20話 婚約発表です。
うぅ、しんどい・・・
本日王城にて、王子たちの婚約発表の為の夜会が行われております。
ドロードラング侍女ズ&騎馬の里女性陣からなる服飾班による今季最高傑作らしい、大人しくかつ淑やかに見える緑色のドレスと装飾を身につけ、アンディの隣に立ってます。アンディの衣装も一緒に作ったので、しっかりお揃いです。
第三王子ということであまり目立たず、でもきらびやかだけどシックな装いはアンディの麗しさと相まって今日もしっかり美人です! ほんと勘弁してよねっ! 隣に立つのは私なんだからねってあれほど言ったのに・・・
素敵なドレスだよ。アンディの黒髪にも私のゆるふわ(綺麗に巻かれない中途半端さがショボい悪役令嬢たる由縁)一般的茶髪にも合う色に仕上げたのがスゲエよ。この日の為に肩上だった髪は、伸ばしたけど肩を少し越した程度しか伸びなかったので念入りに編み込みされている。
この編み込みはレシィが教えてくれたもので、会得した侍女がやってくれた。レシィは喜んてくれた。ふっふっ。
「今日は一段と可愛いね。ドレスもよく似合ってる」
見習えーっ! 出がけに私を見て笑った奴等よ!! アンディのこういうトコを見習えーーっ!!
「私もお嬢とお揃いしたい~!」
ありがとレシィ! 言えば彼女たちはきっと張り切ってドレスを作るよ。今からこの編み込みは時間的に難しいけど・・・おお、お揃い楽しそうだな~。
「噂に違わぬドレスね。サレスティア様にとてもお似合いですわ」
エリザベス姫もありがとうございます! 今日は淡い紫色のドレスがお似合いで! きっと私のこのドレスも、姫の方が何百倍も素敵に着こなしてくれるだろう想像でもう少し頑張れます! 脳内着せ替え! ・・・変態か。
「はっはっは! 誰かと思ったぞ!化けたな!」
こンの親父はよおっ!! 息子を見習えっ!
あ~、顔が~、ひきつる~。
王城について一時間半経ってます・・・
あんなに特訓した「淑女の微笑み」が崩れそうです。うぅ、二時間、頑張れ私~。
これで失敗したらこれからの淑女教育が極悪に・・・!
頑張って私の表情筋!! 私も頑張るから!
「もう少しだから頑張って」
隣からアンディが囁く。視線を向ければ、ちょっと疲れてるアンディが微笑む。
ああ、アンディもしんどいんだ・・・うん頑張る!
微笑み合う私たちをエリザベス姫とレシィが見ていたらしく、夜会終了後に一番仲が良さそうだったと言われた。
王太子ルーベンス様(12)は、王様そっくりの金髪碧眼。THE王子。
そのお相手、友好国バルツァーの第一王女、ビアンカ様(11)。縦ロールの美しい明るい金髪に翡翠の瞳。正統派美少女。ツンだけど。
二人とも白を基調とした衣装で、もうそのまま結婚式ですか?って感じ。とても派手なカップルだ。
第二王子シュナイル様(12)は、一の側妃譲りの銀髪を一つに結わえ、これまた王様譲りの碧眼。立ち振舞いが武闘派っぽい。
お相手は、カドガン宰相の四女クリスティアーナ様(11)。サラサラとしたストレートでキャラメル色。第二王子に合わせたのか、高い位置で髪を結ってある。瞳も明るい青で水色みたい。知的美少女。ツンだけど。
こちらは青が基調の衣装だ。きっと二人の瞳の色に合わせたのだろう。こちらもお似合いの二人だ。
なんだろうな~。皆成人前の子供のはずなのに凛々しいな~。偉いな~。
アンディの恥にならないように頑張らなきゃ。
あ、ルルーとマークが壁際に立っているのが見えた。今日のお付きも二人だけ。行くと面倒そうなのでと言うのでクラウスには留守番を頼んだ。王都偵察のヤンさんとダジルイさんも護衛として城のどこかにはいる。マークと一緒に表に出てもらう予定だったのにヤンさんは固辞。てか拒否。それを見たダジルイさんにもドレスには慣れていないのでと断られた。・・・どこにいるやら。
ルルーたちのすぐそばには侯爵夫妻がいた。夫人と目が合うと小さく頷いてくれたので安心した。このドレスには夫人も関わっている。完成したのを今日見せる事になってしまって不安だったけど、喜んでくれたようだ。良かった。
最後に私たち三組だけダンスを踊ることに。
・・・くっ、どうせならこの美人軍団が踊る様を脇で見ていたいのに! レシィ~代わって~!
「レシィと代わろうとしてる?」
うわっ!何でわかったの!?
淑女の笑みを崩さないまま驚くとか、私も器用になったな~。
しかし鋭いなアンディ。
「ふふっ、当たった?」
「うぅ、そんなに顔に出てた・・・?」
「いや言ってみただけ。これを踊ったら終わりだよ。初めての夜会を頑張ったから何かプレゼントしようかな。何がいい?」
「ええ!? そんな制度があるの!?」
「無いよ~。お嬢が頑張れるかなと思って」
「ビックリした。なあんだアンディの冗談か~、ふふっ」
「ん?本気だよ。あまり大きい物は無理だけどね」
「あ! じゃあ、アンディが使っているハンドクリームを教えて?」
「? ハンドクリーム?」
「え? 塗っているでしょ?」
「使った事ないけど」
「ええ!? じゃあこの手のスベスベさは何なの? 王族仕様なの!?」
アンディが噴いた。ダンスの最中なので極々小さくだけど。
「後で侍女に聞いてみるよ。お風呂とか何か使っているかもしれないから、ふっ」
「やった!ありがと! ・・・もう、笑っちゃったら?」
「い、言わないで、我慢できなくなる・・・」
そうして二人で小さく笑いながら踊ったのだけど、やっぱりそれもレシィとエリザベス姫に一番仲が良さそうと思わせたようだ。
まあ友達だからね! 仲良いよ!
ようやく大広間から出られました。よし。まだ淑女に見えるはず。
この後はもう解散なのでそれぞれの部屋に向かうらしい。
ビアンカ姫はこのままアーライルに留まり、アーライルの王妃教育を受ける。
クリスティアーナ様は家が近いので、宰相を待って帰る。
私は一番下っ端なので、皆さんをお見送りする為お辞儀をする。
王子二人は、私の隣にいたアンディにはにこやかに「お疲れ」「おやすみ」と声を掛けたけど、私には何も無い。
それぞれの婚約者にも声を掛けて、そのまま専属の従者と共に去っていく。
「ドロードラングの奴隷王の娘。どんな美女かと楽しみにしていたのに、ただの田舎者でしたわね。ごきげんよう」
ビアンカ姫も侍女に連れられていった。
「どんな手を使ってアンドレイ殿下をたぶらかしたのか、必ず曝して差し上げますわ」
クリスティアーナ様も侍従に連れられて行く。
・・・たぶらかす・・・何の話?
ギリッ
何の音?と見たら、アンディが床を睨んでいた。目線を下げれば、アンディの握りこんだ手が白くなっている。
ふっと私の口許が緩む。正面に回り込み、その手を手にとる。
「手が、傷ついちゃうよ?」
少しだけ力が緩んだ。でもまだ握ったまま。目も強く瞑っている。ブルブルとする顎は、歯を食いしばっているのか。
こんな表情、初めて見た。
「アンディの手、好きなんだけどな~」
拳を開き、私の手を握る。
「僕は君の友達だ!」
強い眼差しで私を見る。その言葉に頷く。嬉しい。
「今夜、正式に婚約者になった!」
頷く。
「君を!もっと!守れると思ってた!」
・・・純粋に嬉しい。
「・・・君を守れる力が欲しい・・・!」
「それは違う」
アンディを見つめる。眉間の皺はとれない。
実際田舎者なので貴族様に田舎者と言われるのはハァそうですねとしか思わない。私だってあんな綺麗な子と並びたくない。美形は見て眺めて愛でるものよ!
そういう意味じゃ、近寄るだけで言葉よりもよほどダメージがある。
やはり育ちの良い人は、罵る言葉も大人しい。
可愛いもんだ。
「守ってくれるのはとても嬉しい。けど、貴方が守るのは国民よ。貴方はその為の力を得るの。私の為じゃない」
眉間の皺がまた深くなる。
「君も国民の一人だ」
「ありがと・・・だから私は、その貴方を支えたい」
あ、少しとれた。
「どんな形でも」
夫婦にならなくても。王都と領地とで離れても。
「アンディが挫けそうになったらそばにいるわ。飛んでくる。だから、私がそうなった時にはアンディがそばにいて。いてくれるだけでいいの。・・・いい?」
戸惑っていた顔が、ゆるゆると笑む。
「・・・じゃあ、早く転移の魔法を覚えなきゃ」
あぁ、いつもの笑顔だ。
「取り乱してごめん。兄上たちがあんな態度をとるなんて・・・婚約者たちも・・・ビックリした」
そりゃあそうだろう。優しい人に囲まれて油断していたのもあるけど、あの子たちの態度が普通なんだと思う。
可愛い弟の婚約者に、まさかの奴隷王の娘だ。邪魔をしたくても父王の命ならばそれも難しい。わかりやすい拒絶の無視。
婚約者たちも犯罪者の子と同列にされたのだ。プライドに障ったのだろう。
「ふふっ。兄弟仲が良い証拠よ。いいお兄ちゃんたちね」
「うん。・・・いつか、わかってくれると思う」
「そのために頑張るわ」
「僕も頑張るけど・・・無茶はほどほどにね」
「・・・努力します・・・」
アンディが笑った。
ああ。
良かった。




