17話 開園です。
今回も新キャラ登場です。少しですが。
これからの人物については、一才毎に登場人物一覧を最後に付けようかと思います。
蕾が開いた花から次々と出てくるのは、猫耳、尻尾にモフ手袋、モフ足袋を身に着けた子供たち。
客席近く、舞台のぎりぎりに横一列で並び、曲に合わせて一斉に同じ振り付けで踊る。
お客の黄色い歓声にほくそ笑みたいところだけれど、私も舞台にくぎ付けだ。
舞台上で踊るのは5~8才の子供たち。このラインダンスを一所懸命に練習した子たちだ。失敗もあったし技術や身長の関係で今日のメンバーになれなかった子もいる。
厳しい特訓に泣き出す子もいた。捻挫や擦り傷打ち身を何度も経験した。
それでも皆耐えた。
「だって僕らが頑張ればサリオンも白虎と一緒に遊べるんでしょ? 僕らも守るよー!」
・・・・・・もう、ほんと、良い子たちだよ~~っ!
そこまで考えるなんて~~! おばちゃん頑張って稼いでアンタたちにご飯腹一杯食わせるからね~っ!
舞台脇で声も出さずに泣きながら見ている私を、クラウスがそっと、マークやタイトは苦笑しながらお客から私を隠す。
最後に頭を深く下げて尻尾をピンと立たせる。ピコピコと動く尻尾に拍手が巻き起こる。可愛い!との声があちこちから上がる。
そうです!可愛いんです!うちの子皆可愛いんです!
舞台を捌けて来た子から、私に抱きついて来る。
いっぱい、いっっっぱい、褒めた!
王からの命令でやってる道路整備のついでに興行もすることになった。領地にお客を呼ぶのに宣伝しなければならない。
王都でやったものが噂になっていたのもあって、興行には二つ返事で場所を提供してもらえる事が多かった。
まあ、ドロードラングの名に誰もが怯むのだけど、舞台を見てもらえばおおむね良い評価をもらえたし、メルクに描いてもらったポスターがとても良い出来で、領地の方にも行ってみたいと思わせることに成功。
本当にメルクは何を描かせても上手で助かる!
道路が広く綺麗になったので行きやすいと、商人たちも腹黒を押し隠し寄ってくる。ふっふ。発展にはアンタらの仕事ぶりを発揮してもらうんで、どうぞいらしてくださいな・・・ふっふっふ・・・
まあ、子供たちの笑顔が何よりの宣伝だったと思うけど。
こうして道路整備は大きな邪魔が入ることもなく、つつがなく終了した。
とりあえずあからさまな文句もなく、私は伯爵を授爵。
特例として当主になったけれども、まだ未成年なので、一応ラトルジン侯爵が後見人となった。
***
新アトラクションのコーヒーカップに、アンディとレシィと乗ってみた。
「う~~、まだぐるぐるするぅ・・・」
レシィがよろめく。
「つい回し過ぎちゃうんだよね~」
「うん、回るの面白かった! 大きなカップなんて童話みたい!小人になった気分で素敵だわ!・・・う~・・・」
慣れないとしんどいよね~。私が見本を少しして途中でレシィと交代したのだけど、今日初めてだから余計に加減がきかなかったもんね。私もちょっとふらふらするし。
アンディなんて降りてから四つん這いになってピクリとも動かない。
「大丈夫アンディ? 誰か呼ぶ?」
「・・・いや、まだ、・・・動きたくない・・・」
ですよね。まあ、私の不手際でもあるので二人に治癒かけま~す。
「・・・あ~。ありがとうお嬢。すっきりしたよ。・・・見た目に反して恐ろしい乗り物だった・・・」
侯爵の様な言い方に噴き出す私。
「ゴメンね、自分で回すとそうでもないんだよコレ。あんまり回らないように調整するね」
「ごめんなさいお兄様。楽しくてついやり過ぎてしまいました・・・」
しゅんとしたレシィの頭をポンポンとしながら笑うアンディ。
「初めてだし仕様がないよ。レシィが楽しかったなら僕も嬉しい。ただ、これからはほどほどにしてもらえると助かる」
真面目な顔でお願いする姿にまた笑った。
道路整備が指定された二ヶ月より早く終えることができたのだけど、ちょっとこちらの予定が狂った。
難航していた第一王女の相手がやっぱり決まらないらしい。
アンディとの婚約発表はもう一ヶ月延びた。
・・・何が問題なんだろう? 普通の、と言ったら失礼だけど、普通の王女のはず。美しく賢く、王女に相応しい立ち居振舞いだと聞いている。
直接は会ったことが無いから本当の所は知らないのだけど、噂を聞くに何の問題も無いんだけどな~? 釣り合う相手がいないのか? 物語みたいに素敵な姫には素敵な結婚をしてほしいな~。乙女の夢~。
王子との婚約を発表して、それに合わせた領地のオープニングにしようと思っていたので予定の立て直しをする。
大々的にオープニングの日程を発表してきたので、今更の変更もお客さんに申し訳ない。わざわざ仕事の調整をしてくれるのだし。
まあ立て直しと言っても、アンディからの一言だけをカットすればいいだけなので特に問題は無い。侯爵は後見人として一言があるけどね。
新しい遊具としてトランポリンハウスを増設。幼児用、子供用、逆バンジー。逆バンジーはお仕置き用よりは低く設定。
ブランコがぐるぐる回るヤツも設置。一人乗り二人乗りを交互に一列に一周させ、遠心力で浮いてきたら、左右の揺れをプラス。二人乗りは足場があるけど、一人乗りは無しにした。ずれにくいように椅子の形にした一人乗りは侯爵には不評。ベンチ型の二人乗りは大丈夫そうだった。どっちの椅子にも固定ベルトがあるからそうそう危険ではないのだけどねぇ。
救護所も増やした。うちの子たちは何を試しても割りと元気だけれど、侯爵はすぐヘタる。
ので、侯爵が駄目だった乗り物には注意書きの看板を設置。
「前の人の様子を見て、無理をしない!」
そして年寄り危険度レベルを設定。ジェットコースターが最高の星五つ。ブランコ一人乗りが四つ。
いやあ、侯爵にはだいぶご協力いただきました。夫人は全然平気なのにな~。
救護所は大きめに作った。見た目は簡易テントだけれど、空間を区切って空調完備。ただの休憩もできるようにベンチ椅子もいくつか置いてある。救護所は定期的にまわって飲み物を販売することに。水なら無料。
一座の芸も披露出来るようにステージも造った。領地組と興行組と二組か三組作ろうかな? 交代もできるし、子供たちが意欲的なのでその発表の場を増やしてあげたい。
雨の日は雨避けドームを遊園地からホテルまで展開。これは亀様の協力をもらう。はるばる来たのに雨で遊べないのは可哀想だもんね~。
お昼から雨が降りだした。
外の作業は終わりにして、大人はのんびり道具の手入れや屋内での作業に切り替え。子供たちは広間でお勉強会。
勉強会と言っても、それぞれのレベルに合わせたものになる。字を練習するグループ、計算をするグループ、地図を覚え、手紙の書き方を教わり、帳簿の付け方を習う。
今までは、字はカシーナさん、計算系はクラウスと私と、三人でどうにかしていたのだけど、子供たちの人数が増えたので教える側が足りなかった。
が、王都屋敷の従業員が全員こっちに来てくれたので、文字と計算は人数を増やす事ができた。クインさんにはサリオンの専属と勉強会の手伝いもしてもらうことに。
なんたってあの屋敷を仕切っていたのだ。経理はお手の物だ。
子供たちがメインの勉強会だけど、大人の希望者も参加可。読み書き計算は覚えていて困ることでもないので大いに学んでちょうだい!
もちろん勉強嫌いの子は早くから親方たちに弟子入り。人数不足の解消と手に職をつけさせる為。何かあっても、どこかへ行くことになっても、そこで食べていけるように。
王都での学業のレベルがどれ程か知りたくて、アンディに持っている問題集又は教科書を持参してもらった。
パラパラと見てみた結果、文字と計算はうちでもまあまあなレベルだとわかった。
応用はとりあえず置いておくことに。勉強をもっとしたい子には、アンディの教科書を複写したものを与えることにした。
もっと勉強したいなんて誰も言わないので、複写は私がやることに。
いつかは学園に行くのだから、今はアンディのお下がりを利用したい。
「お嬢が読むと思うと何だか緊張して字も綺麗になったよ」
アンディの字はとても綺麗だ。本当にお手本の様な文字。綺麗なノートを使っているのだけど、なによりわかりやすいんだよね~。色ペンも無いのに何なのノートのこのクオリティ!
貴族の勉強として平均な物かとおののいたら、アンディは特別だと侯爵に教えてもらえた。
あー良かった。充分に賢いだけだった。
不思議なのが、アンディが説明すると皆がスルッと理解する。
何だろ? 確かにわかりやすいように話してくれるのだけど、クラウスとそう変わらないと思うんだよねぇ・・・
あれか?身内なら教えられることに反発しても、他人なら素直に習うっていう、アレか?
・・・まあ、身に付くなら何でも利用したいところだけれど、アンディ忙しいのに悪いよね。
「ん? 全然苦にならないよ。レシィに教えるより断然楽だ!」
あぁそう・・・うん、アレだな。そういうことだな。




