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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
6才です。
7/191

3話 躾です。

子供の躾に対して、やり過ぎ、または雑な表現があります。

それを推奨するものではありません。



「だからっ! やっちゃ駄目だって言ったでしょうがっ!!  お仕置きじゃあ! 高い高ーーーいっ!!」


ぎゃあああぁぁぁぁ~~・・・


あっという間に空高く砂粒ほどになった人影を皆で見上げる。

地を這うような低い声で、畳み掛ける私。


「つ~ぎ~は~だ~れ~だ~~ぁ?ぁあ!?」


ぎゃあああ!!ごめんなさーーい!!いやだーー!!ごめんなさいぃぃい!!もうしませーーん!!ごべんばばいーー!!


阿鼻叫喚。by子供たち。



ことの発端は三日前。


「お嬢様、お(いとま)をいただきたいのです」


侍女長として私を支え、服飾班の長でもあるカシーナさんが執務室を訪れた。


「え!? お休みではなく?」


「はい。最近は目が霞んで物がよく見えなくなりました。このままではご迷惑になります。お屋敷の仕事は出来なくなりますが、機織りは出来ると思いますので、そちらで働く事をお願いにあがりました」


淡々と理由を話すけど、それって私が下着や服を一気に大量に作らせたからじゃないの?


「待って待って! 何日かゆっくりしたら治るんじゃないの?」


「いえ。実を言いますとお嬢様がいらっしゃる前からなのでございます」


栄養失調の合併症か?


「まず私の回復魔法で治るか試してみよう!」


「そんな! もったいない!」


「これから貴女がいなくなる事よりもったいない事は無いわ。ちょっとそこに座ってちょうだい」


躊躇うカシーナさんを無理矢理床に座らせ(ごめん!届かないから!)、左右の目尻に両手を添える。

な~お~れ~っ!


「・・・どう?」


「・・・申し訳ありませんが、何か書類を見せてもらえませんか?」


様子を見ていたクラウスが机から書類を彼女に渡す。途端に目を細めて、更に腕を伸ばした。

老眼!!まだ三十代のカシーナさんが!・・・絶対に裁縫仕事でとどめだったんだ・・・なんてこった。


がっくりする私に慌てるカシーナさん。


「お嬢様、(わたくし)、機織りが好きなのでございます。侍女長を務めあげた後は、ひそかに機織りを夢見ておりました。ですのでどうぞ落ち込まないでくださいまし」


優しく背中をさするカシーナさんは柔らかく微笑んでる。


「ごめん!今貴女を手放す事は出来ない! なので眼鏡を作ります! クラウス、資料はある?」


眼鏡という単語に驚く二人。超高級品なのは私だって知っている。お父様が欲しがって買えなかった物。


「商品目録はございません」


申し訳なさそうに言うが、そっちが知りたいんじゃないよ。


「買わないわよ。高価な事は知ってるから。眼鏡の作り方の本とかない?」


「・・・お嬢様、高級品は作り手が製造方法を隠します。その様な本は残念ながら我が領にはございません」


おっとうっかり!そらそうだ。


「じゃあ、どうにか作るから。その眼鏡を使ってみてね、カシーナさん。悪いけど、後十年は確実に貴女にここに居てもらうわ。夢が遠のいてゴメンね?」


実はカシーナさんに抱きつくのが一番心地いい。お母さんよりカシーナさんの方が遥かに美人でスタイルがいいのに、雰囲気が近い気がする。ゴメンねと言いながら抱きつくと、そっと抱きしめてくれる。


「・・・ありがとうございます・・・」



レンズ部分は水魔法を使えば何とかなるだろうから、枠よ、フチよ。とりあえず木でしょ。肌に当たる箇所をどうしよう?

ということで、通信機用イヤーカフを作り終えたネリアさんにお伺い。


「眼鏡のフチ?何だいそれ?まぁた変なモンこさえようとしてんのかい」


ですよね~。ただいま婆ちゃんに呆れられております。

細工師のネリアさんは御年(おんとし)ろく、ゲフガフ、クラウスよりもいくつか年上。細い体だけど、職人気質のせいか大きく見える。

彼女に腕を組んだ格好で見下ろされると服従しそうになるよ、気をつけて。

でも態度が雑でも仕事は確実。模様を彫るのも工作も大好物な人。あらかじめ描いた眼鏡の絵に釘付けだ。そのまま、あーでもないこーでもないと打ち合わせ。


「お得意の魔法で、こう、柔らかい物は出来ないのかい?」


「あ!スライムみたいな!」


「・・・あんなモン、肌に付いたらベッタベタだろうよ」


「もっと硬めにね、そっか。試そう。ありがとネリアさん!」


「アタシもお嬢の変なモンを作るの楽しいよ。ただし、急な大量発注は止めとくれ。弟子が育ったら受け付けるよ」


変な物って・・・まあ、そうかもしれないけどさ~、イヤーカフは早急に欲しかったんだもん。拡声器も作ってもらったけど。スケボーも実は模様を入れてもらった。・・・確かに変なモンばっかだわ・・・


「そうだ。ネリアさんも眼鏡いる? 細かい作業の時に使ってみたら?」


「そんなもん要らないよ。と言いたいけど、いつかは見辛くなるからねぇ。それからにするよ」


「了解。じゃあよろしくね~」


そうして屋敷一階調理場脇の小部屋を出た。



次の日には出来てしまった。ネリアさん早いよ!その目の下の隈は何!?

さっそくカシーナさんにつけてもらって具合をみる。前世でオーソドックスな黒縁眼鏡の木の色版。おお、黒じゃなくても知的~!似合う~! ネリアさんも思ったのか、カシーナさんが眼鏡をかけた瞬間に、「おっ」って言った。


「こうやってかけるの。初めて作ったから慣れるまで調整することになるけど、とりあえず、こめかみはキツくない?」


「よくわかりませんが、痛くはないです」


「よし。ネリアさんいい仕事! じゃあ一旦はずしてね、レンズ入れるから。悪いけど、少しカシーナさんの血をもらうわ。水の玉を二つ出すから、一滴ずつ垂らしてね」


蝋燭の火で炙った針をカシーナさんに渡す。言いながら作った水の玉を彼女に差し出す。血液が水に溶けたところで魔力を入れる。カシーナさんが見えやすいように出来上がってと願いも込めて、木製フレームに合わせる。

眼鏡一号完成。見た目は完璧。


再度かけてもらい、適当な書類を渡す。

カシーナさんが目を見開いた。


「見えます・・・読めます! ありがとうございます!」


「は~、良かった! カシーナさんにはまだまだ私のお守りをしてもらわないとね!」


「・・・はい。お嬢様が立派な淑女になられますように邁進させていただきます」


あれ?


「あっはっはっは! お嬢、これから忙しくなるな? 面白い物を作るときはまた声を掛けとくれ」


お嬢様教育が増えた。えぇぇ~、マジすか・・・



カシーナさんの眼鏡に皆が飛びついた。カシーナさんの代わりに私が眼鏡を離したり近づけたり、目が大きくなったり小さくなる不思議を説明し、最後に太陽だけは絶対見るなと強く注意。


にもかかわらず、一人二人はいるんだよ。

確かに最初に遊んだ私が悪い。園児や小学生に何故危険か説明したところで、試さないわけが無い!

わかっていたのに油断した。まさかカシーナさんから眼鏡をくすねる猛者がいるとは!

原因は私だ。怒られるべきは私だが、絶対するなと何度も言った事をやらかした。

次は自分だ!と子供らが眼鏡を取り合い、最後に順番が回ってきた眼鏡を掛けた子に太陽を見上げさせた。



ので。今、制裁中。


なまはげと化した私に果敢に謝罪の言葉を叫ぶ子供たち。


・・・~~ひゅるるるるるるーーーーっぼおおおお~ん・・・


そんな中で見えない巨大空気クッションに落ちてきたマーク。涙、鼻水、ヨダレの三コンボに加えの白目。漏らさなかったのには心で拍手。

兄貴と慕う男の姿に愕然とする犯人。

そう。マークは少年団のリーダーなので監督不行き届きで吹っ飛ばされただけ。 


「ダン!」


私に名を呼ばれた少年はビクッとする。これから自分の身に兄貴と同じ事がおきると思って震えている。

涙、鼻水が大変な事になっている。


「お前が子供だから、何かやらかした責任は大人が取るんだ。いいか、お前のせいでマーク(まだ成人前だけど)はこうなった。私が駄目だと言った事を破るとこうなるということを覚えろ!」


「は、はいぃ!ずみばぜんでじだ!」


頭を下げても私の仁王立ちが直らない。不安気に少し顔を上げる。


「ダンが一番に謝らなければいけないのは誰?」


ハッとして一人の少女を探す。そして見つけた少女に向かって行く。


「ひ、ヒューイ、ごめん!本当にごめん!・・・ごめん。目、大丈夫か・・・?」


「・・・うん、大丈夫だよ。いつも通りに見えるよ」


「・・・ごめん」


「ダン、私もカシーナさんに謝るよ。一緒に行こう?」


「お、俺がやったんだからヒューイはいいよ!」


「だって、私が小さな花を見たいって言ったから持ってきちゃったんでしょ? 私も一人だと恐いから一緒に行って?」


「ぅう・・・わかった」


そうして二人でカシーナさんのもとへ向かう。二人で交互に頭を下げた後は、マークのもとへ向かい、朦朧としているマークにまた二人で頭を下げた。

そして私のとこへ戻ってくる。


「お嬢。私が眼鏡を使って見たかったんです。ダンは持ってきてくれたんです。私のせいです。すみませんでした」


「お!俺が! 眼鏡で太陽を見てみろってヒューイに言ったんです! すみませんでした!もうしません!」


10才の二人が、6才の私に頭を下げる。


「ヒューイ。今回の事はダンが悪い。人の物を勝手に持ち出すのは泥棒よ。そして、眼鏡で太陽を見ると、ひどいと目が見えなくなるの。私にも治せないものはある。だからカシーナさんは眼鏡をかけたし、ヒューイの目が見えなくなってたら眼鏡ではどうにも出来ない。ゴメンじゃ済まない」


私の言葉を理解したのか、ダンが青い顔で震えている。


「ダン。どんな物でも使い方を間違えると取り返しのつかない事が起きるわ。皆も!覚えておくように!」


「「「「 はい! 」」」


「・・・よし。じゃあこれで終わり。ヒューイは眼鏡を作るから私とおいで。ダンはマークのお世話をよろしくね~」


そうして、ヒューイと手を繋いでネリアさんの作業部屋に向かった。

とりあえず一件落着かな? 躾って難しいわ~。子育て経験なんて、弟にした鉄拳制裁しかないからね!

マークも成人前なのにご苦労様~!








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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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