16話 始動です。
おおおおぉ~!!
いつもの会議で一つの発表をした。わざとらしくもったいぶって、その作品を隠していた布を取る。
皆の感動の声が私の鼻を高くする。でしょ?スゴいよね!とっても上手なのよ! 私が最初に気づいたのよ、ふふん。
紙ができました。
粗い物だけど。
これにもトレントが大活躍。あと、飼料には固くて肥料にも微妙な丈夫な草。乾燥させてもバラけないのがあったので、それも混ぜた。もちろん間伐木材の余ったものも。
羊皮紙だって作るのには手間が掛かるし、皮類は靴や道具に使いたい。
試行錯誤を繰り返し、この厚紙どうすんの?って物から、和紙っぽい物になり、やっとわら半紙並になった。うちの職人すげえよ!本職なんて誰もいないのに!
ただ弱点は、インクがにじむ、ペン先が引っ掛かる。・・・なんて致命的な・・・
ということで鉛筆も製作開始。というよりシャーペン。というより芯とその入れ物って感じ。またネリアさんたち細工班にほっぺをつままれたけど、スゴいよね~!できたね~! 鉛筆くらいに芯が太いけど。
鍛治班、土木班との合同開発。本当にこの人たちは大きい物も小さい物も何でも作るな~。
消しゴムはまだ無いので、まあ、子供たちの落書き用紙だ。真っ黒になるまで書ききって最後は燃やすのだけど。
字の練習をしていた時に一人、絵を描いてもいいか聞いてきた。いつも大人しく控えめな男の子のメルク。描いてもいいかとボソボソと聞いて来た事が珍しく、絵もいいよね!なんて皆でテキトウに描いてみた結果。
物凄く巧かった!
見本にするため魔法でチューリップを咲かせたのだけど、なんとも写実的に描かれていた。写真!? え?何歳だっけ? 12才!? 天才だ!!
慌てて王都にいるヤンさんに画材を買ってきてもらい、メルクに使い方を教え(前世の友人に美術部員がいて、課題を仕上げるのに昼休みは部室でご飯してた為、見てだいたい覚えた。私の美術の成績には反映されなかった・・・)、これに好きな物を描いてごらんと丸投げ。クラウスが付いてたから私はでき上がりをただ楽しみにしていた。
それができ上がり、今晩初お目見えです。
しかし早いな。画材を渡したの昨日なのに。こっちで一般的な肖像画サイズなんだけど、縦八十センチメートル横六十センチメートルのキャンバス(カンバス?)に描くのに、ほぼ一日で色付けまで終わるって早くない? 水彩だから? 油絵の具より乾きが早いだろうけど、早くない?
あれ?
皆が絵と私を交互に見てる。何よ、何を描いたのかしら・・・?
と覗きこんだ。
「ぎゃあああっ!! 何で私を描いてんのーっ!?」
そこには、カメラ目線で澄ました笑顔のお嬢様な私がいた。
こんなポーズ前世の七五三以来したことないわっ! しかも撮ったことを覚えてない! 成人式はスーツで玄関先での家族写真だよ! しかもこの絵だいぶ盛ってる!可愛い私!ぎゃーーっ!?
皆がニヤニヤする中を一人で騒いでいると、クラウスがもう一枚持って来た。
私の心の準備が終らないうちに、こちらも被せていた布をクラウスがサッと取る。
それには。
亀様をバックに、シロウとクロウを両脇に従え、仁王立ちで腕を組み、悪い顔で微笑む私がいた。
・・・えぇ、広間爆笑ですよ・・・
誰だ、天使と悪魔って言ったのは!? どっちもよくできてるってどういうこと!? やっぱこっちだなって何で仁王立ちの方を指す!?
「ちなみに、もう一枚あります」
と、またもやクラウスが取り出す。
それには、猫(虎)耳、尻尾で、ニッコリお座りしてるサリオンが。
う~ち~の~子、か~わ~い~い~っ!!
広間がほんわりキラキラな空気になった。グッジョブ、クラウス!
いや!違う! どういうことクラウス!?
貴重な画材に、私を二枚も描かせやがって! 恥ずかしいでしょうよ!
「メルクがお嬢様を描いても良いか聞いてきたので、好きなように描いてごらんと言いました。お嬢様がそう仰いましたし」
・・・くっ・・・そうだけど! 言ったけど!
「よく描けていると思います」
出た! クラウスのにっこり攻撃!
ああそうさ!よく描けているとも!
サリオンの、というか白虎の毛並みのリアルな事! サリオンの瞳のキラキラ具合! 髪の毛ふわふわ具合! 色白な肌! ふっくらほっぺ! 華奢な手足! なんて可愛いの!!!
シロウとクロウのもふもふ具合に金色の目の輝き! 凛々しい! もふもふで凛々しいってパニックだよ! 二度美味しい!更に白と黒!!
亀様のこの荘厳さ! 神々しい! すっかり穏やか手のひらサイズ神様だったのが、怒らせてはいけない存在なのを思い出させる!! 格好いいっ!!
こんな素晴らしいのに、何故私を入れた・・・不納得!!物申す!!
「落ち着きなよお嬢。なんだってそんなに騒ぐのさ? 実物みたいに可愛く描けてるよ?」
はあ? マーク何言ってんの? 何で皆頷いてるの?
「こんな五倍増しで描かれたって恥ずかしいだけよ。まあ、笑いを取りたかったんなら許すけど」
あれ? 何? 何で皆、残念な目で私を見るの?
「お嬢」
マークが呆れを隠さずに声に出す。
「ルルーがもしやと言っていたけど・・・、お嬢は、黙っていれば、美少女なんですよ?」
え? 何ソレ? 小さい子補正でしょ?
「そうやってすぐ残念な顔をするけど、黙っていれば美少女だな」
まさかのニックさんにも言われた。 ええ?
「そうそう。黙ってにっこり蕾から現れるからあんなにお客の反応が良いんですよ」
タイトまで。ええ~!?
「お嬢は眠っている時と黙っている時は美少女ッス」
トエルさん。えぇ~・・・
「領地に来た頃は普通に可愛い子でしたけど、背も伸びたし、絵に偽り無しですよ」
ハンクさんまで・・・
が。
「・・・あんたたち・・・! 黙っていればって、一言多いのよっ!!」
しまった!と、マーク、ニックさん、タイト、トエルさんが逃げる。ハンクさんのは許す。
大広間を飛び出し屋敷中を走り回る。
絶対外に出るなよ!屋敷内なら魔法は使わないから!
ニックさんが三人に叫ぶが、甘い! 練習の成果を見るがいい!
大イノシシを捕らえた時の魔力で作り出した網を四人に飛ばす。屋敷への侵入者用にサイズ展開の練習しました。いつ何があるかわからないからね。今日みたいに! うりゃあ!
ぎゃあああっ!
全力で逃げていた男たちが絡まってゴロゴロと転がる。
怪我なんていくらでも治してやるとも、さあ、どおしてやろおかねえ?
次の日。五倍増しで描かれた四人の小ぶりな肖像画が広間に飾られた。
ひ~っ、ひ~っ、お腹いたい! 誰あれ!? どこの王子!? ぎゃははははっ!!
メルク凄い! ハンクさん!メルクの好きなお菓子を作ってあげて~!




