続続2話 色々です。<とんでもねぇ>
トンネル近くの丘にドロードラング領の墓地がある。
今年は領地で一番花が咲き乱れている場所。
お祖父様、私はまだまだいろいろ足りません。その時までどうぞ見守って下さい。皆に毎日お腹いっぱい食べさせる。やってやりますよ~!お祖父様を目指しますが負けませんからね!
向こうでクラウスが穏やかな顔をしている。
「奥さんとお話はすんだ?」
「ふふっ。いつも話を聞いてもらっていますからね。特別なことはありませんよ。お嬢様はもうよろしいのですか?」
「私はお祖父様に宣戦布告をしに来ただけだもの。終わったわ」
「ははっ! 強敵ですなぁ」
「だから皆と居られるうちに勝負をするわ! まだまだクラウスも頼らせてよね?」
「勿論でございます。まだまだ若い者には負けません。どうぞ頼って下さい」
「・・・ありがとう」
ここには、わざと花の種を蒔いた。
華やかになるように。
ここに眠る、この領地の原点が、ここに眠ることを、誇れるように。
ここを訪れる度に、誰かの哀しさを減らすことが出来るように。
ここで誰もが、安らげるように。
領地を見渡せるこの場所で、幸せを感じることが出来るように。
「今度ここでお弁当が食べたいわ! ハンクさんに相談してみよう。皆でお墓参りをしてピクニックをしましょうよ! こんなに見晴らしが良いのだもの、きっと楽しいわ!」
「ここで・・・墓地でピクニックなど聞いたことがありませんが、良いかもしれませんね」
奥さんのお墓を優しい目で見つめる。
きっといつか、誰もがそんな表情でここに来るようになるといいな。
「あ。お嬢様、花を植えるのもよろしいですが綿花を植えませんか?」
「綿花?ここに?」
「はい。引退したらここで一日作業するのも良いと思いまして」
「あは!そうね、それも良いわね! よし今夜の会議で皆に相談しましょう!」
そうしてクラウスの大きな手と手を繋いで屋敷に帰った。
ごっつい手。
じいちゃんとお父さんを思い出した。
***
『お嬢!大変です!』
「どうした!」
『北担当ヤンです!防護柵を破って五頭の大イノシシが入り屋敷方面に向かってます!』
「怪我は!」
『俺含め二人が腕に切り傷、一人が体当たりを喰らって気絶、出血無し!』
「わかった!こっちは任せて、あんたたちは動かずその場で待機!私が行くまで待て!危険があれば移動!」
『了解!待機します!』
「クラウス!お願いね、私行くから!」
言うやいなや、返事も待たずに執務室を飛び出す。すぐにクラウスの声で領内に緊急警報が響く。
『北より、五頭の大イノシシが襲来。北より、五頭の大イノシシが襲来。全員屋敷か避難場所に移動してください』
6才児の足じゃ現場に着くのは遅すぎるので、屋敷の北側バルコニーに出る。遠くに見える土煙がものすごい。五頭は散らばらずにまとまって突進してくるようだ。狙いやすい。
私は両手を前に出して構えた。
そう、前世の国民的アニメの主人公と同じように・・・!
「それ、以上は、うちの、芋畑だ、・・・入るなーーっ!!」
一度腰元に引っ込めた両手を、狙いを定めて魔力を溜めて、再度両手を前に出すのに合わせて思いきり放出!
私の手から出た魔力は網のようになり、5頭一気に捕獲。まだまだ暴れる奴らをそのまま持ち上げ振り回す!振り回す!振り回す!振り回す!!
そして、目を回した大イノシシを放り投げる。ピクピクとした奴らを見てほくそ笑む私。
「食料確保!」
いやぁ良い仕事した! 干し肉作ってもらおうっと!
「お嬢より。ヤンさん、今からそっちに行くから!」
『お嬢相変わらずッスね~、参るわ~。こっちは意識戻りましたし、軽傷ですよ』
「ダメよ。そうやって油断して傷の治りが遅くなるんだから。さっさと治すからイノシシの解体よろしく!」
『あぁそうでした。五頭か~』
『お嬢。あの大きさじゃあ、血抜きだけで一日かかりますよ?』
「ラージスさんも無事で良かった! 体当たりされたのは誰?」
『お嬢~。トエルッス~、痛ぇ~』
「生きてて良かったわトエルさん! 生きてりゃ治せるから、もうちょっと辛抱してね」
『うちのお嬢は、ほんと、とんでもねぇ・・・』
『末恐ろしい・・・』
『痛ぇ・・・』
聞こえてるっつーの。
会話をしながら執務室に飛び込み、スケボーを抱えて執務室のバルコニーへ出る。なるべく北に向かってスケボーに乗って蹴りだす。
ヒャッホーーイ! たーのし~ぃ!!
そう、スケボー擬きです。どちらかと言うならばホバーボード。車輪無し!
最初は、移動するのに自転車を作りたかったのだけど、材料がない。6才児でも扱える物、となるとかなり限定されてしまう。
だけど私は出会ってしまった黒魔法を駆使して作りました!
材料は、板、私の血を一滴、魔力の三つだけ!・・・なんと経済的!ビバ!黒魔法!
あの小学生探偵の必須アイテムにヒントを得て、まんま作りましたよ! やったことないけど、ビルからビルに飛び移れるくらいの出力もいずれは出したい! 2階から飛び降りるなんて、風魔法でお茶の子よ! 何が嬉しいって、木登り出来なくても使えること。皆に私が運動音痴ではないと証明できたわ!
猿と呼ばれて育ったからには、運動音痴は許されない!
見たか!
・・・誰に張り合ってるんだろ・・・?
地上二十センチを右、左とスケボーの様に蛇行しながら進むと、小山のような大イノシシが見えた。
大イノシシと言われたからそう呼ぶけど、軽トラサイズのイノシシなんて初めて見た。
ただのモンスターじゃないの!
トエルさん、こんなのに体当たりされてよく生きてるわね・・・この世界の人って案外丈夫よね。あんなにガリガリだったのに、病気にかかってもなかったし。ゲームだから?
皆が生きてるからどうでもいいや。
魔法の網は気絶してるイノシシに絡まったままなので、そのまま脇を通り過ぎる。気がついても動けまい!
「あ! ヤンさーん! ラージスさーん! トエルさーん!」
声の限りに呼ぶと、三人で手を振ってくれた。
「トエルさん無理しなくて良いわよ。でもゴメン、二人から診るね。うーわっ!結構出血してるじゃない!」
「牙にちょろっと引っかかっただけなんですよ。見た目よりは浅い傷ですよ?」
「ラージスさん私はこんな大ケガしたこと無いわ。騒ぐに決まってんでしょ・・・はい終了。ヤンさん・・・はい終了」
手をかざして、治れ~と念じると傷口が綺麗に塞がる。
呪文要らずのサレスティア。スゴいわ~この子。何でも出来るのね~。恐ろしい娘!
さてトエルさん。両手をかざして頭から爪先へゆっくり診察。肋骨と左腕の骨にひびが入ってる。内臓は大丈夫ね。
な~お~れ~~っ!・・・よし。
「・・・痛くない! お嬢!ありがとうございます!」
「どういたしまして・・・はぁ、三人とも無事で良かった」
やっぱり回復魔法が一番疲れる。狩猟班の手当てをしてる時から感じていたけど、確信した。ん~、これは要議題だな。
「お嬢? 屋敷まで自力で帰れますか?」
「ん~、ごめん、誰か送ってくれる? あ~、防護柵も直さなきゃね~」
「防護柵は俺らに任せて下さいよ。それくらいチョロいッス」
「ありがと~。頼むね~」
「後でその板貸してくださいね!」
「わかった~」
「じゃあ、俺がお嬢を連れてくわ」
「ありがと、ラージスさん~」
「頼んだぞ」
ヤンさんの声を聞いて、目が覚めたらベッドの上で子供たちと雑魚寝中でした。
あ。お昼、食べ損ねた!
お読みいただきありがとうございました!
2話目にして、迷走中です(°Д°) 早っ!
楽しく書けましたが、楽しんでもらえるかな~?とドキドキです。
ご意見お待ちしてます。
が。なるべく柔らかくお願いします!(≧Д≦)




