続20話 婚約発表です。<罪と罰>
「あらぁ、本当に仲良しなのねぇ。可愛いわ~」
「ね! 言った通りだったでしょう!」
「・・・二人の世界すぎませんこと? 羨ましい・・・」
三の側妃(アンディとレシィのお母さん)マルディナ様、レシィ、エリザベス姫が現れた。
人の気配は感じていたけど・・・ん?
「ルーベンスもビアンカさんにこれくらい打ち解ければいいのに・・・そうすればビアンカさんもあんな捨て台詞のようなもの言わなかったでしょうに」
「シュナイルもそうですわ。クリスティアーナさんと二人でいても、ちっとも話が弾みませんの。何であんな朴念仁になったのかしら? それにしても仲の良さに嫉妬だなんて、はしたないわ。クリスティアーナさんの相手はシュナイルですのに」
「は~。エリザベスの相手はどんな方になるのかしら・・・私たちの様に仲良くできるかしら・・・」
王妃、一の側妃、二の側妃まで!!
何コレ!? お妃勢揃い!! コンプリート!! 目がチカチカする!!
・・・何だろうな、気分的に罰ゲーム・・・
おっとっと、慌てて礼をとる。
「あらいいのよ、サレスティア。貴女とそのドレスを見に来たの。皆で私の部屋へ行きましょう」
ひぃぃぃイイ! 何で初対面の王妃の部屋に!?
「それは、僕も行ってもよろしいでしょうか?」
アンディの言葉に、王妃はゆっくりと微笑んだ。
「もちろんよ。ふふっ、とって食ったりしないわ。ラトルジン侯爵夫妻も後から来るのよ。貴方もいらっしゃい」
お妃たちが現れた時に咄嗟に繋がれた手が少し緩んだ。
そうしてぞろぞろと王妃の部屋にお邪魔し、ドレスに群がられ、夫人の説明を熱心に聞く女性陣が生地の色を決めて発注をするまで二時間かかった。
えぇ、もぅ、淑女どころか、女子として駄目な状態になりました・・・脱がされはしなかったけど・・・へろへろです・・・ぐだぐだです・・・
久しぶりにマークに背負われて帰りました。
疲れた・・・
***
今年は雪が少ない。
こういう時は年明けにドカッと降る。ドカ雪対策しなきゃ。
年末年始を挟んで一ヶ月は遊園地事業は休みとした。大抵の地域では冬の備えをして家族で慎ましく過ごす時期。
王都の年明けのお祭りだって、年明け十日に行われる。例年それまでには降雪は収まる。
亀様ガードを展開してもらえば、雪だろうが矢だろうが気にしなくて済むけれど、うちの皆の休みが一斉に取れるのはこの時だけだ。
家族の時間を過ごして欲しい。
ま、それぞれだけどね。
今年の帳簿付けも終わり、仕事納め~と伸びをしたところで、元盗賊のジムがニックさんに連れられて執務室に来た。
「いつかあんたに言われた、やりたい職業なんだが、・・・何も思いつかなかった」
ガットとライリーの罰掃除がよっぽどだったのか、あれから喧嘩はあっても犯罪は無い。何とか真面目に農業に従事している。
ちなみに罰掃除はまだ続いている。
「まあ、まだ時間はあるから、」
「そういう事じゃねぇ」
私をじっと見た後、ばつが悪そうに逸らす。
「あんた・・・俺らを信用し過ぎだ・・・」
「見張りを付けてるけど、そう思うの?」
「見張りの数が少ねぇよ。あれじゃあ、逃げようと思えば逃げ切れる」
確かに。そこまで人数を割けないからだけど、亀様もシロウもクロウもいる。もう逃がすことは無い。
「ガットとライリーに、これから悪い事をしなきゃいいと言ったそうだな」
「言ったわ」
「・・・そうすれば、チャラになるのか?」
それか。
「・・・なればいいな、とは思ってる」
ジムが鼻で笑う。ニックさんがそれを睨み、私のそばにいたクラウスが一歩出たのを手で制した。
「そうだな。俺らはそう簡単には許されない・・・」
沈黙。
何を言いたいんだろう? 目を伏せたり唇を噛んだりしている。
執務室に来たという事は、言いたい事が決まっているのだと思うけど。
気持ちが決まったのか、ジムは瞑った目を開けた。
「・・・俺らは、物心がつく頃にはスラムにいた。物心がつけば食うために必死だ。自分さえ良きゃあいい。毎日、毎日毎日、奪って奪われて、そうしてきた」
ただ生きる為に奪った。生きる為に必死だっただけなのに、蔑まれた。
蔑まれる事に腹が立って、もっと奪った。
縄張り争いに負けて傘下に入った。仲間という括りも、あって無いようなものだった。
顔の傷は、その仲間だったヤツにつけられた。
「・・・俺らは、だいたいがそんな生い立ちだ。誰も、一味でも、頭でも、心から信用なんかしねぇ。ガットとライリーは珍しいんだ。ただ、自分が逃げ切れる為に囮にするようにつるんでるだけだ」
だから、あんたに捕まった時に処刑されて終わりになるはずだった。
「・・・俺たちは、いや、俺は・・・今まで奪ってきた物がどんな物か、考えた事はなかった」
ジムが、ゆるく開いた自分の手をじっと見る。
「食い物が・・・野菜が小麦が肉がどう作られて店で売られるのか考えた事がなかった。・・・それらはそこにあったから、店にいつもあったから、ただの商品だと思ってた・・・俺が作れる物だなんて、これっぽっちも思ってなかった」
握った手も、じっと見る。
「この手は、誰かを殴る為、殺す為のものだと思ってた。・・・けして、鍬を持ったり、子供を抱えあげたり、絵本を持ったりなんてしない。そのまま死ぬはずだった」
くしゃりとした顔を私に向ける。
「・・・何で、俺を引き取った?」
「自分の犯した罪を後悔してもらうためよ」
即答した私を、ジムは青ざめた顔で見ている。
「まあ、最初はただの労働力としてしか見ていなかったわ」
押さえ付ければ簡単に盗賊たちを制御できるとは思ってた。だから簡単に引き取った。
だけど、日々を過ごす内に考えを改めた。
「今、あんたも言ったけど、あんたたちが奪ってきた物はただそこにあるんじゃない。何ヵ月も手を掛けて実らせた物よ。危険をおかして仕留めた物よ。そうして糧にして生活している人の物よ」
ジムは一瞬伏せた目を、すぐにまた私に合わせる。
「真っ当な生活を知らないあんたたちに何が罪なのか、最初からわからせなきゃいけないと思った。そうしなきゃ、ただ処刑したって意味が無い。何故処刑されるのか、それを理解しなきゃ意味が無い。開き直られちゃ、浮かばれない」
もし私をひいた車の運転手が、あー、最近仕事忙しくてー、つい運転中眠っちゃったみたいでー、すんませんしたー・・・なんて言うような奴なら、怨んで怨んで、私の運の無さに落ち込むだけだが、・・・家族の誰かがその事故にあっていたら殺意しかない。想像ですら同じ方法でなんて生ぬるい。切り刻んでも気がすまない。
誠心誠意謝ってもらったところで、それがすぐに消えるわけも無い。
でも、憎くても憎くても憎くても、どこかでいつかは気持ちに折り合いをつけなきゃいけない。
どんなに憎んだって、悲しんだって、戻っては来ない。
家族が、私の為に、そんな思いをずっとして欲しくない。
サレスティアとしての人生を生きているから、そう思うのかもしれない。
家族の誰でもなく、私で良かった。




