続21話 雪祭りです。<説教>
冬の夜空は、季節の中で一番澄んでいる気がする。
執務室のバルコニーから見上げるだけでも、星明かりが眩しい。
「お嬢? いるの?」
アンディが来た。執務室の入り口にいるようだけど、そこからバルコニーまでは見えない。
「いらっしゃ~い。バルコニーにいるよ~」
「あぁ、じゃあ失礼します。・・・わあ、空が綺麗だね」
外に顔を出したアンディが、思わずといった感じで口にした言葉が嬉しい。
同じように感じてもらえるって嬉しいな~。
「やっぱり。ルルーからストールを預かったんだ。風邪ひくよ」
屋敷の中はあたたかくしているので、普段着のままで外に出ていた私にアンディがストールを広げて掛けてくれる。足まで隠れる大きな物だ。
「アンディも入る?」
たぶん、そうするように大きいのを持たせたんだと思う。
「僕は一枚着てきたから大丈夫だよ。でも寒くなったら入れてね」
「了解」
二人で笑い合った。
ベンチなんて無いので手すりに寄りかかりながら、見える範囲で一番明るい星を探したり、星座を教えてもらったり、料理の事を褒められたり、雪像の話をしたり。
星以外はさっきも話題にしたけど、今も何だか楽しい。
けど、本題はお喋りではない。
「お嬢は何でもできるな~。僕なんて・・・」
ハイ出た。
「アンディ。それ説教だからねって言ったでしょ?」
あ。とポカンと口を開けた後に、苦笑する。
「しまった。言わないようにしてたのに・・・お嬢にはつい言っちゃうなぁ」
「よし!説教だー! 亀様お願いします!」
え?え!?と戸惑うアンディの手を繋ぎ、亀様の力を借りて空を真っ直ぐ上へ飛ぶ。
高く高く上がっても、ちっとも星には近寄れない。
テレビでよく見た夜景も無い。手を繋いだアンディの顔もよく見えない。
真っ暗な地上に点々と明るく見える所がある。
「あれが、王都かな・・・」
高さに強いアンディが向こうの明かりを見て呟いた。
まあ、この暗闇じゃあ、高さもあまり感じないけど。
「たぶんね~」
「・・・遠いなぁ・・・」
「遠いね~」
「城から眺める街は夜が無いくらい明るいと思ってたけど、・・・ここからだと、大した事ないね・・・」
「そう? ここからその明るさが見える事がスゴいと思うよ。さすがの王都ね」
明かりを見ていたアンディが、こちらを向いた。
「お嬢は良い方に言い換えるのがうまいね。・・・そう言われるとそんな気がしてくる」
「だってあそこは、アンディのいる所よ」
え、
小さな声がした。暗がりの中でアンディの目を見る。
「アンディがいつも頑張ってて、貴方の家族も頑張ってる。そして、貴方のそばにいる人も頑張ってる。それが、あの光」
また王都の方を見る。
「・・・でも、ここまでその光は届かない・・・」
繋いだ手を少し強く握られた。私も握り返す。
「そうよ。だから私たちがいる。ここには、私たちがいる。光が届かない所にも、必ず貴方を想う人がいる。だから、疲れたら休んでいいの。しんどい事が他人より多いんだから、ちゃんと休んで。任せられる事は割り振って。助けが欲しい時は呼んで。まずは私が駆けつけるよ、それを覚えていて。
アンディは私を助けてくれた。だから今、私たちはこうしていられる。アンディは"なんか"じゃない、紛れもなく大恩人よ。
・・・ねぇ、覚えてね? 私らは皆でアンディが大好きだからね!」
また少し強く、握られた。
アンディの自信になるなら何度でも言うよ。
君は頑張っている。
私たちは、君がスゴい事を知っている。
だから、いつでも、頼って。
「お嬢・・・」
弱々しい声で呼ぶ。
「な~に?」
「・・・抱きしめていい?」
「ふふっ、いいよ~」
いつものようにふわりと包まれる。
けど、何か変。
・・・あ、そか。いつもはレシィも一緒なんだった。
「レシィがいないと変な感じ・・・」
「あ、私もそう思った」
二人で笑った。
「お嬢は背が小さいな~」
「なんだとー、泣かすぞー!」
「わー、こわい、こわい」
「笑ってるし」
「泣いてるよ?」
「嘘ー」
「説教されたからねー」
「ふふっ。へなちょこアンディには私らがついてるからね」
アンディに背中トントンをする。
「・・・うん。覚えた」
アンディも私の背中をトントンとする。・・・アンディも上手いな・・・
「じゃあ僕はお嬢の無茶を止める係だね」
「・・・あ~、あ~、うん、・・・お願いね・・・」
アンディが噴いて、私がつられて、二人で大笑いしながら、ゆっくり降りた。
***
雪解けも終わり、地面が乾き始めた。
カンカカカカン、ガッ!ガッ!
マークがニックさんと打ち合っている。
今まではあしらわれる事が多かったが、最近はマークの力負けも少なくなったのか、つばぜり合いが増えた。
それでもニックさんの表情には余裕がある。
ただ、マークも焦ったりせず冷静だ。
二人が飛びずさる。と、同時にマークは木剣を上段に振りかぶり、ニックさんは払うつもりか、木剣を横に構えてまたお互いに前に出る。
ニックさんの木剣が先にマークに届くかと思いきや、剣筋を変えたマークが木剣で受け止める。速っ。
どんな勢いが作用するのか、マークはそのままニックさんの頭に蹴りをみまう。
避ける。が、ニックさんはふらついた。
その隙にマークは着地するなり飛び込み、低い姿勢からニックさんの首を狙う。
マークの木剣は、ニックさんの首を横凪ぎにする寸前で。
ニックさんの木剣は、マークの腹を突く手前で。
止まった。
踏み込んだ時の砂埃が、風に流されていく。
「・・・うがーーっ! 今度こそいけたと思ったのに!! 騙されたっ!」
「いやいや今のは俺の負けだな。さすがに首を切られちゃあ、腹は刺せねぇわ」
「くっ、今日こそ綺麗に一本取れると思ったのに!」
「はっはっは! 本当にふらついたんだぜ? マークお前、力ついたな。は~、疲れたわ~」
「何オッサンみたいに言ってんスか。ニックさんから一本取れなきゃ、お嬢の護衛外されちゃうよ・・・。来年には学園に入るのに・・・あ~あ!」
執務室のバルコニーから二人のやり取りを見てた、隣りに立つクラウスに視線を向ける。
「マーク、惜しかったわね」
「そうですね。ニックもああ言っている事ですし明日からは私が稽古をつけましょう」
おお、ついに剣聖の稽古!
「マークーッ! クラウスから合格出たよー! 明日から稽古つけるってー!」
「ぅえっ!? 本当ですか!? え!? いいんですか?」
「おいおい、剣聖が稽古つけてくれるってんだ。おまけだろうが何だろうが受けろって。次は無いかもしれないぜ?」
ニックさんがニヤニヤとマークを脅す。
「ありがとうございます!! クラウスさんお願いします!!」
学園に通う子には従者の付き添いが認められている。
まあ、坊っちゃん嬢ちゃんが制服とはいえ、入学して急に一人で着替え及び身支度ができるとか誰も思っていない。
王都内に家があるなら自宅から通うが、大抵が学園内にある寮に入る。
従者は寮での世話、学園内での世話、とにかく主人である生徒が過ごしやすいように動く。
希望があれば、従者も騎士科や侍女科等、授業を受ける事ができ、成績が良ければ卒業証書をもらえるという。ただ、主人の世話が忙しくて、証書を受け取った人は少ないらしい。
年齢も問わないので、マークは私と8つ違うけど連れて行く予定。もちろんルルーもだ。
もしかしたら年上過ぎて浮くかもしれないから、年齢的には私より4才上のダンとヒューイがいいんじゃない?と言えば、皆に「ダンとヒューイでお嬢を止められるわけが無い!」と力強く断言された。
「もしもの時はお嬢を殴れないと駄目だ」
とのタイトの言葉に皆が頷く。
・・・うん、もうちょっとさ、言い方なくない・・・?
「ちなみに俺はお嬢を殴れますよ」
しれっとするタイトを睨み付けた。知ってるわぃ!アンタ本当に女子にも容赦が無いな!
レシィはタイトのどこが良いんだ!?
とにかく、マークとルルーに子供ができない限りはお付き継続です。
・・・う~ん、二人の子供に早く会いたいんだけどな~。私が成人するまでは専属でいたいって言うし。うん、二人が早く安心できるように頑張ろう。
ダンとヒューイには補助要員として心構えをしておいてもらおうっと。
いや、別に本気で殴らなくてもいいから。そういう時は亀様に頼んでいいから。
そんな怯えなくていいからー!
って私、何かやらかしたら皆にタコ殴りにされるのね・・・
・・・ほんと、容赦ない!
***
※少し時を戻し、星空説教・亀様による生中継を見ていた侍女部屋。
「「「「「 酷い!! 」」」」」
「お兄様ズルい・・・お嬢と星空デート・・・」
「ですよね!? あれ、デートですよね!!??」
「どうなってんの!? ねぇ誰か説明して!?」
「マークとルルーより酷い!!」
「ストール仲良し作戦を上回る行為! なのに、この残念さ!!」
「これは・・・なかなか手強いわね・・・」
「夫人!お願いします!私たちに救いの手を・・・!」
「どこまで友情でくくる気なのーっ!?」
「・・・お嬢って、女子なの?」
誰が発したのか、その言葉に沈黙が続いた。
亀様はこの件に関しては口を出さないことにしたようだ。沈黙を守っている。
侍女たちの奮闘は続く・・・かもしれない。
お疲れさまでした。
その時々で、ブームがありますが、今回はいちゃいちゃです。・・・なってました?
雪まつりは生で見たことがないので、初心者が一週間でどれ程出来るのか、大きさを指定しませんでした。お好きなサイズでご想像下さい・・・シロウとクロウだけは、でかい気がします(笑)
ではまた次回お会いできますように。




