼をした」
あ。あ~!"たぶらかした"ってあれか~。
新年の挨拶のために王城でまた皆さんに会ったけど、前と同じ塩対応。ちょっと違うのは、ビアンカ様、クリスティアーナ様、共に私を無視されたこと。
口をきくのも嫌ってことかとほんのちょっぴり凹んだけど、しゃーないと帰ってきた。
見た目は皆良かったからね、眼福でした。年明けから良いもの見た!やはり美人は見て楽しむに限る!
帰ってからそう力説したら、同意は得られたけども皆に呆れられた。
「いえ。どうぞお気になさらず。子供同士の事ですから」
「いや。事実無根とは言え原因は私にある」
奴隷王の噂は本当の事だからな~。宰相だけが原因じゃないでしょう。
そうだとしても、クリスティアーナ様のは褒められた態度ではないって事かな。
「そうですか。では宰相様からの謝罪は受けます。ところで本日は夕方までの滞在でよろしいのですよね?」
宰相が目を丸くした。
「原因は、気にならないか・・・?」
「伺った方がよろしいならばお聞きしますが、クリスティアーナ様の沽券に関わるならば必要ありません」
「そう・・・か?」
「はい。私たちは問題が無ければ長い付き合いになるのです。いずれどうにかなると思いますので」
「面倒だろう?」
「まあ、女同士ですからね。逆に男が入った方が拗れますから、放っておいていいですよ」
宰相が・・・ふむ、という後ろで騎士団長がニヤニヤ笑っている。
「男も女も同性同士のいざこざは一回は派手に本人同士がぶつかりゃいいんですよ。和解するならできるし、合わないならそれなりな付き合いになるだけです。ぶつかるとなれば負けませんけど!」
騎士団長が噴いた。
「あ! そこは私が先に宰相様にお断りしておきますね。私が勝っても文句無しですよ? 団長、覚えておいて下さいね!」
「ひーっひっひっ、わかった、覚えておこう・・・くっくっ」
そこまで笑うか・・・
「なるほどな。王の言う通りこれは一筋縄ではいかんな」
あのオヤジ、宰相に何を吹き込んだ。
「・・・まあ、私は宰相様の常識的な行動に信用できました」
「常識?なんの事だ?」
「今回事前に予約して下さった事です」
「いやしかし、一週間前では突然と変わらんだろう?」
「余裕ですよ!余裕! 準備期間、めちゃくちゃありましたよ!」
急に勢いこむ私に少々おののくお二方。
「王様はいっつも突然ですからね! 学園長はいつの間にかいるし! こっちだって気持ちに余裕が欲しいんですよ! 王に属する方々は皆奔放かと悩んでいたんです。そしたら宰相様からのご予約ですよ。これが常識だって皆で喜んだんですよ! 宰相様いつもお疲れさまです! 今日はいっぱい遊んでって下さい!」
ガバッと90度!
騎士団長は再び笑う。
十秒後に体を起こすと二人は苦笑していた。
「フ。こちらこそ、王が世話になっている。今日は我らも世話になる」
ドロードラング領ツアー、お二人様でーす。
半分案内し終えたところで、たまたま訓練時間が被った少年格闘部に飛び入りした騎士団長を宰相と並んで眺めてます。
ハーメルス騎士団長は白髪混じりの短髪で色黒。鍛練時には上半身裸らしく、日焼けの色黒らしい。確か50才。威厳を出すのに口髭を生やしているとか。充分強いらしいから剃ればいいのに。侯爵曰く、圧がすごいらしい。・・・うん、侯爵とはまた違う"圧"なんだろうな・・・
カドガン宰相は、第二王子シュナイル様の婚約者、クリスティアーナ様の父親である。カドガン家は娘しかおらず、しかもクリスティアーナ様は歳の離れた末っ子だ。お姉さん方は皆お嫁に行き、家にいるのはクリスティアーナ様だけ。婿取りになるのだけど、まあ第二王子だし、王太子がよっぽどでなければ問題ない。
先王から宰相として仕えていて、王も宰相に仕事を押し付けて遊びに来る程信頼してるとか。騎士団長とは同い年という事もあり、仲は良いらしい。
・・・宰相の白髪は、仕事と関係無いとこで増えたんだろうな・・・
「済まないな・・・」
「慣れてますのでお気になさらず。ここであれですけどもお茶にしましょう」
子供たちと行動すると予定が狂うなんて当たり前だ。
王様と学園長でも慣れてるからね!
領民に言わせると私が一番予定を狂わすらしい。えー、そーかなー?
肩掛けしたポシェット型保存袋からピクニックシート、カップ、紅茶入りポットを取りだし、さっさとシートに座ってカップにお茶を注ぐ。
「毒見しましょうか?」
「いや。今、毒を盛られてもな?」
「ありがとうございます。砂糖やミルクもありますよー」
「お。では全部で」
「あら珍しい。甘党は大歓迎ですよ! 昼食のデザートは楽しみにしてて下さいね!」
甘党のオッサンは隠れているものとばかり思っていたよ。潔いな宰相。そこら辺うちは自己申告制。申告しない奴には出さないスパルタ式です。
子供たちのジャンケン大会の景品になるからね。余るお菓子は多い方がいい!
「なるほどな、そうして入れておけば好きな時に飲めるか」
「水筒という手もありますよ。冷たい飲み物は水筒がいいですね」
本日の冷たい飲み物はやはりのレモネード。それの入った水筒を取り出すと、気が済んだのか、ちょうどこちらに来た団長にそのまま渡す。
「おお済まんな。レモネード?」
団長も甘いものは平気らしくグビグビと飲む。あ、毒見、言うの忘れてた。と思ったら、冷たい!と咳き込んだ。
「何故こんなに冷たい!?」
「水筒自体に保存の魔法が掛かってますから。冷蔵庫で冷したものを入れてます」
はあ!?と二人に言われる。え、冷たい物はそうやって飲むんじゃないの?
「冷凍冷蔵庫や保存庫も驚いたが・・・どこまで魔法が使われているか興味深いな」
ホテル等もこれからご案内しますよー。ところで毒見しそこねたんですが。
「もうチェスター(宰相)が口をつけていたからな。要らんだろ?」
物が違うだろうよ、おおざっぱだなー。まあいいか。入ってないし。
「団長様、子供たちへの指導をありがとうございました」
「いや、子供のくせになかなかやる。あの子等はスラムにいたのだろう? ニックと言ったか、指導が上手いとこうも違うのだな」
「私も彼には指導を受けていますが、楽しいです」
「楽しい、か・・・」
「子供だから手加減されてるのでしょうね」
「ふむ・・・ちょっと彼と手合わせを、」
「止めんか。この脳筋が」
わあ、宰相ズバリ言っちゃったよ。てことは本物か。
「がっはっは! 冗談だ冗談。子供の鍛練は案外と難しいからな。どうやって体幹を鍛えているのか気になったんだ」
「後で実物にご案内しますが、トランポリンという物で遊ばせてます。それに騎馬の民もよく馬に乗せてくれるんですよ」
楽しみだと笑う団長は、この水筒は商品であるのか?とも聞いてきた。オーダーになりますがお安くしまっせ~。
子供たちの訓練時間が終わったのか、こちらに手を振りながら移動していく。舞台もあるからよろしくね~!
「は~! 長閑だな~」
「寝転がるなヒューゴー(団長)。まだ見るところがあるんだぞ」
「わかっているって。そう固いことを言うなよ」
憮然とする宰相にあっさりスルーする団長。
「仲良しですね」
「「 腐れ縁だからな 」」
綺麗にハモった。ははっ。




