19話 罰掃除です。
夜会議でガットとライリーへの罰は何がいいかと尋ねたら、騎馬の里の厩舎の掃除と、屋敷の掃除でいいんじゃないかと言われた。
・・・あれ、そんなんでいいの・・・?
「こっちの気の済むまでやってもらおうや。掃除だって男手があると楽になるだろう?」
ニックさんがカシーナさんに言う。
「素人など大した戦力になりませんが、力があるなら使いようがあります。期間を設けずに毎日やってもらいましょう」
「罰は基本、掃除にしたらいいんじゃないですかね?」
ルイスさんの言葉に男連中はほぼ頷く。料理班は調理場は省いて下さい、素人に器具を触られたくありません、と言う。
「え~と、男ってそんなに掃除って嫌?」
そう聞くと、頷いた連中は皆嫌そうな顔をし、ルイスさんがそうですよと続ける。
「男所帯で綺麗なとこなんてありませんよ。週に一回玄関回りを掃くだけで綺麗好きと言われる程です。たまに存在するマメな男が頑張って掃除しますけど、限度にキレて自分の範囲だけになりますね。だいたいは毎日しないからアイツらあんな格好をしてられるんですよ」
捕縛した時の事を思い出す。
あ~。うん。土足でも汚いわ色んな匂いが混ざって臭いわ散々だったな・・・
「それに今さら手足を切り落としたって使いようが無い。スラムの奴らがやっと五体揃ったのに、健康で更に丈夫な奴らを減らすことも無い」
ニックさんが続ける。
「ドロードラングはまだまだ発展中だ。使えるやつらは使わせてもらう」
土木班親方のグラントリーさんがごっつい手を挙げる。
「隣国とのトンネルはどうする? 掃除もいいが、トンネルの拡張をするならそっちに使った方がわかり易くキツいぞ?」
あ!そうだ!トンネル! 隣国と交渉しなきゃ。
「まだ交渉していませんので、それが済んでからの拡張ですね。ですが掃除を覚えるのも悪くはありません。どうせ体力はあるのです。徹底的に仕込みましょう。わかり難い方が罰になりますし」
・・・クラウスって、たまにダークだよ・・・
「うちの侍女たちがどれだけ丁寧に仕事をしているか、賊どもにわからせるいい機会です」
うおっ、皆がほくそ笑むって恐っ!
「じゃあ見張りは私がやろうかね。義手造りも落ち着いたし、細工班は私だけなら手が空くよ」
細工師ネリアさんがニヤリと言う。
「ネリアさんが付いて下さるなら心強いです。よろしくお願いします」
カシーナさんがネリアさんに頭を下げる。
・・・うん、まあ、掃除でいいなら良いんだけど。
次の日の朝から、ガットとライリーの悲鳴、鞭を叩きつける音、ネリアさんの楽しそうな怒鳴り声が屋敷に響くようになった。
毎日ボロ雑巾のようになる二人に、賊仲間が恐る恐る「毎日何をしてるんだ」と聞いたらしい。
すると虚ろな目で「・・・そうじ・・・」と答えたとか。
どういう掃除の仕方!?
ネリアさんに探りを入れたら「箒の持ち方、雑巾の絞り方から、毎日毎日丁寧に教えているよ?」と、にっこり言われた。
そして、義手義足造りでとうとう作ったネリアさん専用の眼鏡がキラリと光る。
む、無理!私にはこれ以上聞き出すのは無理!
箒と雑巾の使い方を覚えるのに鞭要らなくない?とは言えない!
「掃除がいいんじゃないか」と言ったニックさんルイスさんすら悲鳴が聞こえるとビクッとする。
ガット、ライリー、頑張って・・・
***
カーディフ領での森火事の始末書を王城に提出に来ました。
カーディフ領当主セドリックさんには再度土下座をし、お詫びとして遊園地招待券(二号館ホテル一泊無料含む)を渡した。森に近い村のみ約50世帯分。
放置された森だから隠れ家があった訳なんだけど、森の恵みを得ていた人はいた。その賠償は後程の交渉で。
ビビらせてすみません!
あの炎はドロードラング領からもばっちり見え、バンクス領とダルトリー領からも問い合わせがあった。
もちろんドロードラングでの不始末ということを素直に告白。
お騒がせしてすみません!
他の領地は王城に問い合わせたようで、そのあまりの数に始末書の提出が決定。
アンディから聞いたんじゃないんかい。いや、そもそもは私の油断だからいくらでも始末書を書きますけども。
学園最上階にある学園長室からも、ぼんやり明るいのは見えたらしい。
・・・アンディが来なかったらぼんやり明るいどころじゃなかったかも・・・反省!
王の執務室に通されると、すでに学園長もラトルジン侯爵もいた。
ジイサマたちは自分の仕事を持ち込んでのお出迎え。あざーす。
もちろん三人とも私のことをチラリと見ただけでそれぞれの書類にサインをしてる。
「え~、この度はドロードラングの不始末について、多大な御迷惑をお掛けいたしまして申し訳ございませんでした」
扉から三歩進んだ所で頭を下げる。
マークとルルーは部屋の外で待機。
「大人しくしていられんのか、おぬしは・・・」
呆れ声の侯爵。いやあ、うちの子が誘拐されたので・・・
「魔法使い関係はまたも大騒ぎになったぞ。亀様がついていながら派手にやったのぅ」
いえ学園長、アンディと亀様がいたからアレで済んだのですよ・・・
「ま、ある意味良い暴走だったな。お前を陞爵した時に睨んでいた奴らが青い顔してやって来たからちゃんと言ってやったぞ。ドロードラング伯爵は学園に入学こそしていないが、学園長も認める魔法使いだ、暴走するとあの位になるらしい、とな」
・・・うん、微妙・・・
「うるさい小蝿共も大人しくなったんじゃないか?」
あ、ご存知で? てか、パターンか?
実は森火事前から他領からの偵察が物凄いあった。
領地オープンに伴い、ガードも緩くして開けたドロードラングを!と思ったんだけど・・・
私の想定以上の人数が押し寄せ、うちの大人が皆ピリつくという事態になってしまった。
向こうも偵察だけだったようで、小競り合いも起きずに済んだんだけど・・・
大活躍したのはうちの大蜘蛛たち。飼育担当ロドリスさんの指示で巣を出て、覗き見しようと怪しい動きをする輩を吊し上げ。
ありがとう!スゴいね!って、スパイダーシルクのミノムシの数が多い!
すみません、亀様ガードを再度お願いします!
クラウスや薬草班のチムリさんに眉間の皺は似合いません!
「気配がだだ漏れ。質が悪い!」
チムリさん!目が恐い!そして怒ってる理由はどこ!?
偵察などせずに堂々と遊びに来いやあ!と、荒い紙で無理くり作ったチラシを持たせて弾き返したけども、それでもちょいちょい来る。
もうさ、来たついでに遊んで行きなよ、そして帰って宣伝してよ・・・もう紙作りが追いつかないし、皆が恐いからー! 私が悪かったからー・・・
それが減った。
皆は、下手をうって仕返しされた時の被害の目安になっただろうと言う。
うん・・・まあ、良かった、のかな・・・?
「下書はしてきたろう? ここで清書していけ」
王が書類から目も上げずに言う。
へーい。
以前、領地に来てくれた護衛さんが始末書の準備をしてくれる。お手数お掛けしますと言ったら、大変でしたねと労われた。優しー!
「ああそうだ。婚約発表の日時が決まったからその書類も持っていけ」
・・・お使いか!




